朝日ヶ丘スミレ団

トップページ > マイ・スミレダン > オオミツさんの世界 > 夕暮れの出会い
■ 夕暮れの出会い

「のびちゃあん。のびちゃあん。」
 夕暮の住宅街に、か細いがよく通る声が響いた。
 パトロールに疲れてマンションの外壁でうつらうつらしていたパー子は、
 その声の主を探して舞い降りた。
 「ひょっとして、迷子?」

=================================

 1号がバード星へ旅立って1ヶ月あまりが過ぎていた。その間、パー子は
 今まで以上にパーマンとしての仕事に励んでいた。いつしか彼女は仲間や
 事故現場の人と言葉を交わすことも少なくなり、ただ黙々と救助活動に
 励むようになっていた。皆が彼女の活躍を褒め称えていた。
 さすがパーマン3号と。そして仲間たちは彼女の寂しさを感じていた。誰の目
 にも彼女は無理をしているように映った。
 1号と離れ離れになった寂しさ。それを乗り越えるため、彼女は意識的に
 作業に専念し、人との関わりを避けていた。自分の内に篭るかのような彼女の
 姿に、2号も4号もバードマンも心配を隠せなかった。
 しかし彼らは皆わかっていた。こればかりは彼女自身が時間をかけて、自分
 なりの方法で乗り越えなければならないことだと。そして自分たちに出来る事
 は気休めの言葉をかけることではないと。せめて無理して体を壊すことがない
 ように、彼らは可能な限り作業のサポートを心がけていた。
  彼女が、馴染みのないこの街へパトロールの足を向けたのは、一人になりたい
 という思いからだった。仲間たちの自分への配慮には感謝していた。しかし、
 その配慮はやはり自分の中の寂しさへの直視を強いる。仲間を避けるのでは
 なく、ただ少しだけ一人になりたい。そんな思いから彼女はここへ来ていた。

====================================

 声の主はすぐに見つかった。予想通りの小柄な老婦人だった。
 「いきなり目の前に舞い降りたりしたら驚かすかもしれないわね。」そう考え
 たパー子は角を曲がった所に着地し、老婦人に駆け寄って声をかけた。
 「どうかなさったんですか?おばあさん。」
 おそらくパーマンを知らなかったのだろう。振り返った老婦人は少し目を丸く
 した。しかし、すぐにパー子に話し出した。
 「ちょっと目を離した隙に、一緒にいた孫の姿が見えなくなったんです。」
 すがるような目でパー子に訴える老婦人に、パー子は即答えた。
 「あたしに任せてください!きっとお孫さんは捜し出してみせます!」
 と勇んで飛び立とうとしたパー子を止めた老婦人は、懐から写真を取り出した。
 「お願いしてもいいんですか?ありがとう。この子なんですよ。名前は
 のび太。のびちゃんって呼ばれてるんです。年は3つ。この先の公園で散歩
 してたんです。」自分のそそっかしさにパー子は顔を赤らめつつ写真を受け取っ
 た。(名前も顔も知らないでどうすんのよ!)写真には、目の前の老婦人に
 抱っこされた男の子が笑顔を見せていた。
 「わかりました。じゃ、おばあさんは公園に戻って待っててください!お孫
 さんは必ず連れて帰ってきます!!」言うが早いかパー子は飛び上がった。
 上昇してから気付く。「しまった!びっくりさせちゃったかな・・・」
 全く、今日はどうかしてる。どうかしてるのは今日だけ?
 恐る恐る下を見ると、老婦人は特に動じる様子もなくこちらを見上げていた。
 ほっとしたパー子はそのまま探索に向かう。
 夕闇が迫る中、パー子は必死で辺りを捜索していた。3歳の子供がそんなに遠
 くへ行けるはずがない。しかし、気が急くばかりで一向にそれらしい影は
 見当たらない。次第に暗くなる中、パー子は思わず胸の中で叫んだ。
 (助けて1号!) その時、川べりの道に、長く伸びた小さな影が動いている
 のが目に飛び込んできた。(あれだわ!!)確信めいた気持ちと共に降り立っ
 たパー子の目の前できょとんとしているのは、紛れもない写真の子供だった。

 歩いて行けない距離ではないが、早くおばあさんを安心させたい。そう思った
 パー子は、のび太をしっかり抱えて飛び上がった。
 しばらく飛ぶうち、パー子は腕の中の子供に不思議な印象を覚えた。
 「この子、全然怖がってないみたい・・・」
 パーマンに憧れる子供たちは口を揃えて「あんなふうに自由に空を飛んで
 みたい」と言う。しかし、実際に体ひとつで空を飛ぶというのは慣れるまで
 非常に怖いのだ。何度か空へ連れて行ったカバ夫やサブも最初は真っ青に
 なっていたし、パー子自身、初めて飛んだときは失神しそうになったくらい
 なのだ。たまに事故に巻き込まれた子供や迷子を連れて飛ぶことがあるが、
 たいてい泣き出すか、震えながらしがみつくかである。
 しかし今、腕の中ののび太はさも当たり前のように眼下の街並みに歓声を
 あげている。まるで自分で飛んでいるかのようだ。そのくせ、実にうまく
 パー子の腕を掴んでいる。たぶんパー子が手を離してもしばらくは平気だろう。
 「この子、空を飛ぶのに向いてるみたい・・・。」とパー子は思った。
 「空を飛ぶのに向いている」なんて変な言い方だが、少なくともパー子は率直
 にそう感じた。
 速度を極力抑えて飛んだとはいえ、公園はすぐに見えてきた。近づくにつれ、
 パー子の胸に不安がよぎる。「おばあさん、もしかして自分でどこかに探しに
 行ったんじゃ・・・」日没はもう間もなくだ。おばあさんを見失ったら、この子を
 家に届ける術がなくなる。住所も何も聞いてない・・・ホントに今日のあたしは
 何してるの!?細かい事に全然気が回らない自分が腹立たしい。少なくとも
 前はこんなじゃなかったはずなのに・・・。「なんだい、お転婆パー子!!」
 なぜか、1号の言葉がいつもと違う響きで頭をよぎった。
 しかし、公園が見えると同時に老婦人の姿が目に飛び込んできた。ベンチに
 座って空を見上げている老婦人と遠いながら目が合ったのだ。ふわりと着地
 したパー子は、いつのまにか寝入ってしまったのび太をそっと老婦人に渡した。
 「遅くなっちゃって、すみませんでした。」というパー子の手を取り、老婦人
 は言った。「とんでもない。ありがとう。ほんとにありがとう。」お礼を
 言うその目にうっすら涙が浮かんでいるのを見て、なぜかパー子は口ごもった。
 「い、いえそんな・・・」
 今まで、人助けをする中で数え切れないほどかけられてきた感謝の言葉。
 それが今、初めて聞いた言葉のようにパー子の胸に響いた。パーマンとして
 当たり前の経験のはずなのに・・・。何度も頭を下げる老婦人を前に、パー子は
 立ち尽くしていた。
 その時、寝入っていたのび太が小さなクシャミをした。いつのまにか薄暗く
 なり、少し肌寒くもなっていたのだ。弾かれたようにパー子は言った。
 「あ、あの、ちょっと待っててください!」
 さっき飛んだときに見つけたパン屋に飛び込んだパー子は、慌てて牛乳を2本
 買った。暖かいのは売ってなかったが、そこはパーマン。牛乳ビンを超高速で
 摩擦し、数秒でホットミルクを作り上げた。
 「これでも飲んで、暖まってください。」ぎこちなく差し出したホットミルク
 を、老婦人は深々と頭を下げて受け取った。「さ、のびちゃん、ミルクですよ。」
 ぐずりかけていたのび太は、暖かいミルクで落ち着いたのか、泣く事もなく
 またすやすやと寝息を立て始めた。
 「ほんとうに色々とありがとう。あなたのおかげで助かったわ。」そう言って
 笑う老婦人に、ようやくパー子も笑い返した。
 「もう遅いですから、家までお送りします。」
 すっかり夜の帳が下り、家々の明かりと心地よい団欒の喧騒とが3人の歩く道
 を柔らかく満たしていた。

===================================

 久し振りに満たされた気分で家路を急ぐパー子は、見慣れた街明かりを目に
 した時ふと思った。「あのおばあさん、あたしが捜しに行ってる間に警察とか
 家の人とかに話しに行こうとしなかったのかしら?」
 そんな素振りは全くなかった。動揺して思いつかなかったのか。それとも、
 家の人に何か言われると思って話すに話せなかったのか。
 「ちがうわ」
 確信を感じ、思わずパー子はつぶやいた。あのおばあさんは、あたしの言葉を
 信じて待っていた。「きっと連れて来る」そういった、会ったばかりのそれも
 素顔も見せないあたしの言葉を信じて待っていたのだ。どんなにか不安だった
 だろうに。
 いつの間にかパー子は頬をびっしょり涙で濡らしていた。見も知らない自分を
 信頼してくれたあの老婦人の顔が、自分を信頼し切っているかのように無邪気
 にはしゃいだのび太の歓声が、はっきりと脳裏に甦った。人の為に精一杯力を
 尽くす。自分はパーマンなんだ。パーマンであることに「耐えよう」として
 いた自分を振り返り、パー子は思った。「あたしってホントにバカ!」
 ウジウジしてなんかいられない。1号は一人前のパーマンになると言って笑顔
 で旅立った。あたしだって負けてられない!パーマンとして女優として、
 明日からも笑ってがんばろう!
 少し乱暴に袖で涙をぬぐうと、パー子は晴れ晴れとした気持ちでスピードを
 グンと上げた。今夜は夜間パトロールといこう!
 煌く星空に向かって彼女は声高く叫んだ。
 「パワッチ!!」

====================================
ちょっとだけクロスオーバーの作品です。

Copyright(C) 2000-2004 おっけっ!! All Rights Reservd.
広告 通販 無料 チャットレディ ブログ blog