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★ 通じぬ想い


1.ふわふわの夢

ここは東京郊外のとある町にある小さな神社である。住宅街の中にあって、ここだけ は大きなケヤキの木に囲まれているので周囲から隔離されている。ふだんはひっそり として参詣者のいないこの神社も、今日は親子連れで賑わっていた。今日は七五三で ある。

子供の健やかな成長を願う親の思いは今も昔も同じだ。そんな親子連れに混じって、 ひときわ目立つ美しい女性がいた。ちょっとした美人というなら時々見かけるが、彼 女の場合美人な上にどこか華やかな雰囲気が漂っていて、例えれば女優というところ だろうか。間に千歳飴を持ってうれしそうにしている小さな女の子をはさんで一緒に 歩いているのは夫であろう。彼の髪型には特徴的な『ハネ』がある。

『この子も三つになるんだなあ』
『そうね。いろいろ大変だったけど、ここまで無事育ってくれてありがたいことだわ』
『最近スミレちゃんに似てきたんじゃないか』
『あら、ミツ夫さんにも似てるわよ・・・フフ』

ミツ夫と呼ばれた父親は、そろそろ眠い目をし始めた娘を抱っこしてやり、スミレと 手をつなぐ。スミレは体を少しミツ夫に傾けるようにし、うっとりと目を閉じる・・・

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そんな夢を見て幸せそうに眠るのはスミレ。昨夜は久しぶりに仕事が早く終わって、 11時にはベッドに入ることができた。そんな日は幸せな気持ちでいい夢を見ること ができる。

最近何度か続けてこの光景を夢に見た。でもそれにスミレ自身気づくことはなく、目 覚めた瞬間に忘れてしまう。ただ心地よいふわふわした雲のような感じだけを残して・ ・・ でも今朝は違った。 『チュンチュン』 最近庭の鳥箱に住みついている小鳥の鳴き声。ふとしたはずみで気がついたのだが、 目覚め際のもうろうとした気持ちのなかで偶然夢の内容を覚えたまま起きてしまった のだ。 『あらやだ。わたしどうしてあんな夢見たのかしら』 それとともにこれまで何回か続けて同じ夢を見ていたことも瞬間的に意識することが できた。そして、夢と現実のギャップが意識されるとともに次第にガッカリした気持 ちになってくる。 2.日課 その日の夕方、暮れなずむ空のもと、二人はいつものようにパトロールをしていると ころである。 『あら、ブービーはどうしたの?』 『バナナの食べ過ぎでおなかこわしたっていうんだ。まったく食い意地が張ってるん だから』 『それはかわいそうよ。だってブービーはお猿さんなんだから』 『それもそうだな。ま、とにかく今日はブービーの分までがんばろうぜ』 『そうね』 夕陽を背景に、仲良く並んで飛んでいく2人。と、ふとパー子は今朝みた夢を思い出 した。並んで飛んでいる1号の方をそっと伺う。 『ねえ1号、夢見る事ってある?』 『いきなりなんだい?』 『ううん、最近私ちょっと夢をよく見るのよ。それで1号はどうかなって思ったの』 『ふうん。そうだな、ぼくはぐっすり眠るから夢なんて見ないや』 『ふふっ、1号らしいわね』 『それ、どういう意味だい!』 『べつに。言葉通りよ』 『ちぇっ。そういうパー子はいったいどんな夢をみるんだい?』 『ふふふ、ひみつ』 『なんだよ、もったいぶって。教えろよ』 『あら、私の夢が気になるの?』 『そこまで言っておきながら隠すのかい』 『秘密よ』 『教えろよ!』 1号はパー子を追いかけてみるが、かなうはずがなかった。諦めた1号は、くやしま ぎれに言うのだった。 『ちぇっ。パー子じゃどうせろくな夢じゃないだろ。たとえば焼き芋を思いっきり食 べて喜んでる夢とかさ』 『なによ~。レディに対して失礼ね!』 『ウキャキャッ。レディーだって』 『言ったわね~』 またいつものように言い争う2人。今日はブービーがいないので誰も止めてくれない。 しまいには仲違いしてパトロールもそこそこにけんか別れとなってしまった。 3.スミレの家で 『パトロールお疲れさま』 『ねえ、聞いてよコピー』 『少し元気がないみたいだけどどうしたの?』 『最近ミツ夫さんの夢ばかりみるの』 スミレはコピーに夢の内容を話した。もっとも、コピーはスミレ自身のコピーなので そのこと自体はわかっているのだが。 『それでスミレちゃん、自分の気持ちはどうなの?』 『気持ち?』 『ミツ夫さんに対する気持ちの事よ』 『べつに。会うたびにケンカするし。現に今日もケンカ別れしてきたわ』 『・・・』 『でも、どうしてあんな夢見るのかしら。私がミツ夫さんと結婚して子供ができて、、 、なあんてとても考えられないわ!』 『スミレちゃん、もしかして自分の気持ちに気がついてないの?』 『えっ?』 『フフッ。もっとお互い素直な気持ちになれればいいカップルなのに』 『何言ってんのよ!なんで私がミツ夫さんと、、、』 『まあいいわ。そのうちにはっきりすると思うから。でもスミレちゃん、これだけは 覚えていてね。ミツ夫さんのことで悩みがあったら私がいつでも相談に乗るからね。 なにしろ私はあなたのことを誰よりもよく理解してるんだから』 『ありがとう』 コピースミレはいつも冷静で客観的にスミレのことを見てくれる。実はそんな性格も もともとはオリジナルスミレの一部でもあるのだが、最近コピーの方がこのように相 談相手になってくれることが多い。 4.眠れぬ夜 もともと芸能活動をしている関係で眠りにつく時間は不規則なことが多い。それをな んとか切り抜けるために、寝付きが良くなるように自分でも努力してきた。そのおか げで今は寝付きはいい。眠くなくても時間を見つけて眠ることもできる。 しかし、、、 『今晩はなんだか眠れないわ。どうしたのかしら。なんだかわからないけど落ち着か ないわね』 しかたなくベランダに出て空を見上げる。今日は14夜で、澄んだ星空の 真ん中に大きな月が青白い光を放っている。こんなに見事な月夜を見ずに みんな寝ているのかと思うともったいないくらいだ。 『今頃ミツ夫さんぐっすりねむっているんだろうな。そうだ、本当に夢なんか見てい ないのか確かめてこようかしら』 思い立ったら待っていられないのがスミレの性格だ。すぐにパー着してミツ夫の家に 向かう。しょっちゅう出入りしているので、鍵がかかっている時の窓の開け方も心得 ている。難なく窓を外して靴を脱ぎ、中に入った。 『やっぱり眠っているようね。かわいい寝顔だわ』 パー子はそっと枕元に近づき、ミツ夫の額に自分の額を重ね合わせてみる。コピーロ ボットじゃないのでそんなことしても無駄なのはわかっているが、一応やってみる。 ミツ夫の寝息がじかに自分に当たり、どきっとする。 『やっぱりダメね・・・。でも、額を直接くっつけてみたらどうかしら?』 今度はマスクを取り外して同じことをやってみる。 『やっぱりダメか』 『う、う~ん。あれ、うわっ。だ、誰だい』 『し、しまった』 『その声はパー子だな』 マスクをはずしていたのであわてたが、暗いので顔は見られずにすんだ。素早くマス クをつけて・・・ 『あら、こんばんは』 『い、いま何時?こんな夜中に事件かい?』 『そうじゃなくって、ミツ夫さん、ホントに夢なんかみないのか確かめに来たのよ』 『なんだって!いったい何考えてんだよ!』 その時ドアの方から気配がした。 『お兄ちゃん、こんな夜中に何騒いでんのよお。起きちゃったじゃない』 『ま、まずい。早く帰れよ、パー子』 『う、うん』 促されて何となく中途半端な気持ちで帰ることとなった。結局その晩、スミレは明け 方近くまで眠れないのだった。 5.もどかしさ 翌日、一人でパトロール中、偶然ミッちゃんと一緒に帰宅途中のミツ夫を発見した。 2人は学校で同じクラスだからべつに不思議なことはないはずなのに、なぜか気にな る。パー子はとっさに物陰に隠れて様子を伺った。 ミツ夫はミッちゃんと並んでうれしそうな顔をしている。ミッちゃんはそれほどでも ない。 『まあ、ミツ夫さんったらあんなにうれしそうにして!』 なんで気になるんだろう。少し息苦しいような感じを覚える。 とうとう、2人の会話が聞こえるところまで接近した。幸い人通りの少ないところで、 他の人に見られる心配はない。 『・・・昨日のパーマン1号の活躍、かっこよかったわ。私ニュースを見てて感激し たわ。ねえ、ミツ夫さんもそう思うでしょ』 『いやあ、それほどでも。あんなのたいしたことないよ』 『何言ってんのよ。ミツ夫さんは何もしてないくせに!』 『い、いや、そんな意味じゃなくて』 『ミツ夫さんはパーマンの友達かもしれないけど、パーマンのことを悪く言ったら私 が許さないわ!そんなふうにパーマン1号のことを言うミツ夫さんなんか大きらい!』 (バチン) パーマン1号のことになると感情的になりがちなミチ子。ミツ夫に平手打ちを残して 走り去っていった。 『ううう、、、なんでこんな事に。このぼくが、このぼくがパーマン1号その人だっ ていうのに!』 『じゃあそう言ってあげたら?動物になるのを覚悟の上でね』 『パ、パー子。見てたのかい』 『ううん。偶然通りかかっただけよ。それにしてもずいぶんお困りのようね。なんな ら相談に乗ってあげましょうか』 『よけいなお世話だい』 『ミチ子さんの前ではいつもだらしないのね』 『パー子には関係ないだろ!』 『あら、私にも関係あるわ!』 『なんでだよ』 『だって・・・』 『だからどうしてなのさ』 『私にもわからないのよ!』 パー子はなんとなくいたたまれない気持ちになってきた。理不尽なのが自分の方だと いうことは、理屈の上ではわかっている。しかし自分の気持ちをうまく表現できない。 パー子はそういうとそこを飛び去った。 それを見上げてミツ夫は一人つぶやいた。 『昨夜といい今日といい、パー子のやつ変だなあ。体の調子でも悪いのかな?』 鈍感で、深く考え込まないミツ夫だった。 6.つのる寂しさ 夕方になり、いつものパトロールのために2号と3号を呼び出した。ブービーは今日 も調子悪くて出てこられないが、今度はパー子もバッジに出ない。 『おかしいなあ。パー子のやつ、本格的におかしくなったかな?』 その頃スミレ邸では・・・ 『スミレちゃん、どうしたの?涙が出ているじゃない!』 『私にもわからないの。あの夢を見て以来なんだか変なのよ。こんな気持ちになった ことこれまでなかったし、一人でいるときはいつもミツ夫さんのことが思い浮かぶん だけど、ミツ夫さんに会うとかえって寂しくなるの』 『これは本格的な恋煩いだわね!』 『なんですって。私がミツ夫さんのことを・・・』 『違うっていうの?私はあなたなのよ』 『そうだったわね。でも、ミツ夫さんが私を好きになるのならともかく、逆に私がミ ツ夫さんのことを好きになるなんて、くやし~い』 『辛いなら、ミツ夫さんに打ち明けてみたらどうかしら?』 『いやよ。今日だってミチ子さんにでれでれだったんですもの。あんな人になんで私 が・・・』 『・・・』 『でも、だんだん寂しくなってくるってのはどういうことかしら。まるで私の歌の歌 詞通りね』 『スミレちゃん、あの曲、一番好きなのよね』 『うん。でも今度歌うとき、涙が出てきたらどうしましょう』 そのときバッジが鳴った 『パー子、今日はどうしたんだ。パトロールに出てこないで。体の調子でも悪いのか い?』 『そうじゃないのよ』 『じゃあ、どうして出てこないんだい』 『自分でもわからないのよ!』 『あっ、パー子・・・』 バッジを切るパー子。 『スミレちゃん、それでいいの?』 『だって、なんだかいたたまれないんですもの』 7.1号ひとりで 『ちぇっ、パー子のやつ、いったいどうしたってんだい!しかたないや、今日は一人 でパトロールするか』 1号はいつものパトロールコースを一人で飛ぶ。一緒にいるといつもケンカばかりし てしまうが、いないとなんだか物足りなさを感じる。それがなぜだかミツ夫自身にも わからない。 『パー子、だいじょうぶかな・・・』 パトロールも終わりに近づき、いつものように港の方を飛んでいた1号だが、なにや らただならぬ雰囲気を感じた。岸壁にはパトカーや救急車が集まり、その沖合には救 助船が何隻も出ていた。ヘリコプターも飛んでいる。1号はさっそくパトカーに向かっ た。 『おまわりさん、なにかあったんですか?』 『あ、パーマン!貨物船がこの沖合で座礁したんです。乗組員が何人か海に投げ出さ れて行方不明なんです』 『わかりました。すぐに探しに行きます』 『パーマン、よろしく』 勢いよく飛び出したものの、ひとりで片づけるには大きな事故だ。 『こんな時パー子がいてくれればなあ』 といいつつも、まず海に投げ出された人の救出を行う。困っている人を見ると放って おくことはできない。 1時間後・・・ かなりの苦労の末、なんとか乗員の救助を終えた。幸いまだ寒い季節ではないし、乗 組員はみんな救命胴衣をつけていたおかげで、大事には至らなかった。さて、今度は 海底に沈んでしまった荷物の回収にかからなければならない。パーマンとしては困っ ている人を放っておくわけにはいかない。ミツ夫として直接人から感謝されることが ないことはわかりきっているが、見過ごすことはできない。 疲れてはいるが、荷物を探し始める。しかし、ここは東京湾。海水は不透明で見通し がきかない。結局海に潜って丹念に探すという地道な方法しかないのだった。それで も苦労の末、いくつかの荷物を回収することができた。現場に来てからたっぷり2時 間は経過している。1号はクタクタになっていた。 一旦岸壁に戻った1号に対して、 『本当になんとお礼を申し上げていいやら。パーマンのおかげで一人も犠牲者がでな かったばかりか、荷物まで引き上げてもらって』 その様子はテレビでも中継された。 さすがに一人で奮闘したためにくたくたになった1号。答えることもできないほど疲 れてしまった。それでも、 『もう一つ荷物があるということなので、探しに行きます』 1号はひとり海に潜っていった。 8.葛藤 その頃ちょうど1号が活躍している様子をテレビ中継 していた。スミレは家でそれを見ている。 『1号、がんばっているのね。それなのに私ときたら・・・』 そのとき、テレビ中継で、 『先ほど最後の荷物を回収するために再び海底に潜ったパーマン1号ですが、なかな か出てきません。どうしたんでしょうか。パーマンのことですから心配はないとは思 いますが、でも少し気がかりですねえ』 レポーターが心配そうに伝える。 『ミツ夫さん、まさか何かあったんじゃ・・・私、行かなきゃ』 スミレはそれまでの気持ちにかかわりなく、反射的に体を動かした。 ・・・ その頃海底では1号が疲れのためにうっかりとバッジを落としてしまっていた。この あたりの水深ではすぐに全速力で上に上がれば間に合ったのだが、少しバッジを探し ている間に間に合わなくなってしまったのだ。気がついたときにはすでに息が苦しく、 浮かび上がっても間に合いそうになかった。 遠い海面がずっとずっと上の方で深緑色のガラスのように輝いていた。それを見なが ら、とぎれそうになる意識の中でミツ夫はつぶやいた。 『パー子・・・来てくれ・・・』 気を失ったまま1号は運良く水上に浮かび上がったのだが、潮流に流されて、最初に 潜った場所からかなり離れていた。 ・・・ パー着してすぐに現場に向かったパー子は、もどかしい気持ちで現場に急いだ。11 9kmのスピードも今日は遅く感じられる。到着まで10分とかかっていないのだが、 パー子には長い長い時間に感じられたのだった。 『1号が潜ったのはこのあたりね』 見当をつけたあたりで潜って、1号を探しはじめた。 『視界が悪いわ。バッジで呼んでみましょう』 (1号、1号、返事して!) しかし、1号からの返事はない。 『もしかしておぼれたんじゃ・・・』 海中は視界がきかないので、捜索もはかどらない。パー子の不安は 次第に大きくなってくる。 『まさか!もしかして流されたのかしら・・・』 『そうだ、前に潜水艦を探したときにたしかパーやんが潮の流れを計算してたわね』 一旦海から出たパー子は、海に浮かぶゴミの流れを注意深く観察した。その速度から、 おおよその潮流を確かめたのだ。 『流されたとすれば、この方角ね』 潮流の方向に飛んでみる。そして2~3分飛んだだろうか。行く手の海上に太陽の逆 光にシルエットになって黒い影がひとつ浮かんでいるのが見えた。 『あれは・・・』 近づいてみると1号だった。上を向いて海に浮かんでいる。すぐに近寄るが、目を閉 じている。 『1号、1号、しっかりして!』 9.命の恩人 パー子はすぐに1号を抱えて、そこから一番近いと思われる陸地に運んだ。そこは殺 風景な工場地帯のまっただ中で、あたりに誰も見あたらないという点では樹海や砂漠 と同じだった。 1号を寝かせたパー子は、誰もいないことをよく確認した上でマスクとマントをはず してやった。バッジはつけていなかったのだが、それに気がつくほどパー子の気持ち に余裕はなかった。 『息をしているのかしら・・・』 しているのかどうかよくわからないほど、息が弱い。顔は真っ青で 唇は紫色になっている。 パー子は冷たくなっているミツ夫の口に自分の唇をかさねると、ゆっくり息を吹き込 んでみた。 (お願い、ミツ夫さん、目を覚まして。お願い。目を覚ましてくれないと私、私、、 、) びしょぬれになっていることも忘れて必死な想いで人工呼吸を続けるうちに、それま で死んだようにぴくりともしなかった1号が、急にむせかえった。 『ごぼっ、ごぼっ』 水を吐き出す1号。顔色がややピンク色に変化した。 『ミツ夫さん!気がついたのね!』 『ぱ、パー子』 『生きててくれたのね』 『パー子が助けてくれたのかい』 思わずミツ夫を抱きしめる。 『お、おい、マスクをつけてるんだからそんなに強く抱きしめないでくれよ。背骨が 折れるよ』 『ご、ごめんなさい。でも私、うれしくて。ミツ夫さんがこのまま死んでしまったら どうしようかと思って。そうなったらわたし、わたし、、、』 『おい、もう助かったんだからそんなに泣くなよ。とにかくパー子はぼくの命の恩人 だね』 『ありがとう。私、自分の気持ちに振り回されてパトロールもしなかったからミツ夫 さんをこんな目に会わせてしまって。これからはもっと素直になるわ』 『パー子も何か辛いことがあったみたいだな』 その一言に、これまでのもやもやした気持ちが吹き飛んでしまった。 『ううん、もういいの。もう大丈夫なの』 パー子の大きな瞳は潤んでいる。しかしミツ夫は気がつかない。 (パー子のやつ、ぼくが助かってそんなにうれしいのか・・・) ミツ夫は息を吹き返したとはいえ、たった今まで呼吸が止まっていたほどなので、ま だ力無くぐったりしている。そんなミツ夫をパー子が抱きかかえてくれている。 『あ~あ、これじゃあ家へ帰れないなあ。ママになんて言えばいいかわからないし。 洋服もびしょびしょだし』 『ミツ夫さんはよけいなこと考えないで。あとは私に任せなさい』 『おいっ、任せなさいって・・・』 とにかくミツ夫が助かったことにパー子は胸をなでおろしたのだった。そしてミツ夫 を残し、彼のパーマンセットも持ったままパー子は飛び去った。 『あっ、パー子。ぼくのパーマンセットは・・・』 うっかりもののパー子はもう見えなくなっていた。ミツ夫は体に力が入らないし、パー マンセットもないので、しかたなくそこで横になっているしかなかった。 10.顛末 それから短時間のうちにパー子はいくつかの『後かたづけ』を行った。 まず海底に落とした1号のバッジを探し当て、それから心配している関係者に1号が 無事であることを連絡し、ついでにミツ夫のコピーにも事情を話した。そして大急ぎ でミツ夫のもとへ帰ってきたのだった。 びしょぬれで弱っている1号をそのまま返すこともできないので、スミレの部屋に運 ぶことにした。 『ミツ夫さん、このまま帰ったんじゃしかられるでしょ。私の家で服を乾かして行け ばいいわ』 『えっ、パー子の家に・・・』 (これはパー子の正体がわかるチャンスかも・・・) 『ただし家に着くまで目を閉じていてもらうわよ』 『えっ・・・』 パー子はそう言ったかと思うと、ミツ夫を抱きしめて、顔を自分の胸にしっかりと押 しつけて何も見えないようにするのだった。パー着しているパー子を相手に、ミツ夫 はなすすべがない。 『お、おい、パー子。これじゃ苦しいよ』 もがくミツ夫にパー子は言い放った。 『少しの辛抱よ。我慢しなさい』 『ちぇっ。厳しいなあ』 ・・・ 結局パー子はスミレ邸にミツ夫を連れ込んで、洋服を洗濯してミツ夫を風呂に入れて やり、スミレのベッドで休ませた。パー子は彼女なりにミツ夫に尽くしたのだった。 落ち着いてからミツ夫は再びパー子に抱えられ、結局そこがスミレ邸であることに気 がつかないまま自宅に戻ったのだった。 ・・・ 翌日、一緒にパトロールをする二人。 『パー子、なんだか久しぶりって感じだね』 『そうね』 『今日は元気そうじゃないか』 『ミツ夫さんのおかげよ』 『ぼくの?どうして?』 『フフフ。秘密』 『なんだって、また秘密かい。教えろよ』 『ダメよ』 『おいパー子、待てよ・・・』 こうして二人はいつものように追いかけっこに興ずるのだった。 (終わり)

©Violet