|
居酒屋に若いサラリーマンが入ってくる とジャンパーに綿パンという ラフなカッコウの少し太めの青年が席で手をあげる 背広ネクタイの青年は 前髪がはねて 特徴があるものの、顔立ちが整っている好青年だ。彼の名は 「須羽ミツ夫」 ミツ夫「お久しぶりです パーヤン運送さん」 パーヤンと呼ばれた少し太めの男は顔を曇らせミツ夫に言う パーヤン「やめてぇな ミツ夫はん 会社を一歩出たら おたがい友達や」 ミツ夫「あ、そうだったね つい
いつもの癖で」 と頭をかくミツ夫 パーヤンと呼ばれた男は 大阪に「パーヤン運送」という会社を 経営している社長、本名は大山法善というお寺の住職の息子でもある ミツ夫より 1つ年上だ。ミツ夫の会社のお得意先だが、こうして会社を離れてもつき合いがあ る。2人とも気が合うのだ。 パーヤン「あ、コレうまいでぇ」 と酒の肴を奨め ミツ夫はそれに箸を延ばす ミツ夫「パーヤン 一回聞こうと思ってたんだけど」 パーヤン「ん?なんや?」 ミツ夫「パーヤンていう会社と、君のあだ名 もしかして12年前にやってた星野スミ レ主演のドラマ パーマンからつけたの?」 パーヤン「あはは そうや ミツ夫はんも見てたんかいなぁ」 12年前 ミツ夫が小学校5年生の時 星野スミレが主演ドラマ「パーマン」は 当時 大変な人気だった。もともとマンガだったのをドラマ化したもので スミレ演じるパー子というスーパーガールと、その仲間達のお話だ。 パーマン2号はチンパンジーでブービー 3号はスミレ演じるパー子 4号はパーヤン 物語の中では一回も登場しない1号はバード星という遠い星に留学しているらしい スミレ演じるお転婆パー子はその1号の帰りを待ちながら、仲間と共に地球の平和を 守るという楽しいお話 ミツ夫「へぇ〜 でもなんでパーヤンなの?1号の方がスミレが思ってる男で いいじゃない」 パーヤン「も〜 わかってるくせして・・・わての体型見ればわかるやろ?まして 大阪やでぇ、パーヤンがわいにぴったりや」 とビールを飲み干す ミツ夫「ふ〜ん でも会社の名前にしちゃうくらいパーヤンが好きだったの?」 パーヤン「そやねぇ パーヤンもいいけど、パーマン自体おもろい話で、今でも ビデオ録画してあるのをたまに見たりしまっせ」 ミツ夫「へ〜 やっぱそうか ボクも実はそうなんだ ボクが1号だったらなぁ って、良く思いながら見てたよ」 パーヤン「なんせパー子はんの思い人やからなぁ、男のあこがれ ロマンやね〜 美少女を待たせ旅立つ かっちょええなぁ」 ミツ夫「にゃははは、しかし、間抜けだよな1号って パー子と一緒の時はミッちゃ んていう別の女の子が好きなんだから ばかだよなぁ スミレに思われてるのに」 パーヤン「ミッちゃん いえば、ミチ子はんとはその後 進展してまんの?」 ミツ夫はため息混じりにグラスを置く ミツ夫「いや… 全然 この間も映画に誘ったはいいけど、カバ夫とサブまでついて きちゃって、結局4人で星野スミレの映画“ダンス”見てきたよ」 パーヤン「はぁ 相変わらず 進展なしでっかぁ」 ミチ子はミツ夫の幼なじみで、しっかり者のかわいらしい女性だ。そしてやはり 幼なじみのカバ夫とサブと共にマドンナ ミチ子をとりあっているのだが、ミチ子の 方はその3人にはまったく興味がないらしい パーヤンはミツ夫を応援しているのだが こればかりはどうにも手助け出来ない。 ミツ夫「おまけにミッちゃん 映画のラストにすっかり参っちゃって、ダンス教室に 通い出しちゃってさ、そしたらその教室の先生に夢中なんだ」 パーヤン「はぁ〜 ダンスねぇ」 ミツ夫「あの映画のラストでスミレ演じるヒロインみたいに“ボクとつき合ってくだ さい”て言われたいらしいんだけど、ボクに社交ダンスなんて出来る訳ないしなぁ」 パーヤン「なにぼやいてん?ミツ夫はん らしゅうないでぇ、そや、これ行って来て みいなぁ」 とパーヤンに渡された1枚のチケット 仮面舞踏会と書かれている 日時は明日の夜 8時、都内のホールだ。会場に入る前にマスクを渡され中に入るとマスクをつけた 男女がひしめいている。パーヤンが言うには、業界人や、政界、一流会社の社長など が集まる、一種のパーティで 仮面をつけているからおたがい気兼ねなくダンスを 楽しめるというのだ パーヤン運送もそこそこ名の通った会社なので、こんなチケッ トももらえるらしい。 パーヤン「なぁ〜に、みんなに紛れていればなんとかなるし、営業のたしになる 人脈もできるかもしれんでぇ」 ミツ夫「ふ〜ん でもなぁ」 チケットを眺めているミツ夫にパーヤンが最後の一押しとばかり 小声で言う パーヤン「星野スミレもおしのびで来るかもやで、それに人のダンス見れば なんとなしに踊れるようなるかもしれん」
紫紺のマスクをつけてミツ夫は会場内をウロウロ歩き回る。恰幅のいい男性や いかにも夜のお仕事をしているという女性 誰もかれも着飾っていて、一張羅の スーツでいるミツ夫はなんだか形見が狭い あ、でも一人だけラフなスタイルの 女性がいる、赤いマスクをつけた髪の長いその女性はセーターにミニスカート ロングブーツというシンプルな服装だが、スタイルの良さの勢か他の女性より ずっと魅力的に見える マスクを外したらどんな顔なんだろう? しげしげ見ているミツ夫の視線に気が付いて彼女がミツ夫の方を見る あわてて目をそらすミツ夫 会場内にひびく司会者の声 司会者「ご来場の皆様 ようこそ、さぁ 今宵のダンスパーティを存分にお楽しみ 下さい」 と音楽が流れ それぞれカップルとなって踊り出す。みな踊り慣れている。 ミツ夫は壁にはりついてポカンと眺めていた。一曲目が終わると 急に会場が暗くな り、司会者の声がひびく 司会者「せっかく仮面をつけているのですから、みなさん 別のパートナーと組んで みてください」 女性のマスクは暗闇の中赤く光り、男性のマスクは青く光っている ミツ夫は誰かとぶつかりふりむくと赤いマスクが光っていた。 ミツ夫(あ、どうしよう…ボク踊れませんなんていえないしなぁ) 内心冷や汗を流していると会場は再び明るくなる 目の前の女性はさっきの髪の 長いミニスカートの君だ。 女性「あら・・・」 ミツ夫「あ、さっきはどーも」 ぺこりと挨拶をするミツ夫に 彼女はニッコリ微笑む 女性「よろしく」 音楽が始まり みなが踊り始める。女性がミツ夫の手をとって踊ろうと うながすので、仕方なく踊り出す。彼女からふんわりといい香りが漂ってくる ミツ夫(香水かな?いい香りだ・・・) うっとりしているミツ夫とはうらはらに彼女は足元に注意しながら踊らなければ ならなかった。なんせミツ夫はダンスなんて全然やったことない初心者だ。 正確なステップをふむ彼女は 足を何度も踏まれそうになる 彼女は機敏にそれをよけて踊らなければならない。 ミツ夫はやわらかな彼女の香りや、しなやかな姿態にうっとりしていたが、彼女の 悲鳴で我に返る 彼女「いたい!!」 ミツ夫「え? あ、ごめんなさい」 彼女「もう!!なんて下手くそなの!あなたみたいな人がどうしてここにいるのよ こんな簡単なステップもパーフェクトに出来ないなんて」 ミツ夫「すみません・・・」 彼女「すみませんじゃないわ!信じられない 簡単なステップをパーフェクトに 出来ない人がいるなんて!!」 ヒステリックにわめき散らす彼女に 最初の好意はどこへやら だんだんむかっ腹が 立ってくる ミツ夫「パーフェクト パーフェクトって パー・パー言うなよ!パー子!!」 彼女「まぁ!パー子ですって!!」 パシーン!会場内に響く音 彼女はミツ夫に平手打ちをきめる ミツ夫は尻餅を ついて倒れ、その拍子にマスクがはずれミツ夫の素顔が見える。 彼女はスタスタその場から離れて行く。 帰り道の駅でミツ夫はさっきひっぱたかれた頬を押さえながらトボトボ歩いていた ミツ夫「まったく 何て気の強い女だ」 定期をポケットの中にしまうと、携帯電話の電源も切る 誰とも話をしたくない。
会場内では今だ大勢の人で賑わっている、さっきの女性は一人会場の隅でワイング ラスを片手にまだ憤慨している。 彼女「まったく 信じられないわあんなに下手くそな人がいるなんて・・・ まるで今度の私の役みたい」 彼女の名前は星野スミレ 有名な女優だ。スミレは監督の声を思い出す 監督「ダメダメ!そんなパーフェクトにステップふんじゃダメだよ いいかい? 今度の君の役はダンス初心者 どしろうと 運動神経0の目立たないOL
役なんだから そんなにパーフェクトにステップふんじゃダメだよ」 わかってはいる、勿論 自分の演ずる役を理解している。でも、子供の頃から ダンスを習い、まして最近オンエアされた映画の中で何度となくやったダンスの ステップを踏み外せといわれても、そう簡単には下手になれない 監督「パーフェクトにやらないでくれって! ダメだよそんな完璧じゃ」 耳から離れない「パーフェクト」という言葉、さっきの男性の様にどうして下手に なれないんだろう・・・思えばさっきの男性には悪いことをした。スミレがこの パーティに出席した理由は、まさに「どしろうと」のダンスを見ようと思ったからだ 「しろうと」がどんなダンスステップをするか勉強するためにこっそりのぞきに 来たのに、つい、彼に足を踏まれてカッとしてしまった。 それにしても「パー子」だなんて・・・小学校5年生の時にやった「パーマン」以来 そんな呼ばれ方をしたのは初めてだ。 スミレは茶色の財布が床に落ちているのを見つける 拾い上げると写真付きの名刺がひらりと落ちる さっきの男性だ。 スミレ「須羽ミツ夫…さん。あの人のお財布ね」 名刺には会社名と携帯の電話番号が書いてある、どうしよう。会場の司会者に わたそうか?それともこの電話番号に直接電話するべきか?
ミツ夫が自宅につくとチンパンジーのブービーが彼を出迎える ミツ夫「やぁ ブービー来てたのか」 ブービーはミツ夫のマンションの隣に住んでいる老夫婦の飼っている猿で、ミツ夫に 慣れている、慣れているというより親友といってもいいだろう チンパンジーといってもブービーは他のサルよりずっと賢い ミツ夫とは言葉なしで 意志の疎通が図れてしまう。ミツ夫の部屋の予備の鍵の在処も知っていて彼の留守中 勝手に部屋に上がることもたびたびだ。 ミツ夫「あれ?ブービー ビデオなんか勝手に出しちゃダメだよ」 テレビの前にビデオテープが散乱している ミツ夫「あ、、、これパーマンだ。懐かしいなぁ」 古いビデオテープに汚い字で「パーマン」と書いたラベルシールが貼ってある ミツ夫はビデオをセットしてブービーをひざに抱えて見始める。 スミレ演じるパー子は、胸に1号からもらったペンダントをいつもしていた。 作中 1号の顔も姿も1度も出てこないが、パーマン達の話ではけっしてカッコイイ 男の子ではないらしい、それでもいざという時には頼りになる、正義感の強い少年 スミレ演じるパー子は美少女アイドルにして、スーパーガールという二面性 のある役だが、どこか孤独で本当の自分を分かってもらえない葛藤を常に抱えてい る。唯一その彼女のココロを開いてくれた1号を待っていて最終回で帰ってきたらしい 1号のシルエットに喜ぶスミレ=パー子の姿で物語は終わっている。
ミツ夫「ボクが1号だったらなぁ」 久しぶりに見たパーマンを見てミツ夫はまた小五の時にさんざん思った事を思い 直す。翌朝 会社に出勤しようとして財布がないのに気が付く ミツ夫「うわぁ・・・どこで落としたんだろうもしかしてあの会場」 パー子と名付けた彼女にひっぱたかれた頬が痛み出す。とその時 携帯の電話が鳴る ミツ夫「はい 須羽です」 パー子「あ、あの昨夜はどうも・・・」 ミツ夫「え?」 パー子「あの、パー子って言えばわかるかしら?あの、あなたのお財布 昨日 拾ったの、何回も電話したんだけど電源切ってあったでしょ?通じなくて」 ミツ夫「ああ、あ、あの、ありがとうすぐにとりに行きます 今どこ?」 パー子「あ、えっと今はちょっと都合が悪いの、今夜9時にあの会場でどうかしら」 パー子 ことスミレはテレビ局への移動中 車内電話でミツ夫にかけている ミツ夫「わかりました。今夜9時に」 なんだか変な事になったなぁ、、、と腕時計を見てあわてて出勤するミツ夫。
9時前に会場内につくミツ夫 今日一日をなんとか財布なしでしのいだものの、 今月の給料のほとんど入っているあの財布がないとどうにもこれから1ヶ月やりきれ ない パー子は本当に現れるんだろうか? スミレは会場の裏手に車を止めて赤いマスクをつけるとミツ夫の前に現れる 自分が、星野スミレだなんて事がわかったら大変だ 下手に警察に財布を届けたり したら事情聴取されてマスコミの餌食になってしまう。仮面舞踏会の主催者も 参加者のプライバシーにはいっさい どんな事があっても関わらないと、財布を あずかるのを拒否された。それになんだか彼にもう一度あってみたい。 パー子「あの・・・」 ミツ夫「あ、ああ すみません ありがとう」 パー子からひったくるように財布を受け取ると中身を確かめ始める。財布の中から 映画のチケットの切れ端がポロポロ 落ちる なんとなくそれを拾うパー子 どれもスミレ主演の映画ばかりだ。 ミツ夫「ああ、よかった〜 これで1ヶ月カップラーメンですごさないですむ」 パー子「うふふ」 ミツ夫「あ・・・」 と赤くなり頭をかくミツ夫 なんだか彼女の前ではいつもかっこ悪い ミツ夫「あの、ありがとう なにかお礼をしたいんだけど、それと昨日 ひどいこと 言っちゃって ボクが君の足を踏んだのに、パー子だなんて」 パー子「いいえ、いいのよ 私パー子ってあだ名好きだし」 ミツ夫「あ、もしかしてパーマン好きだった?」 パー子「ええ!とっても気に入ってたわ パー子役… あ、いえ あの」 パー子役なんていったら自分の正体が星野スミレだとわかってしまう、あわてて 口をとざすが、ミツ夫は顔を輝かすと言う ミツ夫「うん あの時のスミレちゃん かわいかったよなぁ 君もスミレファン?」 パー子「え、ええ」 ミツ夫はパーマンの話をひとしきり彼女に話し出す。あのシーンでのパー子は 可愛いとか、お転婆な所がスミレちゃんらしくないと思ったけど、だんだん可愛く 思えてきたとか、楽しげに語るミツ夫。スミレもパー子という女の子が気に入ってい た。今でもインタビューで「一番好きな役」として答えている。 話は「パーマンのもう一人の女の子 ミッちゃん」になる、ミツ夫はミチ子の事を パー子に話し出す ミツ夫「ボクが、昨日のパーティに来たのはミチ子って子に告白する為だったんだ」 パー子「ふーん、“ダンス”のラストシーンみたいにねぇ」 “ダンス”は絶賛上映中のスミレの映画で、最後にヒーローがダンスを踊り終わった 後、片膝をついて「ボクとつき合ってください」とヒロイン スミレに告白するとい うちょっとくさいシーンが売り物のラブコメだ。 ミツ夫「参考になるかなぁ〜なんて 思ったんだけど とってもボクには無理そうだ」 パー子「なによ!ミチ子さんの事あきらめるの?いくじなしね」 ミツ夫「ムッ!なんだよ ボクの勝手だろ 別に諦めたわけじゃないさ」 パー子「じゃあ ダンスのステップくらい覚えなさいよ!好きな人の為にそのくらい の努力は必要よ」 彼女の言うことももっともだ。長年のあこがれのミチ子をダンスステップを 覚えることで、振り向かせることが出来るなら! ミツ夫「そうだな!よし やるぞ」 パー子「…と、言ってもあなた、素人以下だものねぇ」 ミツ夫「へこ〜っ」 パー子「そうだ!私がレッスンしてあげるわ、私が都合がいい時に電話するから 来れるようだったらここでレッスンしましょ」 ミツ夫「え?君が」 パー子「ええ、私 5才の頃からダンス習ってるんだから」 と閑散とした会場内で軽やかにダンスステップを踏んでみせる 映画“ダンス”の ヒロインそのものだ。 ミツ夫「うわっ、すごいなぁ・・・」
2.3日後、急に携帯の電話が鳴り、例のホールに呼び出されるミツ夫 もう夜の10時だ 普段ならとっくに家でくつろいでいるのに、パー子の電話でこんな所まで来たはいい けど、名前も知らない女性の一方的な呼び出しに応じるなんて つくづく自分が お人好しだと思いながらもホール前にいる ホールの中からパー子が顔を出す パー子「なにやってんのよ 早く来なさいよ」 マスクをつけた彼女にせかされ中に入る 早速レッスンが始まる パー子「も〜 ホントに下手ね」 憤慨するパー子にミツ夫はハタと我に返る ミツ夫「君さ!レッスンしてくれるのはうれしいけど 名前くらい教えろよ、あと この会場のレンタル料いくらかかるんだい?後で大金とられちゃかなわないや」 パー子「私の名前はパー子でいいじゃない、この会場は私の知り合いが経営してる から無料 あなたに迷惑をかけるようなことはないわ それともレッスンやめる?」 ミツ夫「あ、いや・・・」 両手を腰にあてて怒る彼女 無料でダンスレッスンをしてもらえるなら願ってもない パー子「さ、レッスンしましょ いい?こう 相手の手をとるのよ」 男性側のリードをパー子がミツ夫にしてみせる マスクをしているものの彼女が 魅力的な女性であることがわかる、繊細な細い指、しなやかな髪 手をとられ 自分の胸の中にいる女性が一生懸命ダンスのステップを教えようとしている。 パー子=スミレは下手くそなミツ夫のステップを逐一 頭に刻み込んだ。ダンスを 全くしたことのない人間がどんな動きをするのか、今度の自分の役に役立てようと 必死だった。 パー子「さ、今のをやってみて」 とミツ夫に言う ミツ夫はぎくしゃくしながら彼女の手をつかむ、。 パー子「あ、だめよそんな風にわしずかみにしちゃ もっとやさしく添えるように」 彼女の腰に手を回すが、力加減がわからないで、彼女をぐいっと抱きしめてしまう 目の前にある顔と顔 ミツ夫「あ、、、ごめん」 とあわてて手を放す。
パー子のバックから携帯の呼び出し音 パー子「あ、ちょっとごめんなさい」 広いホールの片隅にあるソファに置いたショルダーバックの方に走っていく彼女 ミツ夫は聞くともなしに彼女の電話の受け答えを聞いていた。 パー子「あ、はい ええ、 明日朝6時ね ええ、え?監督が… うん はい、わかりました。じゃあ、明日」 明日朝6時 監督? いったいどういう仕事をしてるんだろう? ミツ夫「忙しいんだね」 パー子「え、ええ まぁね・・・」 ミツ夫「君 もしかして芸能関係者なの?こんな会場の持ち主と知り合いだって言うしさぁ」 パー子「ふ〜… まぁね。でも、芸能界なんて華やかに見えるのは表面だけよ けっこう裏は大変なんだから」 パー子は仕方なさそうに言う 芸能関係者であることは事実だし、星野スミレだと わかったわけではなさそうだ。 ミツ夫「ふーん キャリアウーマンなんだな」 パー子「そんなカッコイイもんじゃないわ でも、今の仕事好きだけどね さ レッスン・レッスン」 とミツ夫の手をとるパー子
スミレはロケバスの中でいつになくボ〜っと窓の外を眺めていた。昨夜 ミツ夫に 無骨に手を握られた事をボンヤリ思い出す。ミツ夫の手は大きくてあたたかだっ た。不器用で、真面目で、ミツ夫の性格がスミレの中で確立されていく スミレ「ほんと…不器用な人ね」 一方 ミツ夫も営業先からの帰りの電車で、やはりボ〜ッと窓からの景色を眺めて いた。しなやかな彼女の手、やわらかな髪や 細い腰 昨夜の感触がまだミツ夫の 手の中に残っている。 ミツ夫「あれ?ボクなんで、、、、ボクが好きなのはミッちゃんなんだぞ」 名前も顔も知らない女性のことをなにを考えているんだろう、ミツ夫は首を ふると、携帯電話を取りだしミチ子に電話をする ミツ夫「あ、ミッちゃん ボクだよミツ夫 今日お昼一緒にしないかい?」 「レストラン タベルナ」ライバル サブの経営する店でミチ子が先に待っていた サブ「ミツ夫くん 抜け駆けはゆるしませんよ」 サブがコックの帽子をかぶってミチ子の側にいる。 ミツ夫「チェッ、食事しに来たんだからありがたく思えよ ミッちゃんなにもここ じゃなくたって」 ミチ子「いいじゃない、サブくんのお料理おいしいもの」 ミチ子が自分とふたりきりになるのを避けているのが鈍感なミツ夫にも わかっていた。ミチ子は自分を競って3人がライバル同士なのをある種楽しんで いる様な所がある。昔から自分が魅力的なのをちゃんと知っていて男性が 自分の為に何かをしてくれるのを、特に媚びるでもなくやらせてしまう。この目で 見れば、相手が自分の願いを叶えてくれる。そんなちょっとした計算が彼女の中に あるのも、、、それでもミツ夫をはじめ、彼女にアタックしている男は多い ミツ夫の鼻をくすぐるやわらかな香り、どこかでかいだことがある香りだ。
ミツ夫「あれ?ミッちゃん 香水つけてるの?」 ミチ子「あら、よくわかったわね CK-1よ 星野スミレがつけてるのと一緒」 ミチ子が言うには星野スミレは若い女性のファッションリーダーでもある、だから 彼女が身につけているモノを若い女性はこぞって取り入れるという。 ミツ夫「ああ、だからパー子も・・・」 この香りはパー子と一緒だ。そういえばミチ子の身につけているセーターもパー子と 同じデザインだな。ミチ子のとりとめのないおしゃべりを上の空で聞いているミツ夫 ミチ子の話のほとんどがファッションや、ブランドバックといった、おしゃれ系の 話だ。若い女性はそういう話が好きだから仕方ない。でも、ミチ子は昔、宇宙飛行士 になるべく努力していたんじゃなかったっけ? ミツ夫「ミッちゃん、いつから宇宙飛行士になるのあきらめたの?」 突然、とんでもない方向に話を持って行かれあっけにとられながらミチ子が言う ミチ子「ミツ夫さんいつの話をしてるの?それ小学校の時でしょ?あ、そういえば ミツ夫さん 将来は正義の味方になりたかったのよね」 コロコロ笑い出すミチ子。
ミツ夫「そんなことないよパーヤン」 パーヤン「いんや、そのパー子とかいう女、気をつけたほうがいいで、だいたい 名前も顔も見せないで、なんで見ず知らずの男にダンスレッスンなんてするんや?」 ミツ夫「うん、、、それは、、、そうだけど」 パーヤン「ミツ夫はんは 人がええから、だましやすいしなぁ」 ミツ夫「だけど・・・」 居酒屋で酒を酌み交わしながらパーヤンがミツ夫に忠告する。 パーヤン「それに話 聞いとるとミツ夫はん そのパー子とかいう女に惚れはじめ とるでぇ」 ミツ夫「ば。ばかいえ!」 真っ赤になって怒るミツ夫をニヤニヤしながら見るパーヤン パーヤン「せめて携帯の電話番号くらい教えてもらっとくんやな」
ミツ夫「ちぇっパーヤンの奴、なに寝ぼけたこと言ってんだい、ボクが 顔も名前もしらない子に惚れる訳ないんじゃないか」 ぶつぶつ言いながら帰宅するとブービーがまた部屋をちらかしている。 ミツ夫「あ〜あ〜 も〜やめろよブービー」 ブービー「ウッキャ!」 ブービーはオレンジのマスクをつけてミツ夫に飛びかかる ミツ夫「わっ!?なんだそのマスク・・・そんなものまだあったのか〜」 パーマニアだったミツ夫はパーマンのマスクを1号〜4号までコレクションしていた ブービーはさながらパーマン2号だ。 ミツ夫「押入の中にまだ、そんなの残ってたんだなぁ」 1号の青いマスクを手に取るミツ夫 ミツ夫が一人暮らしをし出したのは大学の時 だった。大事な宝物だったパーマンマスクの玩具を実家においといたら捨てられる そう思ってそういえば持ってきたんだっけ。
ミツ夫はその夜 パーマン1号になって空を飛んでいる夢を見た、小学校5年生の ミツ夫は、パー子をスミレだと知らずに 近所の可愛い女の子ミッちゃんに夢中だ パー子がヤキモチをやいて自分にヒステリックに怒鳴り散らす ミツ夫1号「うるさいな!お転婆パー子」 パー子「なによ!鈍感」 空の上で口げんかをしながらミツ夫はパー子へのほのかな思いをいだいている自分に 気が付く、そして繰り返し思う「名前も顔も知らない子を好きになるわけがない」 ミツ夫1号はバード星に旅立つ間際 パー子がスミレだと知らされる。 (あこがれのスミレがパー子だったなんて・・・)ショックと同時にパー子への 自分の気持ちに初めて素直になれる自分。そこで夢から醒める 目覚まし時計がけたたましい音を立てている ミツ夫「ん・・・ん〜今日は日曜だよ〜・・・」 寝ぼけ眼で時計を止めると大きくあくびをする 変な夢見たなぁ 「名前も顔も知らないのに・・・っか」 クスリッと一人で笑う、まるでパー子と自分みたいだな、携帯電話が鳴る ミツ夫「あ、パー子」 パー子「ミツ夫さん 今日時間ある?私 今日一日開いちゃったの よかったら 例のホールで今日 一日みっちりレッスンしてあげるわ」 なんだか張り切ってるパー子の弾んだ声に吊られて承諾するとホールへ 電車で 移動中 昨夜のパーヤンの言葉がよみがえる パーヤン「せめて携帯の電話番号くらい教えてもらっとくんやな」
パー子「え、携帯の番号?」 躊躇するパー子 携帯の番号教えるって事は、つまりミツ夫の方からも連絡が来る って事になる。もし撮影中にかかってくると・・・自分の正体がバレてしまう可能性 大だ。ミツ夫はパー子の顔をじっと見ていう ミツ夫「そうさ、ボクの事は何でも知ってるのに、君の事は名前も顔も知らないんだ せめて携帯の番号くらい教えてくれたっていいだろ」 パー子「でも、、、私たちってそんな関係じゃないじゃない?貴方がダンスが出来る 様になれば、それで終わりだし、あ、そうコレ」 とチケットを2枚 ミツ夫に渡す ミツ夫「え?これって」 パー子「また、ここでダンスパーティがあるの、ミチ子さんを連れてきて 告白しなさいよ、もう最後のステップで左足じゃなく、右足を出せば完璧よ」 ミツ夫「う、うん、ありがとう・・・」 浮かぬ顔で受け取るミツ夫 パー子「星野スミレがゲストで来るわよ そのダンスパーティ」 そういって立ち去ろうとするパー子の背中にミツ夫があわてて言う ミツ夫「あ、あの、今までありがとう、もう…会えないの…かな?」 パー子「そうね、でも、もしかしてそのパーティに来るかも、貴方がちゃんと 踊れるかどうか確かめなくちゃね」 ミツ夫はパー子の背中を茫然と眺めていた。なんだろう、この喪失感は…
パーティを前日に控えてスミレはだんだん、複雑な気分になってくる。明日 きっと ミツ夫は完璧に踊ってみせ、ミチ子に告白するだろう、そうすればミチ子はミツ夫の 申し込みに答えるにきまってる。それが最初の目的だった。自分もミツ夫の下手くそ なステップのおかげで無事にドラマの撮影もすんだ。おたがいのもくろみは達成出来 ハッピーエンドだ。なのに、どうして?どうしてこんなに気持ちがざわめくんだろう
ミチ子は濃いピンクのフェミニンなドレスを身にまとって会場に現れる ミツ夫も レンタルしたタキシードを着て彼女を待っていた。 ミツ夫「ミッちゃん。とっても似合ってるよ」 ミチ子「うふふ ミツ夫さんもステキよ」 2人で連れだって会場に入る ミツ夫は長年のマドンナ ミチ子とやっと2人きりの デートにこぎつけたものの、会場内をパー子の姿を求めていた。 ミツ夫(パー子・・・この中にいるのかな?) ミチ子もちょっと複雑な気分だった。ミツ夫がダンスパーティに誘ってくれるなんて 映画のラストシーンをやろうとしているのが分かる。 ミチ子(ホントにミツ夫さん 踊れるのかしら?) こんなに沢山の人の中 恥をかかされるのはゴメンだ。でも、もし映画のラスト みたいにカッコ良く ダンスを踊り終わって告白されたら、そしたらつき合ってあ げてもいいな、ミチ子はミツ夫の顔を見る ミチ子「ミツ夫さん 誰か探してるの?」 ミツ夫「え?ああ、いや そんなことないよ」
やがて司会者が本日のメインゲスト 星野スミレと美小年彦を紹介する 映画「ダン ス」のヒーローとヒロインだ。スミレは黒いシンプルなドレスを身にまとい、スポ ットライトの中 会場中央でゆっくりと会釈する 2人が踊り出し、それを合図に 客達もホールに踊り出す ミチ子「ステキ ミツ夫さん いつの間に踊れるようになったの?」 ミツ夫「んふふ 内緒さ」 完璧にステップをふむミツ夫にミチ子はうっとりとしている。もう これで半分 成功したも同然だ。と、その時 スミレと年彦のカップルと肩がぶつかり合う スミレ「あ、ごめんなさい」 ミツ夫「え、いえこちらこそ」 ミツ夫はスミレにうっとりし、ミチ子がムッとする ミツ夫(パー子…見ててくれてるかな?) スミレは踊りをやめ 控え室に一人戻ると鏡の前の自分を見る スミレ「ミツ夫さん・・・」 あの女性がミチ子なのか、ミツ夫が言うとおり可愛らしい女性だ。ミツ夫も教えた とおりちゃんと踊れていた。きっとこれで2人は公私ともにカップルになるだろう
ミツ夫はミチ子と踊りながらまたもパー子を探していた。なぜ自分がパー子を思って いるのか?なぜ彼女を会場内に捜し出そうとしているのか?そんな時 パーマン1号の 台詞が脳裏をよぎる 1号「誰がお転婆パー子なんか好きなもんか!ボクが好きなのはミッちゃんだぞ」 意地を張って2号やコピーロボットに言っている台詞だ。 スミレはドレスを脱ぎ 私服に着替えようとして思いとどまると深紅のドレスを身に まとう、もう一度パー子になって、愛弟子ミツ夫の晴れ舞台を、ミチ子への愛の告白 をしっかり見届けよう、そしてミツ夫への思いをこれで終わりにしよう。
ダンスも後少しで終わる、決戦の時 「最後のステップの足を間違えないで」 何度となくパー子に注意された事を思い出す。 ミチ子(ミツ夫さんが告白してきたら…OKしちゃおう) ミツ夫(右足・右足・・・) ミチ子「いたい!」 悲鳴をあげるミチ子 足を踏んだミツ夫をキッとにらんでひっぱたく ミチ子「もう!ミツ夫さんなんてキライ!」 一人 会場のホール中央に残されるミツ夫 ミチ子が自分のコートを持って玄関に 歩いていくのが見える それをひっぱたかれた頬をおさえて眺めているミツ夫 パー子「何してるの!?早く追いかけなさいよ」 振り向くとパー子が赤いマスクとドレスで立っている 今のを見られていたのだ 音楽が流れ初め 新たにダンスが始まる ミツ夫はパー子に手を伸ばしていう ミツ夫「しゃる うぃ だんす?」 パー子「何言ってるの!早く彼女を…」 そう言いながらもダンスを始める2人 パー子「バカね… せっかくのチャンスを」 ミツ夫「今は、ダンスを楽しもうよ」 曲が終わり ミツ夫は今度は間違えずに右足を出す 完璧にマスターしているのを 知りパー子がミツ夫の顔を見る ミツ夫「パー子さん ボクとつき合ってください」 映画ダンスのラストシーンの様に言うミツ夫。会場のシャンデリアがその2人を やさしく照らしている。パー子は頬を赤らめながらも腰に手を当てて言う パー子「私が誰だかもしらないくせに、そんな事言って良いの?」 ミツ夫「知ってるさ、パー子っていう気の強い 口数の減らない女さ」 パー子「まぁ!なんですって」 ミツ夫「ほら、やっぱりボクが思ってる通りじゃない、でもボクはそんな君が 好きになっちゃったんだ」 パー子「……最近知り合ったばかりなのに」 ミツ夫「ボクのことキライかい?」 パー子の顔を心配げにのぞきこむミツ夫 パー子「ううん 私も好きよミツ夫さん」 そう言って赤いマスクを外すパー子 その顔を見て驚くミツ夫 ミツ夫「君は・・・!」
イタズラっぽく微笑むスミレ 会場内にまた新しい音楽が流れ始める。
|