朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第6話

翌日、本部タワーに呼び出された満夫は、アルマイトと共にネームプレートの付いていない部屋に居た。
「ここは?」
「君のオフィスだ。と言っても、ここへ来るのは3ヶ月に1度程度だろうがね」
「へぇ・・・」
室内を見回す。デスクや応接セットのレイアウトは他のオフィスと同じだが、「自分のオフィス」だというだけで何かしら嬉しい感じがした。ふと壁を見ると、宇宙船のレリーフが飾ってあった。宇宙船自体はもう珍しいという感覚は無いが、この船は今まで見たことが無い形をしていた。
「この船は何ですか?」
「先日完成したガーディアン号だ。搭乗員数350名」
「かなり大きそうですね」
「ああ、艦隊の旗艦となる船だからな」
「へぇ」
「・・・まだわからんか?君の船だ」
「え!これが・・・」
右手でレリーフをなぞりながら、満夫は少し興奮した。そして『この船で、僕は故郷を護るのか』と考えるうちに改めて司令官という仕事のプレッシャーを感じた。それを察したのか、アルマイトは満夫の肩に手を乗せ、
「まぁそう力むな。気楽にいけ、気楽に」
と言った。
「デスクにある書類に目を通しておくように」そう言ってアルマイトは出て行った。書類は、艦隊の編成表に15日までの予定表、ガーディアン号の構造マニュアルだった。それらをパラパラとめくりながら
「地球に帰る暇あるのかなぁ」
不安になる満夫だった。

昼過ぎ、満夫は職員食堂で昼食を採っていた。が、どうにも食が進まない。
「はぁ〜」
ため息ばかりが出る。無理もない、予定表をどんな角度で見ても40星区のバードマン基地に到着する時点で地球に行くのが不可能な時間になってしまうのだ。
「せめてコピーくらいには会っておきたいよ」
正直に言えば、家族の顔も見たいし友達にも会いたい。もちろんブービー達にも会いたいし、自分がこっちに来たあとにパーマンになった仲間にも会ってみたい。
「でも無理だよなぁ」
つぶやきながらフォークをいじっていると、向かいの席にイリメンがやって来た。
「どうも、スワ司令官」
「満夫でいいですよ。イリメンさん」
「ハハハ、職場だからな、一応こう呼んでおかないと・・・どうした?元気無いじゃないか」
「いや、そんなことないですよ」
笑ってみせる満夫に、イリメンはお見通しという感じで言った。
「問題ないよ。13日の昼には、君は地球に居るよ」
「え?」
「新型のワープ・エンジンを搭載したシャトルで行くんだ。40星区までなら10時間で行く」
「でも、仕事が・・・」
「大丈夫だよ、どうせ顔見せ程度だ。挨拶してすぐ小型艇に乗れば良いだけの話だよ」
「そうですよね、あーなんか食欲が湧いてきた」
イリメンの言葉に安心して今まで持て余していたランチをパクつく満夫に、イリメンがカードを渡した。
「零番ドックの入場許可IDだ。出発の時に忘れないでくれよ」
「わかりました。アレ?こっちのカードは?」
「あ、そっちはアルジェに返しといてくれ。「ご祝儀だ」って言えばわかるから」
含み笑いを残して、イリメンは行ってしまった。
丁度同じ頃、アルマイトとサラは中庭で昼食を採っていた。 アルマイトが食べているのは、サラが初めて人のために作った弁当だ。
「初めてだから、うまくできたかどうか・・・」
「いや凄いウマイよ」
「本当?良かった」
そう言いながら、念のためインガにもらっておいた胃薬をソッと隠した。
「それより、大丈夫なの?満夫君」
「大丈夫だよ、彼はプレッシャーを力にできるから」
「そうじゃなくて、ちゃんと思い出せるのかしら」
「問題ないって。地球のコピーもちゃんと準備してるし、それに8年前に君がそうしたのだって、今度のことを予知したからじゃあないのかい?」
「それはそうだけど・・・」
「君らしくないなぁ、『もっと信頼してやれ』って言ったのは君だろう?」
「・・・そうよね、なんか誰かさんの性格が移ったみたい」
優しい笑顔でサラが答えた。それを聞いてなんとなく嬉しいような、恥ずかしいような気がするアルマイトだった。

「ねぇ、起きて」
朝日ヶ丘のとある一軒家、寝室でポニーテールの女がベッドにいる男に声をかけている。
「ねぇってば」
「・・・あと5分」
男はもっとゆっくり寝かせてくれといった感じだ。それでも女は諦めない。
ベッドの端に行くと、かけ布団を思いっきり引っぱった。
「起っきっなっさ〜い!」
「ウワッ」
かけ布団にしがみつく形で寝ていた男はそのまま引きづられていた。
「モウッ!何時だと思っているの?ミツ夫さん!」
「勘弁してよ。折角代休とれたんだからもう少し寝かせて」
そう言ってベッドに戻ろうとしている『ミツ夫』と呼ばれた男。そう須羽満夫のコピーロボットである。
そして、懸命にミツ夫を起こそうとしている彼女こそ、須羽ユキ。旧姓『山岸』ユキである。
10年前、小学生の時から育んで来た愛が結ばれたのは昨年の春だった。どちらからプロポーズしたという訳ではなく、極々自然に一緒になり、秋にこの家へと引っ越してきた。
ミツ夫は現在、パーやん運送関東営業本部朝日ヶ丘営業所の営業主任兼チーフドライバーだ。運転技術の確かさと人当たりの好い性格で顧客を増やし、高卒入社としては異例のスピード出世となった。ちなみに、社長が東京に来た際の専属運転手もやっている。その仕事のために、今週は休日出勤もした。星野スミレのCM撮影の視察のため、スタジオまで送迎したのだ。その代休をやっと獲れて、今日はなんにもしないと決めていたのだ。
そんなミツ夫に対して、ユキは明らかに怒っていた。
「この間『この埋め合わせは必ずするから』って言ってなかった?」
布団を被ろうとしてミツ夫はハッとした。そうだった、この間の休日は本来ならドライブする約束だったのだ。相手が社長の手前、なんとかユキもわかってくれたと思っていたが、自分が何を口走ったかはすっかり忘れてしまっていた。
「あ、ああ言ったヨネ。ニャハハ・・・ゴメン!タベルナのディナーで我慢して!ね?」
今さらながらに愛想笑いで誤魔化そうとするミツ夫に、ユキはあきれ顔で言った。
「もう、仕方ないわね。でも、お布団干したいからとりあえず起きて」
「ハ〜イ」
まるで子供のようにベッドから飛び出るミツ夫にユキは思わず噴き出してしまった。その笑顔を見つめながらミツ夫は『彼が帰って来るまで、せめて1日でも長く彼女とこうしていたい。』と思っていた。視線に気付いたユキがミツ夫を見る。
「何?何か付いてる?」
「いや、幸せだなぁと思って」
10年前と変わらず優しい笑顔を浮かべながら夫が言った一言に、ユキは赤面しながら、
「私も」
と答えた。

翌日の夕方、イリメンに呼び出された満夫はアルマイトと共に零番ドックに向かった。転送室ではイリメンが出迎えてくれた。 「よく来たね。時間が無いから早速出発するよ」
「あ、はい」
「あ、アルジェ持ってきて」
「え?」
隣では「ご祝儀」のお礼(?)を言いかけたままアルマイトが固まっていた。
早足で歩くイリメンにアルマイトを担ぎながらなんとか追い付いた。
「どうして急ぐんです?」
「この間やったガーディアン号の試験航行のデータ解析をしたんだが、微調整すべき項目が思ってたより多くてね。データ転送だけじゃどうしても間に合わないから私も一緒に行って直接修正することにした」
「そうなんですか・・・アレ?ということはガーディアン号はここにないんですか?」
「そう、あるところに停留させている。あ、ここだ」
『第3格納庫』と書かれたドアの前で停まり、イリメンがパネルを操作した。ドアが開くとイリメンはツカツカと行ってしまったので慌てて付いていった。1機だけ他とはデザインの違うシャトルに乗り込み、イリメンは手早く出航準備を進めていた。
「そこに座って」
「でもアルマイトさんが・・・」
「後ろに立てといて良いから」
振り返りもせず黙々と操作しているイリメンに圧倒されながら、満夫は副操舵席に座った。
「シャトル0423001-01『ガイア』出るぞ」
ものの数分と経たないうちにシャトルは外宇宙に出ていた。ワープに入った所で、イリメンはやっと落ち着いた。
「ふぅ、急かして済まなかったね」
「いえ、そういえば『ガイア』って?」
「このシャトルの名前だよ。ガーディアン号には他にこのクラスのシャトル『パンゲア』『ルナ』と、小型艇が単座・複座各10機配備されてる」
「へぇ・・・」
驚いたような表情を見せる満夫に、イリメンは不思議そうに言った。
「おかしいな、アルジェに預けたファイルに書いてあったはずなんだが・・・読まなかったのか?」
「読んだんですが、まだいまいちピンとこなくて」
「目の当たりにして実感した。ってとこか」
「はい」
「まだまだ覚えなきゃいけないことは沢山あるんだから、これ位で驚かないほうが良いぞ。それじゃ後ヨロシク」
笑みを浮かべてイリメンは言うと、席を倒してそのまま寝てしまった。
「あっ、ちょっとアルマイトさんどうするんですか」
もう完全に寝入ってしまっている。満夫は困り顔で後ろを見た。アルマイトは先程と変わらず、仁王像のように立っていた。

「・・・っまえって奴は、イカサマなんて・・・ってアレ?」
怒鳴りかけてアルマイトは異変に気付いた。確か零番ドックに来たはずなのに、なんでガーディアン号に居るんだ?
「よっ!ちょっと手伝ってくれ」
副操舵席の向こう側からイリメンが手だけ出して呼んだ。
「お、おいどうなってんだ?」
「あ、ソッチ持って」
駆け寄ってきたアルマイトにパネルの蓋を持たせると、イリメンは基盤をいじり始めた。
「なぁイリメン」
「ご祝儀だって言っただろ?」
「いやそうじゃなくて・・・」
「満夫君・・・いやスワ司令官なら40星区の基地で降ろしたよ。ついでに小型艇も置いて来たから地球には予定通り帰れるはずだ。よっと、コンニャロ」
イリメンは作業しながら素っ気なく答えた。
「それなら良いんだが・・・あっ、そういえば」
「彼女ならちゃんと連れて来たよ。っと、こんなもんか。よし、閉じるぞ」
パネルを元に戻すと、今度は端末を接続してセットアップを始めた。モニターに表示されたタイムゲージが消えた所で、イリメンはやっと顔を上げた。
「ふぅ、これで完璧。最終調整終了っと」
「さぁ、説明してもらおうか?」
アルマイトが詰め寄った。
「何を?」
「あたしはいつの間にガーディアン号に来たのかだよ!」
「ああ、実験」
「実験?」
「今テスト中の『タイム・ストッパー』がどの位効果あるのか、文句を聞いてる暇もなかったし丁度好い機会だと思って転送されて来たときに使ってみた」
「そんな事聞いてないぞ」
「だって、言ったらお前嫌がるじゃん」
アッサリ言ってのけるイリメンに、怒りを通り越してただ呆然とするしかないアルマイトだった。が、
「こうなったら、共犯になってもらうしかないな」
「エ?」
不気味な笑みを浮かべるアルマイトに、少し背筋が寒くなるイリメンだった。


> 第7話へつづく

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