sumiredan_b.gif(5572 byte)

トップページ > マイ・スミレダン > パットさんの世界 > 赤いマスクの女の子


★ 赤いマスクの女の子


空は晴れわたり、さわやかな風が肌に心地よい季節。
そんな五月晴れの空をパーマン1号と3号は並んで飛んでいた。
「気持ちいいわね~、新緑もホントきれい。」
パー子は眼下の風景を見ながらつぶやく。
「チェッ、ちまたはゴールデンウィークだっていうのになんで仕事なんだよ。」
「文句言わないの。ゴールデンウィークだって働いている人はたくさんいるのよ。これから行くスミレちゃんだって大忙しなんだから。」
「分かってるよ。口に出すくらいいいだろ?べーッだ。」
1号はパー子にアッカンベーをする。
「アアッ、よそ見してると危ないわよ!」
「ワワッ!」言ったそばから大きなコイノボリに突入する1号。

今日は星野スミレの自宅の警備が仕事だ。と言っても星野スミレ自身は不在である。
海外ロケのため、留守にする間、警備を依頼されたのだ。
「相変わらずでっかい家だな。掃除も大変そうだね。」
プール付きの広い庭に囲まれた邸宅が見えてくる。世田谷の閑静な住宅地であり、いくつかの豪邸が周辺にあるが明らかに星野スミレ邸は別格だった。
「お掃除は家政婦さんがやってくれるわ。今日は連休でいないと思うけど。」
「ふーん、でもこんなに広い家何人で住んでるんだろうね。」
「家政婦さんとシェフとお手伝いのおばあさんとスミレちゃんのママとスミレちゃんよ。」
「君、よく知ってるなあ。」
感心しながら玄関ポーチに着地する。道路に面した門はパスした恰好だ。
「スミレちゃんのお友達だもん。」3号も着地する。
門からのアプローチは長く、両側にはソテツなどの庭木が美しく手入れされ、とても都内の個人住宅とは思えない。
ドアをノックしようと、ノッカーを触る1号。
「あっ、ちょっと待って!」3号は慌てて制止するが遅かった。
ビリビリビリッ
「アワワワワ」
1号は急いで手を引っ込める。
「インターホンで受付してからじゃないと電気が流れたままなのよ。」
「早く言ってくれよぉ。」
まだしびれたままの1号がつぶやく。
「こんにちは。お留守の警備に伺ったパーマンです。」
3号はドア横のテレビドアホンに向かって話しかける。
すると程なく応答が帰って来た。
「ああ、お待ちしてました。どうぞお入りください。」お年寄りの女性の声だった。
「お手伝いさんのおばあちゃんね。」3号は1号の顔を見ながら言う。
二人がドアを開けるとそこは広い玄関だった。
天井は吹き抜けで明るい光が差し込み、壁には窓のステンドグラス越しの色鮮やかな光が映り込んでいる。
「ようこそ、来てくださいました、パーマンさん。待ってましたよ。」
廊下の奥から和服に白いタスキを掛けた小柄なおばあちゃんが歩いて来た。
手にはナギナタよろしく長い棒を持っている。
「今日は警備という事で伺ったんですがやっぱり何か事件でもあるんですか?」
おばあちゃんのものものしい姿を見て1号は思わず尋ねる。
「いえいえ、留守を預かった限りはこの身に代えてもこの家を守る所存でございます。曲者め、来るなら来いじゃ!」
「いやはや、元気なおばあちゃんだね。大丈夫かな?」
3号に耳打ちするように小声で話す。
「気持ちだけは若いのよ。とってもいい人なんだから。」
3号も小声で応える。
「何を二人でコソコソと。まずはこちらへいらっしゃい。」
おばあちゃんは二人のひそひそ話を気にも留めずにさっさと廊下の奥に歩いてゆく。
二人は慌てて後に続いた。完全におばあちゃんのペースだ。
暫く歩くと廊下に面した大きなドアを開け、中に入ってゆく。
「おじゃまします。」
なんとなく声を掛けて身を縮めながら1号は中に入った。その後を3号も続く。
「さあ、まずはお座りなさい。」
部屋はリビングかと見まがう程広いが中央には大きな食卓があり、ここがダイニングであると分かる。
食卓の脇にはカウンターがあり、奥の対面型キッチンにつながっている。
シェフの使う厨房とは別に家族で使うためのものだろう。
(いつもここでスミレちゃんはご飯を食べてるんだな)
アイドルのプライベートを垣間見た気がして1号は妙に感激する。
食卓の上に目をやるとショートケーキと紅茶がお皿と共に二人分載っていた。
顔を見合わせる1号と3号。
パー子も意外そうな雰囲気だ。
「なにをしてるんじゃ。紅茶がさめるじゃろ。座った座った。」
再び急かされて二人は慌ててイスに腰掛ける。
紅茶の置かれた通り座ったので仲良く横並びだ。
それを見ておばあちゃんは初めて顔をほころばせて言った。
「お似合いじゃね。二人とも。スミレお嬢様の言っていた通りだね。」
「お、おばあちゃん!」
パー子は顔を真っ赤にして言う。
「スミレちゃんがなんて?」
1号は突然の言葉におばあちゃんに問いかけた。
「スミレお嬢様はいつも言ってるよ。パー子さんと1号さんはケンカばっかりしてるけどホントは凄く仲が良いとね。自分も羨ましいとも言っとったよ。」
ニコニコしながら続けた。
「そんな、御冗談ばっかり。」
パー子は内心焦りながらも顔は笑って取り繕う。
「そうですよ。こんなお転婆、いつも苦労してるんです。」
1号はいかにも困った顔で返答する。半分照れ隠しもあるが。
「まっ、言ってくれるわね。フンだ!」
3号も殊更大げさにソッポを向く。
「ホホ、パー子さんを見てると小さい頃のスミレお嬢様を見ているようだわ。ああ懐かしい。」
おばあちゃんも二人の対面に座り、ニコニコしながら言う。
「エ~ッ?スミレちゃんがパー子に似てる?冗談きついですよおばあちゃん。」
「いやいや、きっとスミレお嬢様もそんなところが気に入ってパー子さんと親友になったんじゃろう。」
「おばあちゃんから見てスミレちゃんは今、どう見えるんですか?」3号は尋ねる。
「まあ、ケーキでも食べて。時間はたっぷりあるんじゃから。」
「は、はい。」
二人はケーキを小さく切って口に運び、紅茶をすする。
「あ、スミレちゃんの写真。」
1号は飾り棚や出窓のカウンターに置かれている星野スミレの写真を目に留める。
「ちっちゃい頃から可愛いかったんだ。」
3歳位のワンピースを着た姿や6歳位のオーバーオールを着た姿などがそこにあった。
確かに活発そうでいたずらっぽい目をしている。
いつもテレビや映画で見るスミレとは違う感じだ。
確かにパー子の目に似ているような気もする。
最近の写真ももちろんあるがそれはいつも見るスミレの表情だった。
「あれ?スミレちゃんいつも一人だね。」
1号は写真に写るスミレがいつも一人である事に気が付いた。
満夫の時、自分の写真には両親や妹、近所の友達などが必ず一緒に写っており賑やかだ。
「なんだか、スミレちゃん寂しそうだな・・・なーんてそんな訳ないよね?」
1号は思わず呟くが慌てて自らそれを否定する。
「いやいや、パーマンさん、スミレお嬢様は多分寂しいんじゃよ。私はお嬢様が生まれた時分からずっと見てきたが芸能界に入ってからというもの、忙しくて忙しくて、とても普通のお宅のお嬢さんとは比べようもない違った生活を続けておる。お父様は海外での仕事が長く、年に何度も会えず、お母様もお忙しい方でスミレお嬢様とはいつも行き違い。手紙やメールで会話をしているそうな。わたしはそばでお世話しながらもたまに不憫に思う事もあるんじゃ。でもそんな事を口に出そうものならスミレお嬢様は『そんな事はない。わたしは十分幸せだから心配しなくていい』と逆にたしなめられる始末。本当に強いお嬢様だ。」
「可愛くて清楚なスミレちゃんが見えない所でそんな風に頑張っていたなんて・・・」
1号は改めて最近のスミレの写真を見る。
その笑顔が可憐であればあるほど心が締め付けられてくる。
「そんなお嬢様に変化が見えてきたのがパーマン、あなた方の登場じゃよ。特にパー子さん、あんたのおかげじゃ。」
「エッ?あたし、 ですか?」
3号は自分の胸を指さす。
「そうじゃよ。特にパー子さんがお屋敷に出入りするようになってからは本当に明るくなられた。お仕事の方も以前に増して前向きになった。今のアイドル、星野スミレお嬢様が存在するのはパー子さんのおかげとわたしは思ってるんじゃよ。」
「そ、そんな。あたしなんてただスミレちゃんのところに遊びにきているだけでなにも・・・」
「いーや、パー子さん。あんたは本当は心優しい子じゃ。細かな配慮もできて、何より人の寂しさや悲しみを理解することができる人じゃ。まあ、パー子さんに限らず、1号さんも同様じゃろうがな。」
1号に顔を向け、ニッコリと笑う。
「パー子が優しくて、配慮が効く?」
1号は信じられないといいたげに3号の顔を見る。
「なによ、その顔は!あたしは1号以外の人にはいつも優しいの!おあいにくさま!べーッだ!」
1号はいつもの事ながらムカッ腹が立つ。
言い返えそうとするところにおばあちゃんの一言。
「パー子さんにとって1号さんは特別なんじゃね。」
その声を聞いて思わず下を向く3号。
同時に腕を組み不満そうに上を向いて呟く1号。
「どうせ僕とは特別仲が悪いですっ!」
相変わらず鈍感だ。
「やっぱり男の子じゃねぇ。」3号と1号を見比べて微笑む。

星野スミレの芸能界での成功の陰にはパー子の存在が欠かせなかった。
その意外な事実を知り、改めて3号の顔を見つめる1号。
なんとなくいつものお喋りでガサツなだけな3号とは違った雰囲気を感じるのだが、それをはっきりと意識する事はなかった。

「ごちそうさま。美味しかったです。」
「それじゃ僕たち巡回を始めます。」
「はいはい、よろしくお願いしますよ。」
二人は暫く一緒に廊下を歩くがおばあちゃんの一言が気になってなんとなく無口になってしまう。
「ひ、広い家だし二手に分かれてパトロールしようか。」
「そうね、そうしましょ。」
3号もおばあちゃんの言葉が少しショックでなんとなく一人になりたかった。1号の提案は渡りに舟だった。

1号は広い居間に入る。居間は吹き抜けになっており、絨毯敷の螺旋階段が設けられ、ソファとグランドピアノが置かれている。
家族団欒の無いリビング。
その広さが一層スミレの感じているであろう寂しさを際立たせる。
1号は螺旋階段をゆっくりと登り、2階の廊下に出た。
廊下の突き当たりからは明るい光が入って来る。おそらく外の光だろう。
そのまま真っ直ぐ進み、ガラスドアを開ける。 バルコニーだった。
広い庭が一望できる。
1号は大きく伸びをした。
一体今日はどういう日なのだろうか。
星野スミレの自宅の警備と聞いて喜んだのも束の間、スミレは不在という。
一体なんの目的の警備なのだろう。
確かに空き巣に入られる可能性はゼロではない。
しかしパーマンがいる事が分かればほとんどあり得ないだろう。
ある意味自分達がいる事自体が重要であり、こうしたパトロールの必要性は、はなはだ疑問だ。
そんな事を考えながら廊下に戻る。
その時、ピアノの音が聞こえてきた。
1号は居間の方向に戻る。
おそらく居間のグランドピアノだろう。
誰が弾いているのだろうか。
1号は2階のホールから吹き抜けの居間を見下ろした。
ピアノを奏でる人物、それは3号だった。
なめらかなその旋律は大人顔負けの演奏だった。
やや重々しい、寂しげなその音色はスミレの孤独感を表しているようだ。
それを3号が一心に弾いている。
1号はなぜか3号にスミレの姿を重ね合わせて見ていた。
曲が山場を迎えて指の動きが早くなる。見事な演奏だ。
聞いている1号も引き込まれてゆく。
しかし、演奏は突然止まった。
1号はピアノの前に座る3号の姿を凝視した。

3号は泣いていた。

マスクのため、直接涙は見えないが1号にはそれが分かった。
意外な3号の姿を見た1号は声を掛けることもできず、その場に立ちすくんでしまった。
目だけが3号の姿を追う。

3号はイスから立ち上がるとゆっくりとソファに歩いて行く。
1号からはソファは見えない位置だった。
数歩移動し、3号とソファが視界に入るところまで来ると腰を屈め、吹き抜けに面した手摺から覗き込むように3号を見る。
ソファにはおばあちゃんが座っていた。
頭を垂れ、眠っているようだ。
3号は優しく毛布をおばあちゃんに掛けてあげている。
そしておばあちゃんの隣に座ると両手をスカートの膝の上に組み、うつ向いた。

(パー子・・・)
1号はおばあちゃんの言葉を思い出し、反芻する。

人の寂しさ、悲しみを理解できる子。

その時、1号はふと気が付いた。
(パー子、もしかして君自身が寂しさや悲しみを抱えているんじゃないか?)
考えてみればお転婆な様子から時折見せる優しさ、恥じらう仕草。
それらに隠されたマスクの下の想い。
1号はこれまで3号の表面的な部分しか見て来なかった事に気が付いた。
いや、見えていたのに知らず知らずのうちに意識から排除していたのかもしれない。
今こうして3号のうつ向いた姿を見ているとなぜか胸がキュンと締め付けられて来る。
(な、なんでパー子の事でこんなに胸が苦しくなるんだ?僕が好きなのはミッちゃんなんだぞ!)
いつもの言葉が繰り返される。
しかし、1号は既に気付いていた。いまだかつて、ミチコにこのような気持ちを抱いた事はなかった。
明らかにミチコに対するものとは異なる、生まれて初めて感じる気持ち。
(何かしてあげなくちゃ!パー子が悲しんでいるんだ!)
悲しんでいる理由も分からない。自分が何を言ってやれるかも分からない。
しかし、いても立ってもいられなくなった1号は3号のそばに駆け寄ろうと階段を降り始めた。
と、その時、突然警報が鳴り始めた。
その音に真っ先に反応したのは眠っていたはずのおばあちゃんだった。
ソファから跳ね起きると叫ぶ。
「曲者じゃ!曲者が窓をやぶった!」
そして居間の壁に設けた警備のメイン機器を見て続ける。
「厨房の窓が破られておる。パー子さん、いざ出陣じゃ!」
「ハイ!」
おばあちゃんの大時代的な掛け声に3号は素直に従い、おばあちゃんと共に厨房に向かう。
その時1号が二人の前に降り立った。
「あっ、1号。侵入者よ、厨房らしいわ!」
「よし!分かった!」
そしておばあちゃんに向かって優しく、しかしキッパリと言う。
「おばあちゃん、あとは僕とパー子に任せてください。ここから先は僕たちパーマンの仕事です。」
「分かりました。それではパーマンさん、頼みましたぞ。」
1号はニッコリ笑って大きく頷くと3号に向かって言った。
「パー子、おばあちゃんを外に避難させてくれ。」
「了解!」
「それから厨房はどこだい?」
「さっきのダイニングの入口ドアがあるわよね。その廊下を挟んだ向かい側のドアよ。すぐに戻るから1号も気をつけてね。」
「分かった。おばあちゃんをよろしく!」
1号は走って厨房の入口まで行ったがそこには開け放たれたドアがあった。
さっきまで閉まっていたはずだ。つまり侵入者は既に室内のどこかにいる。
「どこに潜んでいるんだ?面倒な事になったぞ。」
1号は辺りをキョロキョロ見回す。
「アッ、足跡だ。」
良く見ると、うっすらと厨房のドアから玄関に向かって足跡が続いている。
庭の土が靴底に付着していたのだろう。
前方を注意しながら足跡をたどる。
廊下から玄関ホールに出た瞬間、ホールの大きな置物の陰から男が飛び出して来た。
手にした小型のナイフを突きだす。
「そんなものでやられるか!」
素早く身をかわし手刀で男の手を払いナイフを叩き落とす。
手を砕かれた男は悲鳴を上げて膝まづいてしまった。
「どんなもんだい!」
男を確保しようと腰を屈めた瞬間、後頭部を何かで殴打された。
(しまった!もう一人いた  足跡は囮だったんだ・・・)
薄れる意識の中で1号ほぞをかんだ。


------------------------------------------------------------------------------------
「・・・号、1号、しっかりして!1号!」
遠くから呼ばれる声に次第に意識が回復してくる。
(誰?女の子の声?・・パー子?)
1号は目を開ける。
「パー子・・・来てくれたんだね・・」
朦朧とした意識の中で、心配そうに自分の顔を覗き込む3号の姿を見る。
「ここは?」
起き上がろうとする1号。自分がベッドに横たわっている事に気が付く。
「まだ寝てなくちゃダメ。ここはスミレちゃんのお部屋よ。」
「僕はどうしたんだっけ?」
「あなたは後ろからバットで殴られて危ない所だったのよ。そこへ戻って来たあたしが飛び込んだの。
二人組の空き巣だったわ。パーマンが留守番してる情報を聞いて、逆にそれを空き巣よけの偽情報だろうと睨んで押し入ったらしいの。二人共、もう警察に引き渡したわ。」
「そうか、面目ない。ドジっちゃったなあ。」
「気にする事ないわ。パーマンは一人じゃないのよ。それより大事に到らなくて良かったわ。」
「ホントだね。何も盗まれずに済んで良かった。」
「違うわ、満夫さんが無事で良かったって事よ。お家なんてそれに比べたらどうでもいい事よ。」
「君が言う事じゃないだろ?」1号は微笑んで言う。
「あ、そうよね。」
1号の表情を見て3号はようやく安堵した気持ちで応える。
1号はゆっくり上体を起こすと室内を見回す。
「ここがスミレちゃんの部屋・・」
「あたし何か飲み物を持って来るわね。」
「あ、ああ、ありがとう。」

3号が席を立った後、改めて室内を眺める。
淡いピンクのカーテン。
内側の白いレースには小さな赤いハートマークのアクセントが散りばめられている。
壁にはスミレが好きという海外アーティストのサイン入りポスターが貼られていた。
ふと、机の上の写真立てに目が留まる。
パーマン4人の集合写真だ。満夫も持っている。
パーやんが以前撮ってくれてみんなに配ったものだ。
「パー子、スミレちゃんにあげたんだ。」
親友同士なのだから、不思議はない。

ふと、曲者騒ぎ前の3号の様子を思い出す。
「パー子、なんで泣いていたんだろう・・・」
スミレの寂しさに共感したのだろうか、それともアイドルスミレを陰で支える存在と言われた嬉し泣きなのだろうか? いや、少なくとも嬉し泣きには見えなかった。
「パー子・・・」
憧れのアイドル星野スミレのベッドに横たわっているというのに、3号の事ばかり考えてしまう。
また鼓動が早くなるのを感じる。

ガチャッ。
ドアが開き、3号が戻って来た。
両手で飲み物が載ったトレイを持っている。
「お待たせ。どう?具合いは?」片足でドアを閉める。
その姿はいつもの3号だった。
先ほどの様子とのギャップに少し戸惑う。
しかしそのギャップが返って胸の高鳴りに拍車をかけた。
「パー子。」
「なあに?」
「君って、複雑だね。」
「何よ一体?また複雑な顔とか言ってケンカ売る気?」腕組みして睨むように言う。
「勘違いするなよ。僕は君の事、ほとんど知らないんだなって、そんな気がして・・・」
「突然どうしたの。あたしは満夫さんの事、良く知ってるわ。だからいいじゃない。」
何がいいのか良く分からない。いかにもパー子らしい言い草だ。
1号は苦笑した。
そして真顔に戻り、喋り始める。
「パー子、僕と、その、僕と・・・」
「何よ、一体?ボクと付き合って下さいとでもいいたいの?」
「い、いや、その、僕と、僕と友達になってくれないかな?」
1号は心臓が破裂しそうな気持ちでようやく言うと、真っ赤になってうつ向いてしまう。
「エッ?」
突然の言葉に絶句する3号。
「あ、あたし達、仲間じゃない。既に友達でしょ?」
「そうじゃないんだ。パーマン仲間としてじゃなく、須羽満夫として友達になりたいんだ。
パーマンとしてではない君と。」
満夫の言葉にパー子は大きく動揺する。
「パーマンとしてではないあたし?」
満夫は頷く。
しかし、パー子は自らに問掛けていた。
パーマンではないパー子?
パーマンではない、単にマスクを被った女の子?
(誰?誰の事を言っているの?)
パー子は自分で自分が分からなくなってきた。
満夫の顔を見たまま涙が止まらなく溢れてくる。先ほどの感情が蘇ってきた。
おばあちゃんに思いがけず、的確に自分の寂しさを指摘された戸惑い。
『親友』パー子の存在に支えられて来た星野スミレ。
友達なんていない。まして親友など。一人二役の虚しさを痛感する。
そして、満夫の自分に対する想い。
その自分とは何者なのか?
自分はどうしたらいいのか?
「パー子。僕は君の事が知りたい。」満夫は静かに言う。
パー子はその言葉に何も言えず、ただ涙を流しながら立ち尽くすのみだった。

「そろそろこの辺りでいいだろう。」

突然の声に二人は窓の方を見る。
「バードマン!」
二人は声を揃えた。
窓を背に黒いマスクを被った背の高い男性、バードマンが立っていた。
「どうしてここに?」1号は問い掛ける。
「3号、長い間ご苦労だった。マスクを脱いで顔を見せてあげなさい。」
「ハイ」
3号は力無く応え、マスクの顎ひもを両手でほどく。
そしてゆっくりとマスクを頭から外すと、星野スミレである素顔を満夫の前に晒した。
(とうとうこの時がきたのね)
スミレはうつ向いたその顔を上げ、満夫に向けた。
するとスミレの表情は驚きに変わる。
「 満夫さん・・・」
満夫は固く目を閉じていた。
そしてスミレに対して背を向ける。
「パー子、これは君の意思なのか?それともバードマンに言われたからなのか?それを確かめるまで僕は君の素顔を見ない!」
「やれやれ、困ったやつだ。どうする?3号。」
バードマンは長いあごをポリポリ掻いて3号の返答を待った。
「・・・満夫さん、これはあたしの意思よ。満夫さんにあたしの素顔を見てもらいたいの。」
「パー子・・・今まで隠していたのにどうして?」満夫は後ろを向いたまま尋ねる。
「お友達になりたいって言ってくれた。凄く、凄く嬉しい。
だから・・・だから満夫さんにあたしを知って欲しい。本当のパー子を知って欲しいの。
そして、赤いマスクを被った女の子がどんな女の子なのか・・あたしにも教えて欲しいの。」
「どういう事だい?」
「・・・お願い。あたしの顔を 見て。」

満夫は自分もマスクを外す。
そして目を閉じたままパー子の方に向き直り、ゆっくりと目を開けた。

「・・・スミレちゃん?」
満夫は呆然として、泣きはらしたスミレの顔を見る。

「こんな顔でご対面なんて、恥ずかしい。」
スミレはそう言って、はにかんだ表情で下を向く。

「バードマン。一体、どういうことなのさ。」満夫はバードマンの顔を見て質問する。
「よろしい、では説明しよう。」
わざとらしく重々しい口調でバードマンは話し始めた。
つまり、地球人をパーマンに任命するに当たり、素性の知れないメンバーをわざと作り、果たしてうまくやって行けるか試していたということだった。
しかし実際にはアイドルである星野スミレがメンバーの中で普通に振る舞い、活動するにはどうしても必要な事でもあったのだ。
「そして今、3号は自分を見失いかけていた。これはある意味不幸な話だ。
あたしも責任を感じていた。
でも、1号、君ならきっと彼女の支えになってやれるはずだ。あたしはそう信じているぞ。」
「バードマン。」
「それではあたしはこれで失礼する。二人とも仲良くな。」そう言ってテレポートで消えて行った。

残った二人は顔を見合わせる。
「パー子、い、いやスミレちゃん?」
「パー子でいいの。満夫さんがお友達になりたかったマスクを被った女の子はパー子なのよ。」
「うん、その通りさ。僕はパー子と友達になりたいんだ。」ニッコリ笑う満夫。
スミレも初めてニッコリ笑う。
その笑顔は満夫にとって、とても眩しかった。


数日後、成田空港上空。

「そろそろコピーが飛行機から降りてくるころよ。」
「なんで君がロケに行かなかったんだい?」
「おばちゃんが心配だったのよ。ゴールデンウィークでみんな帰省してしまって、広い家に一人きりでしょ?それで1号をさそって留守番することにしたの。」
「アッ、スミレちゃんだ。」
着陸した飛行機のドアが開いてタラップからスミレが降りてくる。
「サインもらってこようかな。」
「あら、星野スミレはあたしよ!本物はここにいるわ。」
「それじゃ、星野スミレさん。どうかサインして下さい。」慇懃に頭を下げ、色紙をパー子に渡す。
それを受け取るとポケットからサインペンを出し、サラサラと色紙にサインすると1号に手渡す。
「はい、サインよ。」
「やったー、サンキュー!!・・・と、アレッ?」
色紙をのぞき込み声を上げる。
「なんだいこれ?こんなのやだよ~」

色紙には星野スミレではなく、大きく『パー子』と書かれていた。

「あたしはパー子よ、パー子だもの! ウフフ。」

<END>

©パット