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| ■ モノローグ |
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ギリシャ神話に登場するケンタウルスは、上半身が人間で下半身が馬である不思議な生き物だ。 ダンテの神曲では、現世の暴君たちを血の川で責め懲らしめる、地獄の世界の生き物として描かれている。 しかし、古代ギリシャ人にとってケンタウルスは、畏怖の対象ではあるけれども同時に愛すべき生き物であった。 ギリシャ神話では、ヘラクレスと出会ったケンタウルスのフォローの話がでてくる。 フォローはヘラクレスと意気投合し、酒の神バッカスが贈った酒まで振る舞った。 それを知った他のケンタウルスたちが嫉妬し、怒り、ヘラクレスに襲いかかる。 ヘラクレスは毒を塗った矢を放ってケンタウルス達を追い払う。 だが、フォローは仲間達の遺体を葬ろうとして、誤って毒の塗られた矢を自分の足に差し死んでしまうのだ。 全能の神ゼウスは心優しいフォローの死を悼み、天に上げて星にしたという。 そんな古代ギリシャの時代から人々は、ケンタウルス座を地球から見える天体の中で最も美しい星座のひとつに数えていた。 ケンタウルス座を彩る恒星の中で一際輝いて見えるのはアルファ星である。 銀河系の生命体の中で最も高度な文明を持つバード人は、アルファ星を回っている惑星の一つ、バード星に暮らしている地球外生命体だ。 随分と昔・・・僕が子供の頃の話だ。 僕はバード人と出会った。 彼と出会わなければ全く違った人生を歩んでいたことは確かだ。 彼との出会いはまったくの偶然だったのだろうか。 少なくとも昔はそう思っていた。 今は、バード人と出会う運命にあったんだと思うようにしている。 ともかく。 僕がバード人とはじめて出会ったのは小学生の時だ。 バード人は、おっちょこちょいで、とぼけていて、厳しくて、やさしくて、つまり、古代ギリシャ人が愛したケンタウルスのような人物だ。 僕は彼のことをバードマンって呼んだ。 バードマンと出会った日のことは鮮明に覚えている。 当時は東京の郊外に住んでいた。 今じゃマンションや宅地が立ち並ぶ地域だが、あの頃はちょっとした空き地なんかがあって子供の遊び場が結構残っていたものだ。 僕は空き地で一人、友達とケンカして服まで汚して、むしゃくしゃしていた。 「なんかスカーッとすることないかな。」 と、その時背後で声がした。 「あ〜あ、よく眠った。なにしろ地球までの旅は長かったからからなあ、くだびれたよ。ついたとたんにグッスリ・・・・アーッ!もう帰らなくちゃいけない時間だ。まだ全然つとめを果たしていないのに。」 空き地の草むらで昼寝から目を覚ましたバードマンは慌てて叫んだ。 僕は彼のことを、まじまじと眺めた。 彼は、グレーの宇宙服に赤いマント、そして鼻の下まで正体を隠す紺色のマスクを被っていた。 彼のかたわらには一人用の小型の円盤があった。 ・・・ワクワクするような予感がした。なぜか、怖さや恐れより、好奇心の方が先立った。 勇気を振り絞って僕は話しかけてみた。 彼は僕をじっと見つめ、 「・・・君は地球人だな。よし、最初の一人は君で間に合わせておこう。まあ、この際だ。ぜいたくは言っておれん。これをやるからパーマンになれ。」 といって、パーマンセットを僕に与えた。 空を自由に飛べるマント 6600倍の力が出るマスク 酸素ボンベにもなる通信用バッヂ そして自分の身代わりになるコピーロボット バードマンは僕のほかの少年少女たちにもパーマンセットを与え、パトロール隊を結成させた。 パトロール隊の2号はチンパンジーのブービー、3号は女の子のパー子、4号は生粋の関西人のパーやん。 僕達パーマンは数え切れない大勢の人々の手助けをした。 ただ、「ありがとう」という言葉が聞きたくて。 バードマンは少年少女にだけ、パーマンセットを託した。 彼が言うには、分析の結果、パーマンセットを託すことの出来る信用に値する人間は、少年少女だけだったらしい。 結局のところ、地球人にパーマンセットを与えた彼の目的は何だったのだろうか。 バードマンはこう答えたことがある。 「本来、個々の星における諸問題の解決は、その星の住民によって自ら解決されるべきものだ。しかしながら、誤って自ら滅びる道に進んでいってしまった種族も多い。だから、ある程度の手助けはしようじゃないか、ということさ。」 どちらにしても、お節介な話だけど、おかげでパーマンになれたのだから、僕にとってはどうでもかまわない話だ。 それまでの僕は、勉強も運動もたいして出来やしない、どこにでもいる小学生だった。 普段の僕は出来損ないの駄目な小学生の須羽満夫だ。 パーマンになって超人的な力を持つと皆から一目置かれるヒーローになった。 でもパーマンであることは絶対に秘密だ。秘密を漏らすとバードマンが持つ細胞変換銃で動物にされてしまう。 素顔の須羽満夫、そしてパーマン1号。 僕は一体何者なんだろう。 どちらも僕であることには変わりがないのに。 考え込み、悩み、不安になり、パーマンを辞めたくなったことも一度や二度じゃない。 そんな時はいつもバードマンや他のパーマン達に励まされたものだ。 そんな一番頼りない僕がパトロール隊のリーダーだなんて宇宙人の考えることは本当に分からない。 僕がパーマンになってから1年が過ぎたころ、僕はバード星に留学することになった。 「バード星への留学は、パーマンの中で特に資質に優れた者に対し、パーマンのリーダーとしてふさわしい能力を 身に付けさせるために行うものだ。」 これまでの僕の人生からすれば、特に資質に優れたものなんて何もないはずなのに。 「選ばれた基準?地球人の中で知能、体力に優れた者であっても、我々バード人にしてみれば大した差ではない。 だから、一番重要なのは、どれだけ頑張ることの出来る人間なのかってことなんだ。」 頑張ることの出来る人間? ブービーだってパー子だってパーやんだって、皆も頑張っているじゃないか。 「それより弱虫が正義のために必死で勇気をふるいおこして戦うほうが、どんなにたいへんだろう。」 釈然とはしなかった。 しかも憧れだったバード星に留学できるのに、急に寂しくなってきた。 出発の日まで行きたくないと駄々をこねたりした。 「もういい!いつまでもママのおっぱいをしゃぶってろ!」 バードマンにハッパをかけられ、悔しさ半分と、僕は頑張ることの出来る人間なんだってことを証明するために、家を飛び出した。 新しい世界をみにいくため世界中から集まったパーマン達を乗せた小型円盤が数十機、僕の家の上空に集まっていた。 ブービー、パー子、パーやんが見送ってくれた。 餞別としてブービーはバナナを、パーやんはお寺のお守りをくれた。 そして、パー子は僕だけに、マスクを脱いでパーマンたちにも秘密にしていた素顔を見せてくれた。 それまで頑なに仲間達に見せることのなかった素顔だった。 彼女の素顔は僕の大好きなアイドル、星野スミレちゃんだった。 パー子が星野スミレちゃんと友達だってことは知っていたけど、まさか、本人だったなんて。 でもバードマンだけは知っていたはずだ。 僕は一人乗り用の円盤を操縦しながら、ぼんやりと考えていた。 パー子がなぜ素顔を見せてくれたのか。 そもそも、なぜパー子は僕らにも素顔を秘密にしていたのか。 無線機でバードマンに話しかけた。 「バードマンはパー子が星野スミレちゃんだったってこと、知ってたんでしょ。」 「そりゃ当然だ。」 「何であの子は、これまで僕らにも素顔を秘密にしてたんだろう。」 「まぁ、なんてったってアイドルだからな。特に1号は星野スミレの大ファンだろう。素顔を知ったら特別扱いをするはずだ。彼女は皆に普通に接してもらいたかったんだよ。」 「・・・それじゃあ、さっき僕に素顔を見せたのは・・・」 「んーまあ、あれだな。やっぱり、何だかんだ言っても最後は自分の素顔を知っておいてもらいたかったんだろうな。ホントーに乙女心というのは複雑だなあ。ウンウン。」 複雑な気持ちだった。 彼女が星野スミレちゃんだと知っていたら、やっぱり普通に接することは出来なかったと思う。 特別扱いしてもらいたくない気持ち。僕と正反対だ。 僕はチヤホヤされるのを望んでいたのに、彼女は嫌がっていたなんて。 でも僕に素顔を見せたということは・・・ もう、僕とは、これまでと同じように一緒に仕事をすることはないってことなのか。 彼女はそう思っているのだろうか。 もう、パー子とは一緒にパトロールをすることはないのだろうか。 遠く離れた世界に向かっていく円盤を操縦しながら、僕はずっとぼんやりとしていた。 僕は地球からの第1期留学生だった。 留学生の仲間は総勢25人。期間は地球でいうところの約2年間。 僕の場合は中学2年生になる直前に留学期間が終了することになっていた。 バード人の高度な文明と高い知力、能力を日々見せ付けられて、地球人なんて非常にちっぽけな存在なんだって思い知らされる日々。 僕達はタフにならざるをえない。 僕が地球にいない間、僕の代わりとして留守をつとめているのは僕のコピーロボットだった。 彼は心を持っているロボットだ。留学中でも彼とは遠隔記録交換機を使ったて定期的な記憶の交換が義務付けられていた。 ただし、バード星での具体的な研修内容は記憶フィルター処理により伝送されない。 定期的な記憶の交換は、僕の心身の成長にあわせてコピーロボットも成長させる必要があるということと、僕が地球に戻ったときに、日常生活上のギャップが生じないようにするためだ。 リィのことはコピーロボットに伝わってしまうのだろうか・・・。 パー子にばれないかちょっと心配だった。 僕が留学生の中で一番親しかったのは、リィ・フォイリン。香港で活躍していた女の子のパーマンで、僕の1つ年上になる。 都会っ子の彼女は、静かで知的な語り口とスマートな立ち振る舞いで、見るからに優秀なパーマンだった。 僕はバード星でもドジばっかり踏んでいたけれど、彼女はやさしい笑顔で励ましてくれた。 僕は何というか・・・おだてに弱いタイプで・・・彼女の励ましにこたえなくちゃと思うと一層頑張れた。 何で彼女は僕に気を使ってくれるのかしら? 「そうねぇ・・・私の弟に似ているのよ。ちょっと頼りないところとかね。 でもね、私の弟はとても優しいのよ。そんなところがスワ君とそっくりなの。」 ちょっと、くすぐったい気分がしたけれど、冷静に考えてみると・・・僕は長男なんだけどな。 いかにも頼りなさそうだから弟タイプなんだろうなぁ。 彼女のやさしいまなざしを見ていると、僕自身、彼女の弟のような気がしていた。 「おいっ、スワ!今日も居残り特訓かい?相変わらず変り者だな。たまには残業代金でも貰ったらどうだ?」 ニヤッとした表情を浮かべたロビーが話しかけてきた。 「別に好きで居残りさせられているわけじゃないよ。」 ロビー・チャイムズはアメリカのパーマンで、僕の2つ年上だ。 僕を見ると必ず皮肉ともつかない冗談を言ってくる。 正直言って、ちょっと苦手だった。 リィと仲がよいことでも、よくロビーにからかわれた。 「スワは、姉さんを作るためにバード星に来たのかい?」 「そ、そんなわけないだろう!」 パー子も夢に出てきた。 「1号!何やってんの!」 「えっ、何ってなに?」 「バード星でも女の子にうつつ抜かしているのね!」 「誤解だよ!弟だって言われるぐらいなんだから!」 「なによそれ。あんたは長男でしょ!」 「違うよ、弟なんだよ!パー子、信じてくれよ!」 うわっ・・・・・夢か・・・・・ヘンな夢・・・・ まさか、パー子の夢でうなされるとは・・・ね。 バードマンはしょっちゅう僕に会いに来てくれた。色々気にかけてくれている。正直、嬉しかった。 留学期間が1年を過ぎたごろだ。その日のバードマンはいつもの陽気な様子ではなかった。 眉間に皺を寄せ、ため息をついて言った。 「実は、留学生のリィのことだがね。」 バードマンによると、彼女の弟は元々体が弱く病気がちなのだという。 「そんなに心配するほどではないと思っていたのだが・・・」 最近ずっと寝込んでいて、先日、容態が悪化したらしい。 「彼女は地球に帰りたがっている。相当心配なんだろう。」 そんな・・・まったく知らなかった。 「もうこれ以上、バード星には居られないと言ってきたんだ。」 帰りたがっている・・・バード星にはいられない・・・ 彼女はひとりでずっと悩んでいたのに。 僕は何の頼りにもならなかった。 何もしてやれず助けられない自分に腹が立っていた。 彼女の帰国の日、みんなで彼女を空港まで見送ることにした。 彼女は留学生ひとりひとりと笑顔で握手を交わし、僕の番になった。 せめて、僕も笑顔で見送ろう。 「・・・お元気で。」 「スワ君。本当にありがとう。あなたは優秀なパーマンよ。負けないでね。」 彼女を勇気づけなきゃいけないのに、僕の方が彼女に勇気づけられてしまった。 僕の隣にはロビーがいた。 ロビーの前にリィが近寄っていく。 お互い黙ったまま。 リィはうつむいている。 よく見ると頬に涙がこぼれていた。 ロビーは何も言わず、リィの肩に手をやり、そして静かに微笑んで言った。 「また、会おう。」 リィの肩が少し震えているような気がした。 その時にはじめて分かった。 リィはロビーのことが好きだったんだ。 ロビーは優しい笑顔で彼女を見送った。 彼女を勇気づけていたのはロビーだったんだ。 僕は彼女に勇気を与えることが出来なかった。 もうすぐ留学期間の2年が経とうとしていたある日、バードマンが僕を呼び出した。 「やあ、1号元気にしていたかね。そろそろ、留学も終わりだな。」 「そうですね。あっという間の2年間だったなあ。」 「どうだ、少しは立派なパーマンになれたと思うかい?」 「どうかなあ。何も変っていない気もするけど・・・少しは成長したのかなぁ。」 「はっはっは。そのことだがな、バード星での君の評価は著しく高いのだよ。いやあ、私も鼻が高いよ。」 「へっ、そんなことないでしょ。」 「いやあ、私も驚いたよ。実に能天気だというところが、みんなに認められたんだよ。」 「それは・・・馬鹿にされているだけじゃないですか!」 「いいや。打たれ強いというか何というか、多少厳しく接しても問題ないので、色々と教えることが出来るっていうんだ。立ち直りが早いから、教える側からすれば何の遠慮の必要もない。1号の性格が、ここでは良い方向に作用しているようだ。」 相変わらず、釈然としない説明だ。 「ところでバードマン、みんなに会うのも久しぶりだし、何かおみやげを持って行きたいんだけど。」 「えっ、みやげ?いかん、いかん。バード星のものは持ち出し禁止だ。」 「規則で決まっているの?」 「その星の文明基準によって持ち出し制限基準が異なる。地球の場合、まあ大抵のものは駄目だな。」 「駄目じゃないものって何があるのさ。」 「そうだなぁ・・・。機器類の持ち出しは絶対に認められんし・・・。あっそうだ。ここからちょっと離れるが、『静かな丘』と呼ばれている街があってな。辺りが一望できる丘があるから付けた地名なんだろうけど、このあたりはミニジュウムという鉱石がとれるんだ。金によく似た鉱石でね。色んな装飾品によく使われるんだよ。地球には存在しない鉱石だが、金と見分けが付かないし、一般の地球人に渡すのは問題だが、パーマンたちだけなら、まあ良いだろう。現地のスタッフに頼めば、その場で好きなように加工してくれるからね。値段も安いし。よし、私が買ってきてあげよう。」 「ほんと?助かるなぁ。でも、パー子やパーやんはいいとして、ブービーは興味ないんじゃない?」 「確かに。とはいっても、この星にバナナはないからなあ。2号には菓子でいいんじゃないか。」 ミニジュウムで作ったペンダントはパー子に、手のひらサイズの仏像はパーやんへのおみやげだ。 ブービーにはバード星のお菓子にした。 来月は中学2年生に進級するという時期に地球に帰ってきた。 コピーとの遠隔記録交換機による記憶の交換で分かっていたこととはいえ、やっぱり懐かしかった。 パパはちょっと太ったかな。ガン子は大きくなっていた。ママはあんまり変らないや。 学校のみんなは、ちょっと大人びてきたような気がした。 みっちゃんとは別のクラスになったが、廊下ですれ違った彼女は一段と可愛くみえた。 コピーによるとパーマンがいなくなってから落ち込んでいた日々もあったようだ。 「もう、パーマンは戻ってこないの?」 幾度となくコピーに聞いてきたらしい。 さすがに今では大分ふっきれたようだ。 でも、パーマン1号が帰ってきたと知れば、みっちゃんのパーマン熱も再び燃え上がるだろう。 それが心苦しかった。 みっちゃんが、いくらパーマンが好きであってもパーマンの正体は知ることは出来ない。 僕はみっちゃんが好きだった。みっちゃんが僕に振り向いてくれたらと願っていたこともあった。 でも、心の奥底では分かっていたのだ。 パーマンマスクの外側に目を奪われているみっちゃんが、僕を理解してくれるなんてことはないってことを。 「1号はん、しばらく見ないうちにえらい男前になったな。」 「パーやんこそ、背が伸びたんじゃない。」 「まあ、お互い成長期ってことやな。」 そう、僕はバード星にいる間に急に背が伸び始めていた。 目の前のコピーが何となく別人に見えるのもそのせいだ。 そう。僕らは、もう小学生ではなかった。 そして、パー子。 「ねえねえ、1号、聞かせて、バード星のこと!」 「ウッキー!ウッキー!」 「それより先に、みんなにバード星のおみやげがあるんだ。はい、ブービーにはバード星のお菓子だよ。」 「ウキャキャ!」 「かもめの玉子みたいな味がするんだ。えっ、知らない?かもめの玉子。すごく美味しいんだけどな。 えーと、パー子にはね、ペンダントだよ。」 「えっー!1号からペンダントのプレゼントだなんて嬉しいわ!まあ、金のペンダントね!」 「えへへ・・・これはね、ミニジュウムっていうバード星の鉱石で作ったんだ。向こうじゃお小遣いは貰えないから、バードマンが買ってくれたんだけどね。気に入ってくれればいいんだけど・・・。」 「あら、ロケットね!何の写真を飾ろうかしら!」 「・・・パーやんには同じくミニジュウムで作った仏像だよ。」 「おおきに!ところで1号はん、この仏像、浴衣着てまっせ。」 「・・・みんな、今日から僕もまた一緒にパトロールするからね。張り切っていこうぜ!」 その日は、みんなと久しぶりに大空を飛んだ。 「1号、もうちょっと散歩していかない?」 みんなと別れた直後に、パー子から連絡が入った。 僕達は海岸沿いを飛んでいた。 静かな海辺をみつけ、砂浜に腰を下ろし、ただ二人で夕暮れ時の海を眺めていた。 留学前は同じぐらいの背丈だったのに、今じゃ僕の方が大きい。 僕の隣りで海を眺めているパー子をチラッと横目で見てみる。 何だか、ふっくらとした部分が・・・女性らしくなったというか・・・女性なのだが・・・。 見ているこっちが恥ずかしくなって思わず目をそらす。 「私ね・・・。」 「えっ、何?」 「ひと気のない海って大好きなの。」 「ふ、ふーん。何で?」 「私、他の女の子と同じように過ごすことって、あんまり出来ないから・・・。 時々、ひとりになりたいときがあるの。 そんなときは、こうやって人のいない海に来て、ただ海を眺めてるのよ。そうすると何だか落ち着くの。」 そうなんだよな。彼女の素顔は人気アイドル、星野スミレなんだ。 僕は星野スミレと一緒にいる。 それなのに、胸が高まるというよりは、不思議にやすらいだ気持ちになっていた。 彼女がマスクを被っているままだからだろうか。それとも、海を眺めていると気分が落ち着くのか。 昔の僕なら浮かれまくっていたはずなのに。 何だか、せつない気持ちがしてくる。何なんだろう、この気持ちは。 太陽が沈んできた。そろそろ帰らないとコピーも心配するだろう。 「寒くなってきたね。帰ろうか。」 「ええ。」 数日後、バードマンから連絡が入った。 バードマンは珍しく真面目くさった顔で部屋に入ってきた。 「1号、今回の留学では、本当によく頑張って勉強してくれた。」 「何言ってんですか、今さら。照れくさいなあ。」 「そんな君にだ、本部から留学期間を延長させたらどうかという話が来ているのだよ。」 「ええっー!」 「君はパーマンのリーダーとしてふさわしい能力を身につけるためにバード星に留学した。そして今ではその能力は充分にある・・・というわけでもない。」 「ヘコッ! だから留学の延長が必要だっていうんですか。」 「いいや、そういうわけじゃないんだ。君をいずれは宇宙パトロール隊に参加させてみたらどうかという話なんだよ。つまり、バードマンの一員として宇宙パトロール隊に入隊するために、その訓練期間として、留学期間の延長が必要だということなんだ。」 「えっ、僕がバードマンの一員にですか!なぜなんです?」 「地球人である君は我々と同じ能力を持っているわけではない。だけど、宇宙パトロール隊に必要なのは高い能力の人だけというわけではないんだよ。やる気や明るさやチームワーク・・・何より、『この人と一緒のチームを組みたい』ってみんなが思うことが大切なんだ。君には、そう思わせる『何か』があるようだ。それが君の能力なんだよ。」 バードマン達に認められている。 しかも、僕もバードマンになれるかも知れない。そんな話に単純に喜んでいた。 でも、バードマンは険しい表情を崩そうとはしない。 「宇宙パトロールは大変な仕事だ。いかなる危険に遭遇しても、最低限、自分自身を守れるようになるためには、そのための訓練期間としてさらに2年は必要だろう。正式に宇宙パトロール隊に入隊したら、さらに長い間、地球から離れて暮らしていかなければならない。地球には君の家族や友人もいる。そして君を慕っているパーマン達がいる。それなのに今回の話は、ひょっとしたら君を不幸にしてしまうかも知れない・・・。そういう事態を私は完全には否定できないのだよ。私は、君を不幸にするためにパーマンにしたのではない。」 ここまで一気に話したバードマンは、深い溜息をついた後、僕を見据えて微笑んた。 「・・・君は我々の所有物ではない。君の意思を尊重するよ。」 1週間後、バードマンはみんなを郊外の山中に呼び出した。 僕はすでにバード星に行くことを決心していた。 「留学期間の延長は地球で言うところの約2年だ。そこで頑張り続ければ、我々バードマンと同じように宇宙パトロール隊へ編入できる。」 バードマンが留学の延長について、パーマンチームに説明してくれた。仲間達はショックを隠せないようだ。 「僕は応援するよ。」 沈黙を破ってコピーロボットが笑顔で言った。 彼は僕の思いをよく理解してくれていた。 パーやんが言った。 「急にこんなこといわれても・・・帰ってきたばかりやないか。直接1号はんの口から聞きたいな。なぜ、留学を続けることにしたんや。」 「僕は・・・、僕は今まで、パーマンを辞めるとかいってみんなを困らせたり、ドジだから色々失敗して迷惑をかけたりしてきた。それでも、これまで僕がパーマンでいれた理由は、みんなが僕を助けてきてくれたからなんだ。 みんなには感謝している。今回もみんなに迷惑をかけちゃうけど・・・。うまく説明できないけれど、自分のできることなんかホンのちっぽけなことだけど、みんなに勇気を与えられる存在になりたいんだ。」 「今だって、充分に勇気を与えてるがな。」 「・・・でも、もっと、もっと多くの人に勇気を与えて、もっと、もっと多くの人々から『ありがとう』って喜んでもらえるようなパーマン、いや、バードマンになれるのなら、そんなチャンスがあるんだったら。ぜひチャレンジしてみたいんだ!わがまま言ってごめん!」 泣くような場面じゃないのに、なぜなんだろう。僕の目には涙が溢れていた。パー子はうつむいたままだ。 マスクの下から涙が頬を伝わって彼女の白い手にこぼれたのが見えた。 「ウィ〜」 ブービーが彼女に駆け寄る。 人差指で涙をぬぐったパー子は顔を上げてきっぱりと言った。 「私には分かるわ。1号の気持ちが。」 涙声だった。 胸がキューと締め付けられる思いがした。 「エッヘン。」バードマンが咳払いをした。 「通常は地球のパーマンの定員をこれ以上増やすことは認められていない。したがって、パーマンが引退しなければ、新たなパーマンは任命しないのだが、今回は早急に5号を見つけることについて本部から了解をもらっている。それとバード星に行ったとしても、たまには休暇も与えられるから、これからもみんなと会えるよ。」 バードマンの心遣いが嬉しかった。 「どうだろう、みんな。1号の決心を認めてくれないか。」 「ウキー、ウッキーッ」 明るく応えてくれたのはブービーだった。 「1号はん、あんたは馬鹿や。何でそこまでせなあかんのや・・・。」 「パーやん・・・。」 「だけど1号はんがそこまで思ってるのに誰が止められるんや。ワイらのことは心配ない。頑張ってや!」 「ありがとう、ブービー、パーやん。」 「わいらはいいんや。ただ・・・」 パーやんが小声でバードマンに呟いた。 「バードマン、わいらはちょっと席をはずした方がよさそうや。2人だけにしときましょ。」 「おぉ、そうだそうだ。私も用事を思い出した。」 バードマンを乗せた円盤はテレポートして消えた。 「ほな、いきましょか。」 パーやんはコピーを背に乗せ、静かに空を飛びだった。後にブービーが続いた。 みんなこの場を立ち去り、パー子と二人きりになった。 何を言ったらよいものか、分からない。沈黙が続いていた。 「パー子・・・」 言葉を遮ってパー子が笑顔で言う。 「満夫さん。」 「えっ?」 「海に行かない?」 「う、うん。」 つい、この間二人で行った静かな海辺に行った。 砂浜に腰を下ろし、海を眺めながめると不思議と気持ちが落ち着いてくるのが分かる。 パー子と、しばらく海を眺めていた。 「パー子、さっきはありがとう。」 彼女は横にいる僕の顔を見上げて言った。 「さっき、満夫さんの気持ちが分かるっていったけど・・・。ちょっと私のこと話してもいい?私ね、どこへ行っても何をしていても、みんなから特別な目で見られるの。アイドルなんだから仕方のないことだけど、時々普通の女の子に戻れたらって思うときもある。でもね、私には夢があるから続けられるのよ。」 「ゆめ、か・・・」 「そう、夢。立派な女優になって世界中の人々に夢や希望を与えたいの。それが私の夢。・・・・・私、満夫さんが留学していたこの2年間、満夫さんのこと忘れたことなんかないわ。満夫さんが立派なパーマンになるっていう夢に向かって頑張っている姿を思い浮かべて、自分も頑張んなくちゃって思ってたの。・・・満夫さんが、またバード星に行ってしまうって聞いたとき、すごく寂しかったけど、でも嬉しかったわ。自分の夢に向かって頑張り続けるんだなって。そんな満夫さんこそが、本当の正義のヒーローなんだって思う。・・・私、どんなに辛いことや苦しいことがあっても決して諦めない、そんな満夫さんが・・・そんな満夫さんだから、あなたのこと好きになったのよ。」 「え、ええっ〜!」 「・・・迷惑?」 「そ、そんなことないけど・・・また、しばらく地球に帰ってこれないし・・・。」 「・・・私、待ってる。」 「へ?」 「満夫さんがいつか帰ってくる、その日まで。待ってる。」 「ぼくは・・・」 だめだ。僕の思考回路はショートしたらしい。 頭の中が、まるでダムが決壊したように色んな思いが溢れてこぼれる。 いつ帰ってくるかも分からない僕を待ってる? 何で? そんなことまでする必要あるわけ? 彼女にふさわしい人が現れるかも知れないのに? パー子はその意思の強そうなまなざしで僕を見つめている。 僕の気持ちははっきりしている。 僕を信じてくれる。 理解してくれる。 そして好きでいてくれるパー子のことを好きなんだってことを。 そして僕は留学を続ける。 立派なパーマン、いやバードマンとなるために。 「僕は・・・大丈夫、絶対立派なバードマンになって帰ってくる。約束する。」 「ええ。約束よ。」 急に思い出したようにパー子が言う。 「夢といえばね、私、もう一つ大きな夢があるのよ。」 「もう一つ?」 「でもね、まだ秘密なの。」 「なんだよ、それ。」 「だって、この夢は私がしゃべった瞬間に願いが、かなえられなくなっちゃうものなの。」 「えっ、しゃべったらかなえられない夢なんてあるの?」 「それがあるのよ。でもね、その夢のためにもこのペンダントは必要なの。私のお守りなんだから。だから、ね。このロケットの中に入れる写真は満夫さんの写真にするわ。」 「そんなぁ〜。他にもっとふさわしい写真があるでしょ〜。」 「ううん。だってしばらく会えなくなるんですもの。」 僕は再びバード星に行き、バードマンとなるべく留学を続けた。 年に一度程度は休暇で地球に里帰りすることができた。 そんな時にパー子やブービーから相談事を受けたりもした。 「・・・だから、心配しなくてもいいよ。パーマンを辞めても記憶操作するようなことはない。元々、忘却銃っていうのは秘密を漏らす恐れがある人間に対して使用するものだからね。」 パー子は中学卒業とともに演劇の勉強のためロンドンの高校に留学した。 ブービーは結婚し子供ができた。 二人ともパーマンを引退した。 バード星に行った僕、ブービーやパー子に代わって新しいパーマンたちが活躍している。 バードマンが「最近は良い人材がいないよ。」ってぼやいていたが、なかなかどうして。 新パーマンたちは結構頑張っている。 そして、パーやんは今でもパーマンだ。 『パーやん運送』も東京進出を果たした。まさに順風満帆といったところかな。 僕のコピーは、パーやん運送の東京支店に就職している。 東京支店の左江内支店長も僕らの仲間で・・・とは言ってもパーマンではなくスーパーマンなのだが。 休暇の際に一度、左江内支店長に会いに行った。 「人当たりがよく、まじめに良く働いている。将来、期待できる人材だよ。」 と、やさしい口調でコピーのこと(自分のこと?)を褒めてくれていた。上司が理解のある人で良かった。 パーやんには、いつまでたっても助けられっぱなしだ。 僕らのバードマンは宇宙パトロール隊の指令本部にいる。 今じゃ、彼も幹部の一人だ。 僕は地球人で初めてのバードマンとなった。 宇宙パトロール隊での日々は多忙を極めたのだが、充実した毎日だった。 宇宙パトロール隊といっても、宇宙人と戦うことが仕事ではない。 惑星間の戦闘が出来るほどの高度な文明をもつ生命体は、絶対に惑星間の戦闘を避ける。 なぜなら、それほど高度な文明力を戦争遂行力に使えば互いの生命体を滅亡に追いやることが容易だからだ。 それに、他惑星を侵略しようとする意思を持った生命体がいたとしても、必ずその戦闘的な意思のせいで高度な文明を築き上げる前に自分達同士の戦闘で自滅してしまう。 宇宙パトロール隊は、破滅に向かっている生命体への警告や、宇宙難民と呼んでいるのだが、自分達同士の戦闘で故郷の星が住めなくなり、宇宙をさまよっている生命体を保護したりするのが主な仕事だ。 もちろん、彼らの戦闘に巻き込まれてしまう恐れがないわけじゃない。 厄介ごとを片付けに出かけては、バード星に戻って休暇をとって、また厄介ごとを片付けに出かける日々。 緊張を強いられる場面もある。 何より、希望や生きる意志を失いかけている人々と出会うことが辛く厳しい仕事だ。 僕のセクションはいわゆる『最前線の現場』っていうやつで、あまり誰もやりたがらない。 若手の登竜門のようなポストになっている。 「おい、1号。今度という今度は、納得しろよ。」 バードマンは、いまだに僕のことを1号と呼ぶ。 僕がいつまでも現場の仕事から離れないので、上司達にとっては目の上のタンコブになっているようだ。 「次の異動で司令部に移ることが決まった。この間みたいに、司令部に姿を見せないでパトロールにいってしまうようなことをしたら、今度こそ許さんからな。」 「僕は現場仕事の方が向いていると思うんだけど。」 「あーたねぇ、組織の中でひとりだけ我がままを許すわけにはいかんでしょ。あーたも、もう立派な中堅バードマンなんだから、司令部でのキャリアも積んどかなくちゃ。」 「司令部で偉そうにあれこれ指示するっていうのは性に合わないんだよなぁ・・・。」 「ちょ、ちょっと!偉そうにってねぇ!」 「すいません。偉そうっていうのは余計でしたね。」 「色んな部署を経験するのも勉強なの!色々な部署を経験してバードマンとしても成長していかなきゃならんのよ! もちろん、司令部が偉そうに見えることも確かだけど、現場だけでも仕事は成り立たないでしょうが。司令部も必要、現場も必要。両方を経験することってホント大切なんだから。分かる!?」 「はいはい、分かりました。我がままな真似はしません。では一つ聞きますが、司令部のどのセクションになるんですか?」 「地球担当だ。」 「へっ?今、何と・・・」 「だから、私が以前担当した地球担当だ。地球出身の者が地球担当になる。至極まっとうな異動じゃないか。」 少年と少女の約束。 ふたりで誓ったあの日から10年が過ぎた。 パーやん運送東京支店は東京の臨海部にある。 深夜、誰もいなくなった支店の会議室に、昔の仲間達4人が集まった。 パーやんの計らいで、僕の帰還を祝ってくれるのだ。 僕達4人だけのささやかな集い。 少年少女だった、あの頃と何も変らないような気がした。 その帰り、パー子・・・今はパーマンではないが・・・が運転する車の助手席に僕はいた。 「まだ、時間あるかい?」 「ええ。」 「海に行こうよ。」 「いいわね!」 どうしても言っておかなくちゃならないことがあるんだ。 空の深い青みが、夜が明ける気配を感じさせていた。 静かな浜辺だ。 この世に存在するのは僕と彼女だけ、そんな感覚にとらわれてしまいそうだ。 彼女は暗い海を見つめながら独り言のようにつぶやいた。 「あなたが留学したあの日から・・・すごく長かった。」 「そうだよなぁ、長かったなぁ。でも、あっと言う間だったような気もするけど。」 「不思議な感覚ね。」 「確実にいえるのは、みんな大人になったってことかな。」 「ふふ、そうね。でも、あの頃と何も変っていないような気もするわ。」 「変ってしまったものだってあるんじゃないかな・・・たぶん。」 彼女はちょっと寂しそうな表情を浮かべた。 子供の頃の純粋な気持ちはあの頃と同じ。 いや、同じなんだって彼女は信じていたいのかも。 「自分が、この世に生かされている存在であることに気づいて。そして、いとおしくて守りたいと思う人ができる。大人になるってそういうことなんだろうから、さ。」 彼女は微笑んでくれた。 今がチャンスだ。 彼女に言っておかなくちゃ。 「あのさあ、パー子。」 「なあに。」 「あのね、今回、地球担当ってことで戻ってきたけれど、僕がバードマンであることには変わりがないから・・・。その・・・。また、地球を離れなくちゃいけない時がいつか来るんだ。」 「・・・・・。」 えーい、ここで言わなくちゃ! 男だろ! 「パー子。だから・・・あの・・・。そんときは・・・。僕と一緒に宇宙に行かないか!」 カッー!さすがに照れるな! ついに言ってしまった・・・。 「満夫さん。」 「な、なんだい?」 「子供の頃、ここで将来の夢の話をしたんだよね。覚えてる?」 子供の頃、僕達は夢を語り合ってきた。 忘れてなんかいない。 それは子供じみた、追いかけきれない理想にしか過ぎなかったのだろうか。 それとも・・・。 「そうそう。パー子は、立派な女優さんになって世界中の人々に夢や希望を与えたいって言ってたね。」 「それとね、もう一つ夢があるって言ったの。」 「覚えてるよ。でも、教えてくれなかったんだよな。」 「今、満夫さんが、かなえてくれたのかしら?」 「へっ!?」 僕がかなえた?どういう意味? 「僕がかなえたって、どういうこと?」 「もう!鈍感なところは相変わらずね!」 夜が明けてきた。 朝日が彼女を照らし始めている。 すごくきれいだ。 「満夫さんの夢は?」 僕の夢か・・・。 「まだ、始まったばかりだよ。」 彼女は、最高の笑顔を僕に見せた。 |
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