朝日ヶ丘スミレ団

トップページ > マイ・スミレダン > オオミツさんの世界 > 私はパー子
■ 私はパー子

=================================

 冬の訪れはいつになく早かった。今年初めて庭に霜が下りた日の朝、
 スミレは早朝の新幹線で東北のとある温泉地へ向かっていた。ある
 情報番組の体験リポーターの仕事で、最近では少し珍しい依頼だった。
 丸5日かかる、割と大掛かりなロケである。
 そこに待つ波乱に、気付いている者はいなかった。

=================================

 ここ数週間、スミレは精神的に少し参っていた。仕事の事で弱音を吐く
 ことのない彼女も、プライベートに憂い事があるとつらいのだ。それは
 他でもない。無責任に撒き散らされた落目ドジ郎との熱愛報道だった。
 ストーカーのごとく付きまとっていたレポーターはあの不思議な少年の
 おかげでぱったりと現れなくなった。しかし、問題が解決したわけでは
 ないのだ。相変わらずあれこれとデタラメな記事が何かしらの雑誌に載り、
 落目との関係を煽る。そして落目本人も前にも増して図々しく付きまとう
 ようになってきた。最近では3日に1度は家に来て、追い払うまでに
 1時間近くかかることもある。貴重な睡眠時間と静かな時間を削られ、
 スミレは憔悴し始めていた。

 そんなある日。収録を終え、珍しく少し時間の空いたスミレは控え室で
 鏡の前に腰掛け、ロケットの中のミツ夫の写真をぼんやりと眺めていた。自分
 の想う人は彼だけ。昔も今も揺らぐことのない、単純な真実である。しかし
 どうして自分の周りの真実はこうも歪曲されてしまうのか。女優という仕事を
 している人間には、真実は余計なものでしかないのだろうか。芸能界の嘘を
 たくさん見てきたせいか、スミレは嘘や虚飾のないミツ夫の事が今までにない
 くらいに恋しかった。
 パーマンを辞めて長いとはいえ、彼女は記憶を消されないまま今日に至って
 いる。数多くの功績とミツ夫との事を酌んでくれたバードマンの計らいで、
 パーマンの支援要員という位置付けにしてもらっていたのだ。その気になれば
 バード星のミツ夫に連絡する術が無いわけでもなかった。実際に連絡した事は
 無かったが。
 だけど今、彼に会いたい。彼なら落目ドジ郎など、一瞬でノックアウトして
 くれるだろう。だけど、自分の周りはそんなに単純にはいかない。今度は彼
 との関係についてあれやこれやと憶測が飛び交うことになる。そうなれば誰
 よりもミツ夫に迷惑をかけることになってしまうのは明らかだった。
 いっそ女優など辞めてしまえば…。そんな思いが頭をよぎった時、スミレは
 手の中のロケットを落としてしまった。
 「いけない」身をかがめてメイク用の机の下に落ちたロケットを拾った彼女は、
 立ち上がった時、鏡の中の自分の姿をまともに見た。生気の無い、乾いた感じ
 の女性が映っていた。明らかに老け込んでいた。
 「何よあなた…。」スミレは鏡の中の自分に刺々しく問い掛けた。まるで、昔
 スランプの苦しみをコピーに八つ当たりした時のような気分だった。
 ドサッと音を立てて椅子に座り直したスミレは、乱暴に腕と足を組んだ。
 何をばかばかしい事を考えてるの!?男に言い寄られてつらいからミツ夫さん
 に会いたい?女優を辞めたい?何だか笑えてくる。少なくともミツ夫さんが、
 いや「1号」が聞いたらまちがいなく笑い出すに違いない。
 「ウヒャヒャヒャ。パー子が男の事で悩んでつらいだって?よく言うよあの
 お転婆が!なあブービー。こいつはおかしいや。」
 何だかそんな声まで聞こえた気がする。まったく馬鹿にしてるわ!誰が?そう、
 自分が!あたしはパー子。気が強くてお転婆で、本気になったらパーマン1号
 でさえも腕ずくでねじ伏せる女の子、パーマン3号。名の知れた極悪人を恐れ
 おののかせたあのパーマン3号が、たかが妄想男の求愛くらいで弱音なんか
 吐いてどうすんのよ!
 いつしかスミレは、完全にパー子モードに切り替わっていた。そうなると、
 鬱屈していた分とにかく行動したくなってくる。特に何か考えがあるわけでは
 ないが、じっとしていられなくなった彼女は椅子から立ち上がると、勢い良く
 ドアを開けて廊下に出ようとした。と、
 「あいてっ!!」 スミレが思いっきり開け放したドアにしたたかに突き飛ば
 され、、一人の男性がつんのめっていた。我に返ったスミレは慌てて駆け寄り、
 腰をさすっている男に詫びた。
 「ご、ごめんなさい!ちょっとうっかりしてて…」なにが「うっかり」なのか
 わからないが、とにかく謝らなければ。そんなスミレに対し、男は意外にも
 明るく穏やかに答えた。
 「いやいや、僕の方こそボーっとしてたよ。気にしないで…あれ?何だスミレ
 ちゃんじゃないか。久し振り!」そう言って笑った彼に、スミレもパッと顔を
 明るくして答えた。
 「あら、半木さん!ほんとにお久し振り!」

====================================

 控え室にその男を招き入れたスミレは久し振りに談笑していた。
 彼の名前は半木(なからぎ)寒一郎。演技派俳優として2時間ドラマの主演を
 中心に活躍しており、スミレ自身も子役時代から何度か共演した事がある。
 気さくな人柄が好かれており、スミレにとっても異性の同業者の仲では最も
 仲の良い友人の一人だった。何度か仕事がてら食事に行ったりもしているが、
 浮いた噂につながったことはない。歳がちょっと離れているせいもあるの
 だろうが、やはり彼の人柄がそんなイメージに結びつかない、という点が
 大きいだろう。何でも相談できる、お兄さんといった存在だった。
 「何だか変にテンション上がってたみたいだったけど、悩み事?だとしたら、
 もしかしてあの二枚目スターとの報道のことかな?」
 この人は変に鋭いところがあり、しかも単刀直入である。だからスミレも
 簡潔に答えた。
 「ええ。」
 「なるほどね。たしかに雑誌を開けば眉ツバ報道の嵐だから。あの男とは1回
 だけ共演したことがあったけど、2度とご免こうむりたいね。あの傲慢さと
 きたら、まるで昔の…」
 そこまで言った半木は、不意にモゴモゴと口ごもった。それを見たスミレは
 思わず吹き出しそうになるのを懸命にこらえた。「昔の僕みたいだ。」と
 言いそうになったのが明らかだったからだ。同時に彼女は、子役時代に彼と
 出会った時のことを懐かしく思い出していた。

 彼は若い頃、「半寒色男」の芸名で2枚目スターとして売り出しており、専ら
 青春映画の主演をやっていた。その頃の傲慢ぶりは、ひょっとしたら今の落目
 以上だったかもしれない。妹役で共演した時も、顔合わせの撮影日にいきなり
 すっぽかしを喰らい、子供心に憤慨したものだった。しかし次の日、どういう
 わけか彼を1号が連れてきたのだった。しかも遅れてもう一人の彼が現れ、
 ちょっとした騒ぎが起こったのを見て1号が連れてきたのがコピーだった事に
 気が付いた。1号にあれこれ訊く訳にはいかなかったので詳しい事情はわから
 なかったが、その時の騒ぎがきっかけで彼はすっかり真面目になり、芸名を
 変えると同時に性格俳優への転身を遂げたのだった。あの出来事がなかったら
 彼は業界に嫌われたまま消えていってたかもしれない。人を助けるだけでなく
 人間的に立ち直らせたのを目の当たりにしたあの時、初めて1号の事を本気で
 見直したのをスミレは憶えていた。

 10歳も年上であるにもかかわらず、この人はどうかするとスミレよりも
 子供っぽい時がある。ばつの悪そうな顔でしどろもどろになっている半木
 にスミレは助け舟を出した。
 「そういえば、最近のお仕事は?」
 「ああ。」と半木はほっとしたように話し出した。
 「相変わらずの2時間サスペンスさ。みちのく温泉旅情…何とかかんとか
 言うやつなんだけどね。この寒いのにロケで一ヶ月ほど東北に缶詰めだよ。
 寒いの苦手なのに酷な話だよなあ、まったく…。」
 受けた仕事は真面目にこなすくせに、話すときは必ず文句をいう。若い頃の
 くせが残っているのだろう。そんな彼の性格を知っているスミレは笑って
 答えた。
 「お気の毒さま。それで、内容はどんななの?」
 「あんまり話しちゃいけないんだけど、ま、いいや。確か、ある人気女優の
 偏執的なファンが彼女をさらい、独占しようとするってやつだよ。拒絶された
 男の想いはやがて殺意へと突っ走り…あ、言っとくけど僕は犯人役じゃない
 からね。その女優を必死で探す恋人のマネージャー役なんだ。」
 「おもしろそうね。」スミレは興味津々で答えた。彼女はその手のドラマの
 主演というのはまだやったことがない。自分でもまだ早いだろう…と思って
 いる部分もあるのだ。それだけに興味は尽きなかった。
 「ロケはいつからなの?」
 「えと、たしか来月早々だ。たぶん向こうは雪になってる頃だろうな。」
 来月初旬なら自分も情報番組のリポーターとして東北方面に出向いている
 はずだ。何となくそんなことを考えていたスミレの頭に、不意にある考えが
 閃光のようによぎった。彼女はグッと半木に顔を近付け、イタズラっぽい
 笑みを浮かべた。

====================================

 その日、芸能界に激震が走った。東北の温泉街に体験リポートに向かった
 星野スミレが、何者かに拉致されてしまった、という情報が流れたのだ。
 発表によると、現地入りしたスミレが一人でロケ現場に待機していた際、
 ファンと名乗る男によって連れ去られてしまったらしい。その場に居合わせた
 者はあいにく誰もおらず、犯人の人相などはわからなかった。ほどなく、両手
 を縛られた姿のスミレのポラロイド写真と肉声が録音された脅迫テープが犯人
 の指示した公園で発見された。そのテープの内容の異常さに誰もが戦慄を覚え
 ずにはいられなかった。
 
 「星野スミレはようやく居るべき場所にたどり着いたんだよ。この僕のそばに
 ね。もう誰にも渡さない。彼女は僕だけとの時間を手に入れたんだよ!僕の
 この気持ちは誰にも負けない。負けるはずがないんだ! しかし、もし誰かが
 僕以上に彼女を想っていると言うのなら、ここへおいで。同じ女性を愛する者
 同士、語り合おうじゃないか。それでもし僕に勝つことができると言うのなら、
 僕も彼女への想いは譲るよ。さあおいで。最高の時を共有しよう!」

 要求めいたことは何も言っていない。脅迫声明と言うより、むしろ挑戦状に
 近い内容だった。名指しはしていないものの、明らかに落目ドジ郎に対する
 挑発と感じられる。しわがれた甲高い声は、男の狂気を孕んでいるかのように
 無気味に響いていた。そしてそのテープの末尾に、かすかなスミレの声が収録
 されていたのだ。ほとんど聞き取れないその声は明らかに助けを求めていた。
 警察は直ちに調査を開始すると共に、落目に捜査への協力を要請した。世間の
 噂からも、犯人が落目を指名しているのは明らかである。それ以上の要求が
 示されていない今、彼の協力を求めるのは当然のことだった。
 しかし、落目は完全に黙殺を通した。万全の態勢でお守りしますから、という
 警察の必死の説得にもかかわらず、とうとう彼は一度も姿をあらわさなかった。
 何も進展しないまま、2日が無駄に過ぎた。

 しかし3日目の朝、スミレは発見された。犯人の隙を見て自力で逃げてきたと
 言うスミレは、ドラマの撮影のロケ隊に遭遇して保護されたのだった。若干の
 憔悴がみられ、しかも右手首をひどく捻挫していたものの彼女はしっかりして
 いた。彼女の証言から監禁場所が割り出されたものの犯人の姿は既になく、
 その後の捜査でも足取りはつかめなかった。
 
 情報番組の収録は中止と誰もが思ったが、スミレは気丈に収録を要望した。
 結局、5日間の予定が倍に伸びはしたが、収録は無事に行われた。右手に
 巻かれた包帯が痛々しいものの、スミレはいつも以上の明るさで元気に収録
 を終え、東京への帰路に就いたのだった。

===================================

 1ヵ月後の夜。
 ドラマのロケを終え、自宅でくつろぐ半木のもとにスミレが訪ねてきた。
 ロケ隊に迷惑をかけたことへのお礼とお詫びと言うことで、事前に連絡は
 受けていたので今日は家には彼以外だれも居なかった。長いコートに身を
 包んだスミレを、彼は気さくに迎え入れた。
 「寒かっただろ。まあどうぞ。」
 「ありがとう。」
 短い会話の後、スミレは客間に案内された。お互い、最初にかける言葉を
 探しているようだった。程なく、二人は同時に言った。
 「冷や冷やしたね。」「ハラハラしたわね。」
 と、二人はどちらともなく笑い声を立てた。捜査が一段落するまでかなり息を
 詰めていたのが、ようやく開放された。二人の笑い声には、深い安堵感が
 感じられた。
 
 あの日。
 「ねえ、犯人役やってみない?」
 スミレの言葉にさすがの半木もポカンとした。突然何を言い出すのか。この子
 がこんなイタズラっぽい目をするのはあまり見たことがない。もしかしたら
 何かとんでもないことを考えてるんじゃないだろうか…。半木は、聞く前から
 何となく面白いことが起こる予感がしていた。
 しかし、スミレの口から出てきた話は彼の予想をはるかに越えるぶっ飛んだ
 計画だった。なんと狂言誘拐。しかも、自分が犯人として立ち回ってみないか、
 と言うのだ。まったくこの子の考えは計り知れない…。半木は、呆れるのを
 通り越してスミレの大胆さに敬服している自分を感じていた。
 もともとお騒がせ好きだった半木はすぐにスミレの計画に乗った。まずは監禁
 写真を二人で作り、脅迫テープを録音する。ドラマの撮影よりもスミレのロケ
 の方が日程が先だったため、「ドラマの舞台を肌で感じておきたい」という
 名目で半木はスタッフよりも数日早く単身ロケ地へ向かった。演技に研究熱心
 な彼のこと、だれも怪しむものはいなかった。現地に着いた彼は写真とテープ
 を公園に隠し、警察にその在り処を知らせると何食わぬ顔で後発のスタッフと
 合流し、撮影に入った。一方のスミレは隙を見てロケ現場を抜け出し、その
 まま「犯人の隠れ家」に身を潜める。ここはかなり前に半木が別のドラマ収録
 の機会に見つけた廃屋だった。そこで2日間を過ごしたスミレは半木から訊い
 ていたスケジュールに合わせて隠れ家を後にし、ドラマ撮影スタッフのもとに
 出向いたのだった。
 現地で二人が顔を合わせたのはスミレが保護された時が初めてだった。お互い
 のタイミングがずれたら一巻の終わりという状況にはさすがに二人とも緊張
 したが、そこは付き合いの長いベテラン俳優同士。完璧にやり遂げた。
 もちろんその場にいたスタッフや共演者たちにも事情聴取は行われたが、特に
 嫌疑をかけられることはなかった。全員アリバイははっきりしており、第一、
 何の得にもならないあまりにも狂気じみた犯行だったからである。

 「それにしても、君の大胆さと人を見る目には恐れ入ったよ、ホントに。」
 酒を断って長い半木は熱い紅茶をスミレに勧めながら言った。落目の気持ちの
 浅さを露呈するための計画だったが、もし万が一落目が来てしまったら全てが
 水の泡になるどころか、スミレにとって大きな不安が増すことになる。それ故、
 彼はテープにスミレの声を入れたりするのはやりすぎと反対したのだ。しかし、
 スミレは確信に満ちた強い口調で言った。
 「大丈夫。あの人なら来ないわ。」 事実、落目は来なかった。後日、事件の
 全容が広まるにつれ、黙殺した落目に対する大きなバッシング報道が各誌の
 紙面を独占した。恋人報道や結婚の噂は過去のものとなり、もはや彼女自身 
 よりもマスコミが落目を彼女に近付けなかった。中には「狂言誘拐ではないか」
 という疑いを取り上げた雑誌も何誌かあった。しかし、言い訳に終始する落目
 と対照的に毅然とした態度を崩さないスミレの前に、狂言説は大きくならない
 まま消えていった。マスコミはうやむやな狂言説を掘り下げるより、メッキの
 はがれた落目をバッシングすることに真実を見出したようだった。
 落目に対し、スミレに罪悪感はなかった。自分は自分に対する落目の「真実」
 を提示しただけだ。自分には好意など全くないし、交際する気も結婚する気も
 ない。言って信じないなら別の形で見せるだけ。それも、彼自身の態度で。
 彼に誠意も愛もないことは彼女自身が一番良く知っていた。どちらも持って
 いる人を知っているから。もしミツ夫なら、絶対に来てくれる。その確信と
 同じくらいの強さで、落目なら来ないという確信が彼女にはあった。だから
 その事に関する不安は一切なかった。

 利き腕をかばうようにぎこちなくティーカップに手を伸ばしたスミレを見て、
 半木はずっと気にしていた事を訊ねた。
 「大丈夫なのかい、その右手は。一体どうしたの?」
 計画には、スミレがこんな本格的な怪我をするという予定はなかった。ロケ
 現場で彼女の負傷を知った半木は内心青ざめていたのだ。もしかして潜伏中に
 何かあったのではないか。自分から訊くわけにもいかず、彼はずっとその点を
 気にかけていた。
 訊いちゃいけなかったかな、という半木の心配は見事に裏切られた。スミレは、
 この前にも増してイタズラっぽい笑みを浮かべると、ちょっと舌を出したのだ。
 
 「大丈夫!ちょっとお転婆が過ぎちゃっただけなの。」

 あの日。頃合いを見計らって「監禁場所」を出ようとしたスミレはふと、無傷
 のままだと不自然ではないか、と思い立った。少しブラウスの袖でも破って
 おこうか…と考えた時、かたわらに並べてある錆びたドラム缶が目に付いた。
 (昔はあんなドラム缶なら20本以上まとめてぶっ飛ばしたり、片手でプレス
 してフリスビーにしたりしてたっけ…) そんなことを考えた途端、彼女の
 中のパー子がまたしても頭をもたげた。
 「ようし、久しぶりに一撃!!」スミレは腰を落として構えると、右手の拳を
 握りしめ、強烈なストレートを思い切りドラム缶に叩き込んだ。
 期待したような大きな音はせず、古びたドラム缶には凹み一つ出来なかった。
 代わりに、右手首に激痛が走った。(ひょっとしたら骨までいっちゃったかも…。)
 手首を押さえてうずくまったスミレは、火のような痛みと共に湧き上がる笑い
 をこらえるのに必死だった。何をやってるんだか…お転婆にもほどがある。
 でも、何だかちょっとだけ嬉しい。パーマンセットは無いけど、自分の中には
 確かにパー子がいる。女優・星野スミレでもなく、遠くの想い人を慕って待ち
 続けている孤独な女性スミレでもなく、パーマン3号・パー子が。誰よりも
 パーマン1号の身近にいて、誰よりも彼の事が好きだった「自分」との再会。
 
 この右手は、懐かしい自分を見つけ出した事への勲章に思えた。

 子役時代から親しかったせいか、半木はこれまでスミレに対して恋愛感情を
 抱いたことはなかった。それでも、時おり彼女が見せる表情には少なからず
 ドキッとさせられる事がある。今、右手を見つめながら何かに、もとい誰かに
 思いを馳せている彼女の表情はまさにそれだった。
 「きっと、ステキな男なんだろうね。」
 「え?」
 たった今自分に気付いたかのようなスミレに対し、微笑を浮かべ半木は言った。
 「君の想い人、さ。」
 相変わらず鋭くて単刀直入な半木に対して、スミレも簡潔に、強く答えた。
 
 「ええ!」

====================================
 
 夜遅く、自宅に戻ったスミレはベランダから星を見ていた。
 女優としての自分にとって、真実は余計なものなのかもしれない。だけど、
 それでもかまわない。たとえ世の中が何を真実として求めたとしても、
 素顔の自分には揺るぎない単純な真実がある。今も昔も、そしてこれからも。
 自分の大切な人はあの星空の向こうにいる。それさえ忘れなければ、不安
 なんて何もない。
 
 「だって、私はパーマン3号、パー子なんだから!」
 いつかミツ夫に会えたら、久し振りにケンカがしたい。そんな事を考えながら
 いつまでも星を見上げているスミレの横顔を、冬の月が蒼く照らしていた。

                 【完】

====================================
      参照/てんとう虫コミックス「パーマン」vol.2「ぼくはスターだぞ」


Copyright(C) 2000-2004 おっけっ!! All Rights Reservd.
広告 通販 無料 チャットレディ ブログ blog