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須羽ミツ夫は普通のサラリーマン、ちょっとドジで、ちょっといい奴で、 ちょっと頼りになる、ごく普通のサラリーマン。でも、彼の恋人はちょっと 普通じゃない。だって、彼の恋人は少女時代からスーパーアイドルで、今では 押しも押されもしない大女優 星野スミレなんだから。
夜の繁華街 街角でぼ〜っとしている背広姿のミツ夫のそばに車が止まる、車の窓が 半分開くと、中からサングラスにショートカット、黄色いカチューシャをした女性が 声をかける パー子「ミツ夫さん 早く 早く」 彼女は星野スミレ 長い髪をショートカットのウィッグで隠している。ミツ夫は すぐさま助手席に滑り込むと、車は一路 都心から湘南方面へ走り出す。 パー子「も〜 しつこいレポーターがいてまくの大変だったわ」 とサングラスを外し運転しながら愚痴ると 助手席のミツ夫がネクタイを ゆるめながら言う ミツ夫「パー子も大変だよな」 パー子「うふふ、でも あなたに会うためならこんな苦労くらいどうって事ないわ」 とウィンクしてみせる彼女を見て、ミツ夫は苦笑する。 彼女と知り合ったのは1年前の仮面舞踏会 気の強い女だと彼女を星野スミレと 知らずにつき合いだし、交際を申し込んだミツ夫に、初めて彼女は素顔を見せた。 まさかあの、星野スミレがこんな気の強い 口の達者な女だと思わなかった。でも、 ミツ夫はそんな彼女、パー子とあだ名をつけた女優ではない星野スミレ 彼女 本人を好きになった。いや、今ではハッキリ言える「愛している」と。 人気のない海 スミレがミツ夫の肩にもたれかかってうっとりと月を見上げている スミレ「ミツ夫さん・・・」 ミツ夫「ん?」 スミレ「ううん、なんでもない」 ミツ夫「なんだよ パー子らしくないな、なんだい?」 スミレ「・・・ずーっと一緒にいられたらいいな、、、て思ったの」 静かに目を閉じミツ夫の肩によりそっているスミレ ミツ夫「パー子・・・」 ミツ夫も彼女と同じ気持ちだった。ずっと一緒にいられればいいな。そう、彼女と ずっと、朝も夜も、ずっと、ずっと、これから1年後も、5年後も、10年 いやもっと ずっと一緒にいたい。人生のパートナーとして、ずっと ずっと。
昨日のデートの余韻が醒めないままボーっとミツ夫は会社に出勤した。中小企業の 営業マン、成績は悪くない 収入もまぁまぁ 人間関係もうまく行ってる 取引先の 上司にも気に入られているが、だからって大女優 星野スミレにふさわしい地位も 名誉も財産もない。ミツ夫は躊躇していた。自分は彼女を愛している。そう、彼女と 結婚したい。でも、、、、 上司「須羽くん、須羽くん!!」 ミツ夫「あ! はい」 上司に小言を言われてちょっとガックリしているミツ夫がお茶を飲もうと 給湯室に 立ち寄ると、同じフロアのOLがキャピキャピ 話し込んでいる OL1「とうとう彼にプロポーズされちゃった」 OL2「ええ?まぁ これが婚約指輪?すっごーい」 OL1「やっぱり愛はお金でしか計れないわよね」 OL2「いいなぁ〜 あたしの彼なんて絶対そんな大きなダイヤ買えないもん」 OL1「今度 私の彼の友達紹介するわ みんな医者や弁護士で超リッチよ」 OL2「え!ホント 紹介して 紹介して〜 もう今の貧乏な彼なんてどうでもいい」
女性というのはやっぱり財産やダイヤモンドに弱いんだな、ボンヤリ 聞いている ミツ夫はパー子 ことスミレの顔が浮かぶ。最近 めっきりきれいになったのと 宝石店のCMに出演しているせいとの両方で、彼女には「結婚のウワサがとりまい ている」相手はその番組やレポーター。新聞によってまちまちだが、どの相手も 世間の誰もが納得する様な「財産家・実業家・有名人」ばかり まさかいっかいのサラリーマン 営業マンの須羽ミツ夫だなんて、誰も気づかない ミツ夫「ま。ありがたいけどさ」 ちょっと投げやりに思うと営業先であるパーヤン運送に向かう パーヤン運送社長「ミツ夫はん 久しぶりに今日いっぱいどや?」 仕事の話が終わるとパーヤンはミツ夫にそう言う。仕事上では取引先の社長だが 気さくな彼はミツ夫と親しい。 居酒屋でビールを飲み干すパーヤンがミツ夫に聞く パーヤン「で、パー子はんとはどうなんや?」 ミツ夫「うん、まぁまぁかな」 パーヤン「この この〜 はよ 嫁はんにしたらええやん?」 ミツ夫「うん、、、でも、わかるだろ?」 ミツ夫の親友としてパーヤンは全ての事情を知っていた。実際 彼女パー子 こと 星野スミレにも直接会って、何回か飲み会をしたこともある。パー子とパーヤンも 気があって、ミツ夫ともどもいい仲間的なつき合いをしている。 パーヤン「まぁ、そうやね なんせ大女優 星野・・」 言いかけたパーヤンの口を押さえるミツ夫 誰が聞いているとも限らない パーヤン「うんん、、、苦しいがなぁ ま、でも気持ちはわからんでもないが 大事なのは2人の気持ちやで」 ミツ夫「そうだけどさぁ せめてもう少し 給料が良ければなぁ」 パーヤン「そないな事いうたかて、稼ぐ額が違いまんがな」 ミツ夫「うん、でもさ、せめて婚約指輪くらい奮発したいんだよな」 パーヤン「よっしゃ、会社終わったらわいの所でアルバイトしいや、ミツ夫はん 大型免許もっとるし、深夜配達だから時給も奮発しまっせ」 ミツ夫「ホントかい!?」 パーヤン「これも他ならん ミツ夫はんとパー子はんの為や」 その翌日からミツ夫は昼は通常どおり営業マン 夜はパーヤン運送のドライバーと して、寝る間も惜しんで働いた。自ずとデートの時間はなくなる パー子「あの、ミツ夫さん 今日も会えないの?」 ミツ夫「あ、うん ごめん 今日も残業なんだ ちょっとしばらく会えないよ」 携帯電話から聞こえてくるミツ夫の声にパー子 ことスミレは少しためらいを覚える パー子「そう、忙しいのね・・・」 ミツ夫「え?ちょっと聞こえない。。。あ、、、、」 プツンと切れてしまう電話 ミツ夫の運転するトラックはトンネルの中を通過して いく、パー子は自宅マンションのベランダで空を見上げた。 パー子「会いたいなぁ・・・ミツ夫さん」 ミツ夫は平日は普段通りのサラリーマン 深夜と休日はパーヤン運送の ドライバーとして働いていた。せめてスミレに大きなダイヤのついた婚約指輪を プレゼントしたい その一心で彼はがむしゃらに働いていた。 ミツ夫「こんちわ〜 パーヤン運送です」 そう言ってミツ夫はプラネタリュウムの裏口から入り、積み荷を運び入れる おみやげ用の星座ポスターや、天球儀などが入った積み荷を売店に入れると ミツ夫の目に大きな指輪のポスターが飛び込んでくる ミツ夫「なんでこんなところに指輪のポスターがあるんだ?」 一人ごとを言ったつもりだったのに、しっかり売店の店員に聞かれたらしく店員は 笑いながら答えてくれる 店員「あはは、これは指輪じゃないよ お兄さん」 そう言って説明してくれるが、ミツ夫にはどうでもいい事だった。
そんな日々がすぎ 2人は何となく疎遠になっていた。スミレの方も今度の映画で 女優生命をかける!とプロダクションが大々的に宣伝している大仕事をかかえていた ロケ先は北海道や九州と日本列島をまたにかけている。 スミレ「ミツ夫さん 元気かしら」 ふとした合間に携帯を見るスミレ その携帯が突然鳴り出す この携帯の番号を 知っているのは本当に親しい友人だけだ。しかも今のスミレの仕事を知っている 友達からは よほどのことがないとかかってこないはず スミレ「はい」 パーヤン「あ、パー子はん?ミツ夫はんが大変なんや」 スミレ「ええ!交通事故で入院」 あわててかけつける病室 ミツ夫は足を包帯で巻かれつられているが本人は いたって元気そうだ。それよりなによりスミレの目をくぎづけにさせたのは ミツ夫の側で甲斐甲斐しくパジャマの替えなどを準備している女性 ミチ子だ ミツ夫「ごめんよミッちゃん」 ミチ子「ホントにびっくりしたわ ミツ夫さん」 スミレは病室に入らず立ちつくす、握りしめた手が怒りに震えるのがわかる スミレはきびすを返して病院を出ていく スミレ「そう!そういうワケだったの・・・!もう・・・もういいわよミツ夫さん なんて大ッキライ」 泣きながら車を飛ばすスミレ ミチ子「ミツ夫さんのお母様が、どうしてもいけないからって頼まれて仕方なく 来たけど、もしかして大事な人にこんな所見られたら事じゃない?」 ミチ子は病室の出入り口を心配そうに見る ミツ夫「あはは、大丈夫だよ それよりホント ごめんよミッちゃん せっかくの 休みに」 ミチ子「いいのよ、仕方ないわ いとこの結婚式じゃ お母様出席しないわけには いかないもの」 そういって自分の指に光る婚約指輪を愛おしげに見るミチ子 ミツ夫「ミッちゃんも誰かの嫁さんか」 ミチ子「うふふ ミツ夫さんも早く結婚しなさいよ」 ミツ夫「う、うん」 と携帯を見るミツ夫 それから数日たってようやくリハビリを始めているミツ夫にパーヤンがお見舞いに 来る、ミツ夫は重大な事を聞かされる ミツ夫「え。ええ!!パー子に知らせたんだって?? しかも。。。見舞いに来た」 パーヤン「なんや?遇ってないんか? おかしい 思ってたんや〜 あの日以来 パー子はんの携帯に電話しても留守電になって全然 音沙汰なしで」 ミツ夫「いつ?いつ知らせたんだい??」 ミツ夫はその日が、ミチ子が母親の代わりに着替えを持ってきていた日だと気が 付くのにそう時間を要さなかった、そしてパー子の怒りに狂った顔も想像するに そう時間を要さなかった。 ミツ夫「どうしよう・・・」 パーヤン「パー子はん 怒らすとコワイでぇ〜 こうなったらアレやな」 ミツ夫「アレって?」 パーヤン「プロポーズしかない!」 ミツ夫「ええ?なに言っちゃッてんだよ パーヤン パー子はボクとミッちゃんの 事で誤解してるんだよ そんな時に言えるわけないじゃないか!」 パーヤン「そんな時だから言わないでどうするん このままじゃ2人の仲は終わり やで、それでいいか?ミツ夫はん」 ミツ夫「で、でも、、、まだ指輪が・・・あ、そうだ!」 スミレは映画のクライマックスを無事終了し、久々の休暇を自宅マンションで すごしていた。ベットの上に仰向けに寝転がると今までの緊張の糸がほどけて 知らず知らずに涙があふれ出る。あの日、パーヤンからの連絡を受け 車をとばして 映画のロケ現場から3時間もかけてミツ夫の病院にかけつけた。そしてそこには 仲むつまじいミツ夫とミチ子の姿があった。ミチ子との仲が上手く行き、自分は 捨てられたのだ。だからいくら連絡を取ろうとしてもミツ夫は素っ気なかったのだ スミレはそう理解し、フラれた事を今になって実感する。今まで映画の仕事で 緊張し、女優として気を張りつめていたから悲しくもなければ涙も出てこなかった だが、素の自分にもどった今、今更 自分がどれだけ傷ついていたかを実感し 涙にくれた。 スミレ「ミツ夫さんは・・・ミチ子さんがやっぱり・・・・」 唇をかみしめるとボロボロとめどもなく涙が流れた。もう空は暗い 枕元に置いた 携帯の呼び出し音 今までたまっている留守電を全部消去しようとして謝って 呼び出しに応じてしまう。 ミツ夫「あ、パー子!?」 せっぱつまった様なミツ夫の声 スミレ「今更 何よ」 冷たいパー子の声にミツ夫はぐっと押し黙る、がやがて意を決したように 言う ミツ夫「言い訳はしない、ただお願いだから今 空を見てくれないか?」 スミレ「は・・・空を見てどうするの?」 あきれたようにスミレはミツ夫に言うが、ミツ夫はいつになく強い口調で言う ミツ夫「お願いだから、太陽を見てくれ 頼む!」 スミレは仕方なくベランダに出る あたりは薄暗い、 スミレ「もう夕方だったかしら?」 ふとそんなことを思いながら空を見上げると太陽は黒くなり 金の輪がほの明るく 輝いている 金環食 まるで上空に浮かんだ巨大な指輪の様だ ミツ夫「見てくれてる?太陽を」 スミレ「え、ええ 指輪みたいね・・・」

金環食なんてずいぶん久しぶりだ ましてこんなにきれいな輪になって見えるのは 確かスミレがパー子役を演じていた小学校5年生以来な気がする ミツ夫「パー子、ボクと結婚してください。あれはボクからの婚約指輪だよ」 スミレ「え?なに なに言ってるの?」 スミレはあっけにとられてすっとんきょうな声を上げるが、内心うれしくてたまら ない。ミツ夫は自分にプロポーズしてくれているのだ ミツ夫「君に内緒にしてパーヤン運送で働いてたんだ。婚約指輪くらいせめて 大きいのを買おうと思って、でもドジふんじゃってさ・・・」 スミレは唇をかみしめて震える手で携帯を握りしめていた。 ミツ夫はスミレからの応答がないのを心配げに声をかける ミツ夫「パー子?パー子 聞いてる?」 スミレ「ええ。。。聞いてるわ。私の未来の旦那様」 金環食の大きな指輪がしだいに形をくずし太陽の光がミツ夫とスミレを温かく 照らし始める。
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