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★ 雨の街角


(はじめに)星野スミレの曲『雨のSweet Magic』をイメージして書いてみました


『あ~あ、とうとう降ってきちゃった』

ミツ夫は途方に暮れた。

6月も終わりに近いある日の午後のことだった。今日はママに頼まれてめずらしくお 使いでおばさんの家へ行った。その帰り道、さっきまでおひさまがが出ていたのに急 に雲がかかり雨になったのだ。帰り際にお駄賃をもらって気分が弾んでいたのだが、 少し落ち込んでくる。

まだ赤ん坊の頃にママに連れられておばさんの家に来たことがあるそうだが、物心つ いてからははじめてなので、このあたりの地理には疎い。今歩いている道もはじめて 通るところだ。このあたりは比較的大きな区画の住宅街で、道の両側にはそんな家々 の塀が連なっている。ところどころに小さな商店もあるが、街中にしては人通りが少 ない。

見たところ、雨宿りできそうなところはどこにもない。かといって急いで走らなけれ ばならないほどの降り方でもない。つまり中途半端な降り方なのだ。

空を見上げると、あちこちに雲の切れ間がある。そこからのぞいている空の青さがあ たりを照らしているようで、街も何となく全体に水色に染まっていた。そんな街にうっ とりとしてしまい、しばし雨が降っているのを忘れたほどだった。

『このまま濡れていくのもいいかもな』

とミツ夫。やがて雲間からは太陽がのぞき、そのせいか雨の降っている向こうの方、 やや黒い雲のかたまっているあたりに、鮮やかな虹が現れた。

その虹のちょうど下のあたりがミツ夫の向かう方向になっている。視線をふとそちに 戻すと、ちょうど一人の少女が歩いてくるところだった。とくに変わったことではな い。しかし、虹の間からこちらに向かうその姿が今の天気にあまりにもぴったりで、 意識が飛んだように見とれてしまっていた。

一瞬の後我に返ったミツ夫は、少し観察的な目でその子を見た。自分と同じくらいの 背の高さ。ピンクの傘に隠れて顔が見えないが、白いワンピースとブーツが印象的だ。 そんな彼女を慕うように白い仔猫が後ろについて歩いている。女の子はまるでステッ プを踏むように楽しそうに歩いている。

『よほど楽しいことがあったのかな?』

ミツ夫は思わず立ち止まってその子を見つめてしまった。それに気がついたのか、女 の子は傘を少し前に傾け、顔が隠れるようにしたようだった。

やがてその子との距離が縮まり、とうとうすれ違うという瞬間、横顔がちらっと目に 入った。残念なことに目は見えなかった。しかし、口元から形の良い鼻筋、ショート カットの髪、そして黄色いカチューシャが印象的だった。歌を口ずさんでいるようだっ たが、あいにく何の歌かはわからなかった。そかしその声のきれいなこと!どこかで 聞いたことがあるような気もするが、そんなはずはないと思い直す。後ろ姿を振り返っ て見ると、短めのワンピースからすらりと伸びる足が、いつまでもミツ夫の脳裏に焼 き付いていた。

『いったいどこの子なんだろう』

ミツ夫は気になった。とはいえ追いかけて行って尋ねる勇気はないし、仮に話しかけ たとしても初対面の女の子と何を話せばいいのか全然思いつかなないのだった。

遠くの方で、女の子は仔猫を抱っこしてやっているようだった。その間もこちらを振 り返ることはなく、結局顔を見ることはできなかった。しかしミツ夫の中ではなぜか その子の顔がひとつのイメージとして形作られていた。

『まだ見ぬ美少女・・・』

ふだんのミツ夫らしからぬ感傷的な言葉が口から飛び出した。

その日の夜・・・

『ミツ夫くんも気が多いな~』

話を聞いてコピーはからかっている。

『なんだって!』
『だってきみはいつもミッちゃんにあこがれているじゃない。それに本命はパー子さ んでしょ』
『ミッちゃんはともかく、パー子ってなんだい!』
『そうかな~』
『とにかくパー子なんかどうでもいいけど、ミッちゃんには悪いような気がするなあ』

ミツ夫の顔が少し曇る

『そんなの気にすることないよ。だってミッちゃんはミツ夫くんに気があるわけじゃ ないんだから』
『それもそうだな。えっ、な、なにを!おまえなんかこうだ』

といったかと思うと、ミツ夫はコピーの鼻を押してしまった。おもわずカッとなって しまったが、考えてみるまでもなくミッちゃんが自分に気がないことはわかっている。 ミッちゃんの好きなのは1号なのだ。そのことがミツ夫にとっていつもジレンマとなっ ている。

『ミッちゃんも、あんなに1号に夢中なんだから少しくらいぼくにも興味持ってくれ ても良さそうなものなのになあ』

思わず愚痴っぽい言い方になってしまった。

『それにしても、今日のあの女の子、どうしてこんなに気になるんだろう。ぼくって 浮気性なのかな?まあ、気にしても仕方ないし、忘れようっと』

こんなとき、くよくよしないのがミツ夫の得な性格だった。しかしその夜、何度もそ の子のことを夢に見てしまい、ちょっとした恋煩いのような状態になってしまったの だった・・・

その頃、星野スミレ邸では・・・

『まさかあんなところでミツ夫さんとすれちがうとは思わなかったわ。さいわい星野 スミレだってことに気づかれなかったみたいだけど』
『気がついてもらった方が良かったんじゃないの?』
『どうしてよ』
『あら、それをきっかけにおつきあいできたかもしれないじゃない』
『ダメよ。ミツ夫さん、ミチ子さんに心を奪われてるんだから』
『そうかしら・・・』
『それにわたし、パーマン3号として気がついてもらいたいんだもの』

そんな会話がスミレとコピーの間で交わされていた。

翌日、いつものパトロールで・・・

『あら1号、今日はどうしたの?元気ないじゃない』
『そうかい。別に何ともないよ』

無愛想に答える。それが癪に障り、パー子は問い返した。

『何があったか白状しなさいよ。私の目はごまかせないわよ』
『何でパー子に問いつめられなきゃならないんだよ』
『とにかく白状なさい』

言ったかと思うとパー子は1号の首を絞める。

『うわあ・・・た、助けて』
『じゃあ話す?』
『は、話すからとにかく首をしめないでくれよ』

ようやくパー子の手が1号の首から離れた。腕力ではいつもパー子が上である。

『ごほっごほっ・・・まったく死ぬかと思ったよ。パー子もすぐみさかいつかなくな るんだから・・・』
『なんですって!』
『い、いや、何でもありません』
『さあ、早く話しなさい』
『いや・・・なんていうか、その・・・』
『男らしくいさぎよく話しなさいよ!』
『じつは昨日道を歩いてたら女の子とすれちがってね・・・』

パー子は一瞬ビクッとした。おそらく自分のことなのだ。

『それで?』
『何ていうか、その・・・』

1号の顔はマスクに隠れてわからないが、真っ赤になっているようだった。

『もしかしてその子のことが好きになったの?そうでしょ!』

パー子の声がうわずってきた。

『べつに。ただちょっと気になるだけさ』

1号は仕方なさそうに答えた。

『それでどこの子かわかったの?その子と話した?手くらいつないだの?』
『そうまくしたてるなよ。別に顔を見たわけじゃないし、ましてや話なんかしてない さ。ただその子が歌を口ずさんでいたのをすれ違うときに聞いただけだよ』
『まああきれた!それじゃあ顔も見ずに話しもしていない一度すれ違ったきりの女の 子を好きになったっていうの?私なんか毎日のように会ってるっていうのに!』

最後の言葉は幸い1号が舞い上がっていたので伝わらなかった。

『別に好きになったわけじゃないよ。ただ気になるだけさ』
『ううん。私にはわかるわ。あなたはその子を好きになったのよ!』
『なんだよ。ずいぶんしつこいじゃないか。それに仮にぼくが誰を好きになろうとパー 子と関係ないだろ!』
『んまあ、失礼ね!これでも1号の力になってあげようと思ってるのに』
『うひゃひゃひゃひゃ。パー子が力になるって!いったいどうやって?』
『そんなに言うならその子に会わせてあげようじゃない!』
『ほんとかい?でもどうやって?どこの子かわからないのに』
『私にはわかるの』
『えっ!どうしてだい?』
『・・・・』
『ねえ、どうしてパー子が知ってるんだい?』
『とにかくだまされたと思って明日の夕方にその子と出会った場所で待ってなさい! いいこと、プレゼントくらい用意しておくのよ!』

言ったかと思うと1号の返事を聞こうともせずパー子は飛び去った。

『あ、おい、今日のパトロール、、、』

ということで1号は一人パトロールを行い、家に戻った。

『パー子のやつ、いったい何を考えているんだろう。だいたいぼくが彼女と会った場 所すら話してないのにどうしようっていうのかな、、、』

と半信半疑ながら、万が一本当にあの子に会えるならという淡い期待も心の中に沸い てくるのだった。

『パー子さんがそういうのなら何かあるかもしれないから一応行ってみたら?』
『コピー、おまえいつもパー子の肩を持つんだな』
『い、いや、別にそういうわけじゃないけど、何となくパー子さんの気持ちもわかる ような気がするだけだよ』
『おまえってぼくのコピーなのに少し性格が違うんだな。何ていうかこの、、、うー ん、わからないけど、、』
『とにかく明日は一応約束の場所に行ってみなよ』
『ぼくもその気になってきたよ。まあ、だまされたと思って行ってみるか』

翌日の夕方、見覚えのある街角。場所と時間が同じなら、空模様までこの間と同じよ うになってきた。

『あーあ、とうとう降ってきちゃった。こんなことなら傘を持ってくるんだったなあ』

そういいつつもミツ夫は先日あの子がやってきた方向を何となく眺めている。手には なけなしのお小遣いで買ったばかりのバラの花束があった。

『パー子の言うなりになってこんなものまで買っちゃったけど、ほんとに来るのかな・ ・・もし出任せだったらパー子のやつどうしてくれよう、、、』

と言いつつも胸が高鳴ってくる。

その時、向こうの方に人影が現れた。ピンクの傘、白いワンピース、白のブーツ。仔 猫はいないけど、この間の子にそっくりだ。

『ま、まさかとは思ったけど、本当に、、、』

胸がドキドキし、息が詰まりそうな感覚を覚えた。彼女の歩みはずいぶんゆっくりし ているように見えたが、声が聞こえる距離に近づくまでせいぜい1、2分だったろう。 そのとき、あの歌声が耳に入った。

『あ、あの声だ!』

とうとうその子はミツ夫の真ん前まで来て、そこで立ち止まった。明らかにミツ夫と そこで出会うことを予知していた止まり方だった。おそらくパー子が話をしておいて くれたのだろう。

『あ、あの、、、』

いざとなったらやっぱり何といえばいいかわからない。ミツ夫は真っ赤になっている。 彼女の方は相変わらず傘で顔を隠している。

『こんにちは。またお会いしましたわね』

意外にも親しげな話し方だった。初対面とは思えない。

『ということはこの間すれ違ったときのこと、覚えてくれていたの?』
『ええ、そうですの』
『あ、あの、これ、プレゼントです』

ミツ夫は何を言っていいかわからず、唐突にも花束を渡そうとした。不自然な行動だ が、彼女の方は一向に驚かず、丁寧に、しかしうれしそうに答えた。

『これを私に?まあうれしいわ』

受け取ると、ミツ夫の手を握った。これも意外だったが、華奢に見えるその手の力が ものすごく強かった。大袈裟ではなく指の骨が折れるのではないかと思ったほどだっ た。

『いたたっ』

うっかりと漏らしたミツ夫の声に彼女は、

『あら、力加減を間違えたわ。ごめんあそばせ。で、このプレゼントのお礼をさせて いただけるかしら?』
『えっ、そ、そんな、、、お礼だなんて、、』
『少し目を閉じてくださる?』
『う、うん』

ほとんど言われるままに行動するミツ夫だった。目を閉じたかと思うと傘を閉じる音 が聞こえ、そして、、、

『えっ!』

ミツ夫の頬に柔らかくて少し冷たい唇が触れた。そして彼女が言った。

『私、あなたのガールフレンドになってもいいかしら?』

驚いたミツ夫は目を開いた。そこに見えたのは

『パ、パー子!なんでここに』

いつものマスクをかぶったパー子がそこにいた。

『あら、鈍いわね。私がその彼女なのよ!』
『ま、まさか、、、』
『きれいな花束どうもありがとう、ミツ夫さん』

パー子は別に悪びれた様子もなく、心から花束を喜んでいるようだった。

『それじゃあ、自分で自分にプレゼントを、なんて言ってぼくをだましたな!』
『あら、だましてなんかいないわよ。ちゃーんとあこがれの謎の美少女に会わせてあ げたじゃない』
『美少女かどうかわかるもんかい!』

マントを付けたパー子は宙に浮いて言った。

『このお花、大切に飾っておくわ。じゃあね』
『あ、待てよ』

あっという間にパー子は飛び去った。ミツ夫はそれからどのようにして家に帰ったか よく覚えていない。頬に触れたパー子の少し冷たい唇の感触だけはいつまでも残って いた。

『ちぇっ、結局パー子に一杯喰わされたな。あーあ。こんなことなら花なんか買わず にお小遣い取っておくんだった』

何か大切なことを忘れているような気がしながらも、いつものようにそれ以上深く考 えなかった。ただ、今回の騒動がなぜか爽やかな風のようにしばらくミツ夫の心に残っ ていた


(おわり

©Violet