朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第7話

ワープ航行から通常エンジンに切り替わり、キャノピー越しに蒼く輝く星が見える。
「10年ぶりか・・・」
改めて見る地球はやはり美しい。が、見とれている訳にもいかない。何しろ時間がないのだ。イリメンは「挨拶程度だ」と言っていたが、40星区基地に着いて早々に任務内容の説明から引き継ぎ・申し送りなどの事務仕事に書類整理まで本当に山積みの業務をこなさなければならず、おかげで出発が大幅に送れてしまった。予定では、明日の夕刻にはガーディアン号に行かなければいけない。満夫の休暇期間は実質24時間しかないのだ。
「えーと、日本は・・・と」
正確に日本上空に行けるよう、大気圏への進入も慎重になる。とはいえ、これまでアルマイトが幾度となく来ているおかげで、自動航行で問題無く着くようになっていた。
雲を抜けると、懐かしい風景が見えてきた。裏山にマンションが建っていたり、街の中央を高速道路が突き抜けていたりと、所どころ変わってはいるものの、間違いなくそこは生まれ育った朝日ヶ丘だ。
「コイツを隠す所が無いなぁ」
小型艇を高高度で待機させるために外へ出ようと、満夫はキャノピーを開けた。まだ冷たさを残す風が体を包む。
「帰って来たんだなぁ」
10年ぶりに感じる『季節』に、満夫は改めて実感した。

「今日も異常無し、と」
つぶやきながらブービーとパー坊=パーマン5号はパトロールをしていた。
「ウキャキキャ」
「そんな『こうも平和だと退屈だ』なんて、駄目ですよ。そんなこと言ったら」
「アキャーキャ。ウケキャケキャ」
「いいんです。僕達が暇なのは良いことなんだから」
「ウィー」
「まぁまぁ、もうひと回りしたら帰りましょう。ン?」
頭上で何か光るのが眼に入った。飛行機にしては少し小さい。
「・・・何だろう」
気になって近付いてみる。形がハッキリ見えてきて地球のものではないことが確認できた。その向こう側に人影があり、なにか操作をしているようだ。
「バードマン?」
5号は声をかけてみた。するとその影は5号に気付いたようで、スッと近付き話しかけてきた。
「君は・・・?」
その姿はいつものバードマンと少し違った。紫紺のマスクに赤いマントを纏っている。
『もしかして・・・いや、そうに違いない』それを見て5号は瞬時に確信した。
「1号、1号だよね!?」
「ン?ああ・・・ウワッ」
満夫が聞き返すよりも早く、ブービーが抱き着いていた。
「ウキャキキャ!」
「アタタ、久しぶりだなブービー」
「ウッキャ、ウッキャ」
「ああ、今着いたばかりだよ」
10年間離れていても、ツーカーの呼吸で会話をしている。
「ウッウン!そろそろ僕のことも思い出してくださいよ」
「君は・・・誰だっけ!?」
「ヘコーッ」
「冗談だよ、パー坊」
満夫は悪戯っぽく笑った。

ブービーの案内で、3人はとある一軒の家に来た。ブービーがインターフォンを押す。
「はい」
「ウキャ、アケキキャ」
「あ、ちょっと待って」
ドアが開き、ポニーテールの女性が出てきた。
「ご免なさい。ミツ夫さん今ちょっと出かけてて・・・パーマン1号?」
「や、やあ久し振り。ユキちゃん」
「あ、あなた〜!ミツ夫さ〜ん」
「どーしたんだい?ユキ・・・」
呼び声に出てきたミツ夫は1号の姿を見た瞬間、絶句し、そのまま座り込んでしまった。
「あ、あの・・・ミツ夫君?」
心配して近寄り話しかけてきた1号にミツ夫は思わず抱きついていた。
「お帰り、1号」

「あ、もしもしサブさん?ケータリングをお願いしたいんだけど。あの、パーマンが帰ってきたの・・・そう、1号が」
ブービーとパー坊は一旦パトロールに戻り、ユキが電話をしている間、1号とミツ夫は応接間に対面して座っていた。1号、満夫はコピーに会ったら言いたい事―おでこタッチでは無く、自分の口で伝えたいこと―が沢山あった。が、当のコピーは先程から複雑な表情を浮かべて黙ったままだった。
「ユキちゃん、綺麗になったんだな」
静寂に耐えられなくなったように、1号が口を開いた。
「去年聞いたときはビックリしたよ。でもうまくやってるようだし安心した。これで・・・」
「これで僕もお役御免・・・かな」
「え?」
「いつかこの日がくるのは解っていたのに勝手なことばかりして、君には申し訳ないと思ってる。でも、でもな。どうしてもユキと結婚したかったんだ。少しでも思い出を・・・可笑しいよな、僕なんて君が鼻を触れば消えてしまう存在なのに・・・それでもぼくは」
「アッハハハハハハハハ」
「・・・真面目に聞いてくれよ!!」
突然笑いだした1号にミツ夫は一瞬唖然とし、顔を真っ赤にして怒った。
「なーに言ってんだろうねぇミツ夫君は、僕だって忙しいんだ。そう来ることはできないし、なにより新婚さんチにそんな遊びに来るほど野暮じゃないよ」
ワザとらしく大きな声で言いながら、1号は軽くウィンクした。そこにタイミング良くユキが入ってきた。
「アラ、1号さん。ウチはいつでも大歓迎よ。ネ、ミツ夫さん」
「ン?あ、ああ。勿論だよ」
1号の言葉の意味に気付いたミツ夫は、昔と変わらない無邪気な笑顔で返していた。

「いやぁビックリしたなぁ。いつ帰って来たんだよ?」
「ホントに突然だもんな」
カバ夫とサブが代わる代わる1号のグラスにビールを注ぐ。矢継早に来る質問に丁寧に答える1号だったが、気持ちは今この宴席に来ていない女性のことでいっぱいだった。
「1号、どうしたの?」
それに気付いたミツ夫が問いかけた。
「いや・・・みち子さんはどうしたのかなぁって・・・」
「ミッちゃんなら。今頃まだ寝てるんじゃないかな」
「時差を考えると、多分そうね」
「時差って?」
「ミッちゃん、去年の9月からアメリカに行ってるんだ」
「アメリカァ?」
「なんか論文が評価されたとかなんとかで、NETって所に留学してる」
「カバ男さん、それを言うならMITよ」
「留学ねぇ。しかしなんでまた」
「う〜ん詳しいことは知らないけど、確かミッちゃんが大学で専攻してたのって・・・宇宙工学だったよね」
「なんたって『パーマンの星へ行くんだ』って、10年前からやっきになってたからなぁ」
ミツ夫達の話を聞いて1号は、みち子が昔と変わらずパーマン1号のことを想っているのが嬉しい反面、10年ぶりに『パーマン1号である自分』に嫉妬を覚えた。 「しっかし、よく旦那さんもOKしたなぁ」
「エッ!だ、旦那さんって・・・ミッちゃん、結婚したの?」
カバ夫の言葉に1号は耳を疑った。
「ああ、ちょうど僕らが結婚する2ヶ月前にね。相手は高校の時に知り合った1年上の先輩だって・・・言ってなかったっけ?」
ミツ夫達の話から、今やみち子にとって『パーマン1号に会う』ことではなく、『パーマンの星へ行く』ことが目標になっていることを悟った。が、不思議なことにショックはなく、むしろ祝いの場に居ることができなかったことを悔やむ気持ちが大きかった。
「来てないって言えば、4号はまだ?」
思い出したようにサブが5号に聞いてきた。
「さっき連絡はしたんですが」
「まぁ大阪に居るんだろうから。すぐには来れないんだろ」
「困ったな。来ると思って少し多めに作ったんだけど」
「もしかしてダイエット中だから来れないとか、ハハハ」
「カバ夫はんには言われとないなぁ」
絶妙のタイミングで、パーやんが入って来た。確かに大柄な体型ではあるが、全体的に引き締まっていて10年前のイメージは無くなっていた。
「これでパーマンチーム勢ぞろいだな」
「1人を除いてですけどね・・・あっ」
つい出てしまった5号の言葉に、場が静かになってしまった。
「パー子さん、どうして辞めちゃったんだろ」
カバ夫が呟く。
「こればっかりは、私らにもわかりまへんのや。バードマンはんも教えてくれへんし」
「ウィ〜」
ふとその時、3日前にシャトルのなかで見た夢を思い出し、何か大切なことを忘れている気がする1号だった。
『パー子って・・・誰だっけ?』

誰もいない砂浜をスミレは1人歩いていた。気持ちを切り替えたいときはいつもここに来て潮風に吹かれている。いつもだったらこうして歩いたり、海を眺めていれば嫌なことや胸のなかのモヤモヤとした感じなどが無くなるのだが今日は違った。むしろモヤモヤはつのる一方だった。
「14日になったら、か」
謎の影が置いていった携帯電話を見ながら、スミレはつぶやいた。いよいよ明日だ。明日になれば、全てわかるんだ。そんな期待と不安が混ざった複雑な感覚だった。と、突然目の前に空から少年が降りてきた。その表情は何かに追われているような、少し怯えたものだった。スミレはその少年に見覚えがあった。以前、自宅に無理やり押しかけて来た落目ドジ郎を追い払ってくれたことがある。
「あなた、確かのび太・・・君?」
「あ、スミレさん。何処か隠れる処無いですか?」
「え?じゃそこへ」
のび太が近くにあった簡易トイレの裏に隠れて間もなく、大勢の人々がやってきた。カメラを手にしている人や、巨大な虫採り網を持つ人等さまざまだ。
「すいません。こっちに男の子が来ませんでしたか?」
「いえ・・・見ませんでしたけど」
「そうですか、どうも」
それだけ言うと瞬く間に皆何処かと消えて行った。
「・・・行ったわよ」
「スイマセン」
申し訳なさそうにのび太は出てきた。
「一体どうしたの?お友達・・・ドラえもんだっけ?彼の姿も見えないけど」
「いや実は・・・」
話を聞くと、ドラえもんが出した道具を使って目立つようになったのだが、加減がわからずに目立ち過ぎたのだという。
「・・・だから効き目が切れるまでこうして逃げてるんです」
「そうなの」
「あ〜あ、目立つのがこんなに大変だとは思わなかった」
「そうね、ちょっとしたことでも注目されるから気を付けないと」
「スミレさんは、嫌じゃないの?」
「何が?」
「皆に追いかけられて、知られたくないことまで探られて」
「そりゃ嫌よ」
「じゃあ何故、続けられるの?」
「そうねえ、笑顔を見たいからかな」
「笑顔?」
「そう。どんな嫌なことがあっても、せめて私の舞台や映画を見ている間はそれを忘れて笑顔でいてほしい。だからかな」
そう言ってスミレは微笑みながら、少し心が軽くなった気がした。

『あの角を右に曲がると・・・そうそうそれで』
心の中で思い出しながら、満夫は歩いていた。視界に青い屋根が入ってきた。少し早足になる。玄関の前に立ち、はやる気持ちを抑えつつインターフォンを押す。
「はーい」
ドアを開いたのは、間違いなく母さんだ。容姿は10年の年月を重ねているが、その優しい表情は全く変わらない。
「アラ、満夫さん。本当にビックリしたわ『久しぶりに母さんの料理が食べたい』なんて・・・満夫さん?」
「あ、ああただいま」
怪訝な顔で覗き込む母の言葉で我に返り、家に入った。
「もぉ〜お母さんお鍋吹きこぼれちゃうわよ。あ、お兄ちゃん」
奥からガン子がでてきた。最近になって食事の準備等を手伝いだしたらしい。本人は否定しているが、どう見ても2人分はある弁当を学校に作って行く所を見ると、彼氏ができたようだと、先刻のおでこタッチで記憶した。
「どうしたの?ユキさんと喧嘩でもした?」
「バカ言うなよ」
冗談混じりのガン子の目線を軽くいなしながら、満夫は奥へと入って行った。
「どーだか・・・どうしたのお母さん?」
「え?あ、お鍋お鍋」
ガン子の声に慌ててキッチンに戻りながら、
『変ねぇ、この間会ったばかりなのに、長い間とても遠くに行っていたような・・・』
心に少し引っかかる感じが残っていた。
リビングに入ると、父が新聞を広げている横で少年が皿等を持って忙しく動いていた。
「こーちゃん、手伝ってるのか」
「いえ、居候をしているんだから少しはお手伝いしないと」
満夫の呼び掛ける声に少年=山田浩一は振り返り、微笑みながら返した。
「ホンット、こーちゃんはよく手伝ってくれるのよ。誰かさんとは大違い」
「ひどいなぁ母さん」
「ま、ユキさんの話を聞く限りでは、大分改善されたようね」
苦笑しながら満夫は自然と自分の席について、食卓を見回した。自分の好物ばかりが並んでいるその光景に、必死に涙を堪えた。

「う〜っぷ、食べ過ぎた〜」
夕食後、満夫は自分の ―現在は浩一の― 部屋に行き、ベッドの上で大の字になっていた。
「夕方も食べてましたからね〜」
床に敷いた布団の上で、浩一が同じ格好で横になっていた。
「でも驚いたよ。まさかこーちゃんが家にいるなんて」
「こっちの中学に合格したもんで、流石に家からだと通学が厳しくって」
「で、友達であるパーマン5号のつてを頼った。って訳か」
「はい」
「でも凄いな。朝日学園って言ったら、私立でも結構レベルの高い学校だろ?俺なんかとは大違いだよ」
「そんなことないですよ」
浩一が謙遜する。とその時、ガン子がドアを開けて入って来た。
「お兄ちゃん、いい?」
「いいけど・・・どうした?」
「うん。パーマン1号帰ってきたんだよね?」
「ああ」
「家、来る・・・かな?」
「ウーンどうだろう。色々見て来るって言ってたから」
「じゃあもし来たらコレ渡しておいて」
ガン子はそう言って紙袋を差し出した。
「・・・何コレ?」
「パー子さんから預かってたの。『1号が帰ってきたら渡すつもりだったけど、辞めちゃうから』って・・・」
「ふぅん・・・判った。渡しておくよ」
「お願いね。じゃ、お休み」
拝むような仕種をしてガン子は出て行った。少し間を置いて、満夫は袋を開けた。入っていたのは1着のセーターだった。
「パー子・・・」
暫くそのまま動けなかった。

気が付くと、周りが暗くなっていた。
「アレ、寝ちゃってたのか」
照明が落とされデスクライトだけが輝いている部屋で、浩一は机に向かっていた。
「頑張ってるな・・・ぁ?」
側に寄って、初めて寝ていることに気が付いた。予習でもしていたのだろうか?教科書・ノート等は開いたままだ。傍らではラジオが小さめの音で鳴っている。
「気を遣わせてばかりだな」
苦笑しながら浩一をベッドに運び、ラジオを切ろうと手を伸ばした。と、
『皆さん今晩は。星野スミレです』
その声に手が停まった。
『今週も日曜最後の30分間。私と御一緒しませんか?』
気付かぬ内に満夫は“します、します”と頷いていた。少し聞こえ辛いので音を大きくしたいのだが、浩一を起こすのも悪い。
「確かこの辺にイヤホンが・・・あったっとっと」
コードが何かに引っ掛かっている。少し力を入れてみると、1冊のスクラップブックが出て来た。タイトル部分に“パーマン事件簿”とある。
イヤホンを着けて、ページを捲っていく。『密輸組織摘発』『誘拐犯逮捕に協力』等、新聞記事が隙間なく貼られている。
『みんな・・・頑張ってたんだよな』
また目頭が熱くしながら最後のページを捲った満夫の眼に入って来たのは、それまでの事件記事ではなく芸能記事だった。
『星野スミレ誕生パーティー。パーマンも祝福』
とあるその記事をかざる写真は、星野スミレとパー子が両手で握手をしているものだった。
「そういえばパー子って、スミレちゃんととても仲良かっ・・・た」
既にラジオ番組は終わり、アナウンサーが日付けが変わることを告げていた。

ピ、ピ、ピ、ポーン。

その瞬間、満夫の奥で何かが弾けた・・・

冷たい空気に顔をくすぐられ、浩一は目を醒ました。窓は開きカーテンが泳いでいる向こう、ベランダに人影が見えた。少し重い体を起こしベランダに出る。
「起きたんですか?」
「・・・満夫君なら行ったよ」
影=ミツ夫は優しい笑顔を浮かべて言った。
「そうですか・・・会えるといいですね」
「会えるさ、きっと」
それだけ言うと、2人は夜空を見上げた。


> 第8話へつづく

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