朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第8話

「アララ、まぁたやっちゃった」
寝る前に少しだけ目を通すつもりで開いた台本を片手に、スミレはポリポリと頭を掻いた。
思わず没頭してしまって気が付いたら日付が変わろうとしていた。
いくら治そうと思っても、この癖だけはどうしようもない。
「早く寝なくちゃ…アラ?」
リビングの灯りを消して寝室へと向かう途中で、テーブルの片隅で鈍い光を放つものが眼に入った。
あの携帯電話だった。どこにでもあるような形をしたそれは、しかしどこにもないような雰囲気の光を放っていた。まるで呼びかけるように……。

「ヨシッ!ちゃんと動き出したぞ」
ガーディアン号のブリッジでアルマイトはメインコンソールを独占していた。
隣に居るイリメンの顔には『もうウンザリ』とハッキリ浮き上がっている。
「……楽しそうだな」
「失敬な!私は至って真面目だぞ!」
「真面目ねぇ…でも覗き見は趣味悪くないか?」
「人聞きの悪いこと言うな!これはちゃんと機能しているかチェックしているだけだ」
「フゥ、どーだかなぁ」
イリメンはゆっくり立ち上がった。先程アルマイトの話--人によっては演説とも言う--が始まってからずっと座りっぱなしだったので、体のそちこちから軽い痛みを感じる。
「…いいのかなぁ、こんなんで」
「ン、ナニガ?」
「もう満夫君が乗艦するまでもう20時間もないのに、当人にはいつコンタクトをとるつもりでいるんだ?今の話だと、まるで彼女に考える暇を与えない強制的な…そう復帰要請じゃなくて命令にしか聞こえんのだが」
「ア……ま、まぁそこら辺は大丈夫だろ。うん」
「本当かなぁ……」
この10年、良き相談相手として自分のことを慕ってくれていた満夫の気持ちは多少なりとも理解できるものの3号と面識のないイリメンは、楽天的なアルマイトの言葉に首を傾げるしかなかった。

そんな頃、

雲一つ無い夜空で、満夫は漂っていた。
「パー子……」
封印されていた記憶が戻ると同時に溢れ出た想いのまま勢いで飛び出したまでは良かったが、彼女が今何処に居るのか全く知らないのに気が付き途方に暮れていた。残された時間は僅かしか無い。せめて一目でもいいから彼女に会いたい。焦る気持ちが、誰にもぶつけようのない苛立ちとなっていく。
「どうすればいいんだ……ン?」
頭を抱え下を向いたその時、スーツの内側、胸元あたりで何かが光っていた。
取り出してみると、それはペンダントだった。
「これは…」
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シャトル・ガイアはほぼ予定どおり40星区基地のドッキング・ベイに着いた。
「わざわざ遠回りして頂いて、本当にすいません」
「いや、いいんだよ遠慮しなくても…っと、ちょっと待って」
「はい」
シャトルを降りようとする満夫をイリメンが呼び止めた。
「スワ司令官、はい」
「なんですか、コレ?」
「お守りみたいなものだよ。地球に戻った時にきっと役に立つ」
「はあ……?」
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渡された時には何も感じなかったそれも、今ははっきりと判る。このペンダントは元々自分のものだったのだ。これを手放したのは8年前、ケネスに頼んで記憶を封じてもらったときだ。
「あのとき『預かっておく』って言ったのは、こういうことだったのか……でも」
手の中で光り続けるペンダント、その光は通信機能が働いていることを表わすものだ。
ここから発せられる信号を受けることができるのは一つしかない。
その持ち主はこの星に居る……パーマンだった女性だ。
「そうだよな……今は……覚えてないんだよな」
何かが頬を伝う感覚と合わせて光がぼやけて大きくなっていく…その為、肩を震わせだしたその背後に近づく影に気付くことができなかった。

「失礼ね。私記憶力は良いのよ」
思わず声が出てしまった。気付かれないようにゆっくり近づいたのが全て台無しだ。
慌てて振り返った彼の表情はと言えば、大きく目を見開いて口をパクパクとさせて…
「ハハハ、ヤダァーなんて顔してるのよ。まるで金魚みたい」
何より先に可笑しさが込み上げてくる。そして…嬉しさが大きくなっていく。

数分前、
『いいね?14日になったら背面の液晶部分を軽く押すんだ』
携帯電話を手にしたスミレが謎の言葉に従ってそれを押すと、一瞬全身が柔らかい光に包まれた。
「え?」
何が起こったのかすぐには判らなかった。周りに変化は見られないが、手の中に携帯電話が無いことに気付き手元を見ると、手袋をしていた。
「な、何なのコレ?」
よく見ると服も薄桃色のツナギのようなものに変わっていた。壁にある全身鏡に向きなおり、改めて自分の姿を見直した。赤いマスクを被り、背中には緑色のマント、そして左胸にPを象ったバッヂがついている。
「これって……これって」
鏡の向こうにいる自分を見たのが合図のように、頭の奥の方からまるで津波のように記憶が湧き出てくる。
「そう……そうだ私……パーマンだったんだ」
『思い出したようだな』
突然耳元で声がした。続いてバッヂから光が出て目の前にボンヤリと人を形作っていき、大柄なとても懐かしい男性が現われた。
『ヤァ!元気でやってるか?』
「バードマン!いったいこれは…」
『オット、このホログラムは記録映像だから質問されても答えられんぞ』
言いかけたところをバードマンに制された。
「そんなぁ」
『さ、時間がないからいきなり本題に入ろう。マスクのヴァイザー、君から見て左下あたりに数字が表示されとるはずなんだが……あるよな』
言われた箇所に目を向けると、なるほど3行程の数字がある。
『それはある人物の現在位置の座標と、君との直線距離だ。君にその人物とコンタクトをとってもらいたいんだが…』
「……ハ?」
『まぁ、アイツのことは君が一番よく知ってるはずだし……ってアリャマ、もう時間が無いわ。んじゃま、そう言うことで頼むなぁ〜』
「嘘っ!ちょっと待ってよ。ねぇ、バードマン」
そのままホログラムは消えてしまった。8年ぶりに見た顔はマスクのせいで変わってないように見えたが、性格はそれ以上に変わっていないようだ。
「相変わらず無責任な…さて、どーするか」
いきなりコンタクトをとれと言われても、もう少し何処の誰か説明してくれても困ってしまう。
もう一度バードマンの言葉を思い出してみる。と、引っかかる部分があった。
「そういえば『アイツのことは君が一番よく知ってるはず』って……まさか!」
ハッと顔を上げバルコニーへ出ると8年のブランクなど感じさせない位あざやかに飛び立っていった。
そして…

目の前に浮かんでいるその姿に、満夫は驚くことしかできなかった。かろうじて上げた指も、宙をなぞるだけだ。
「ハハハ、ヤダァーなんて顔してるのよ。まるで金魚みたい」
その声でやっと我に帰ることができたが、その言葉と必死に笑いを堪え…ていない態度に腹が立ってきた。
「き、金魚ってなんだよ!久々に会っていきなりそれかよ」
「ハハハハ…ハァー。御免なさいね、本当に…ククク」
「ホラァまだ笑ってる……ン?」
不貞腐れる満夫の周りを観察するようにスミレは一周した。
「…何だよ」
「フゥーム…どうやら落第しないで済んだみたいね」
「当り前だろっ!こう見えても総だ……」
その後の言葉が続けられなかった。いきなり抱きついてきたのだ。どうして良いかわからずに両腕を軽く広げた状態で固まってしまった。
「本物だよね」
胸元から聞こえる声が少し震えてる。背中に回された手に少し力が入るのがわかる。
それを聞いて、彼女の頭を両腕で優しく包み込みながら答える。
「うん」
「帰って来たんだね」
「うん」
スミレの震えがおさまるまで、二人はそのままの状態でいた。
しばらくして、どちらからともなくゆっくりと離れて見つめ合う。
「マスク…外して」
周りを見渡しながら自分のマスクを、そして彼女のマスクを外した。
まっすぐ見つめてくる彼女の眼は、涙で潤み輝いていた。
「おかえりなさい、満夫さん」
「ただいま……その」
どう呼べば良いものか少し言い淀んでいる満夫をみてスミレは微笑んだ。
「パー子でいいよ」
「…ただいま、パー子」
言い終わった時、赤いマスクのヴァイザーに表示されている距離はゼロになっていた。

「フム、どうやらちゃんと会えたようだな」
パネル上で明滅していた2つの光が1つになった頃、アルマイトは腰を上げ窓際の椅子で眠っているイリメンを揺り起こした。
「……ン〜、アレ?何だ終わったのか」
「ああ」
「なんだ残念」
「何が?」
「エッ、イヤ別に」
「お前も……ま、いいか。それよりアレ、頼んだとおりにできてるんだろうな?」
「ん、そろそろかな」
「スマンな、気が進まん事だったろうが」
「いいよ、近い内に『奥さんの手料理』ってやつでもご馳走してもらえる位で」
「ウッ……それはもうちょっと待った方が…」
「なんだぁ、二人きりの時間がもっと欲しいのか?」
「イヤ、それもちょっとあるけど…なぁ……」
少し歯切れの悪いアルアイトの言葉に、軽い不安を覚えるイリメンだった。


> 第9話へつづく

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