朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第4話

「あ、お帰りなさい」
ガーディアン号に戻ったアルマイトを最初に出迎えたのは2号=ブービーだった。
「おぉ、ちゃんと機能しているようだな」
「ホントにビックリしましたわ。この船に入っていきなりブービーはんが喋りだしたんやから」
続いて左手に分厚いマニュアルを持ってパーやんが出てきた。
「厳密に言えば喋っているわけではないがね。簡易式テレパスとでもいうかな」
「そこらへんはナントカ頭に入れまったけど、改めて凄い科学力でんなぁ」
スッと言ってのけてはいるが、圧縮記憶法を使わずにほんの数時間でこの船の構造・概要の6割を把握してしまった彼も十分凄い。 イリメンは『驚かせるつもりが逆に驚かされた』といった表情だ。
「まったく、君らを見ているとどうして満夫君が代表になれたのか疑問に思えてくるよ」
「それは簡単なことですわ」
「何故だい?」
「満夫はんが、ワイらのリーダーやから。な、ブービーはん」
「そうそう」
「・・・それだけ?」
「そう、それだけ」
見事に断言され、イリメンはしばし呆然としていた。しかしすぐに、2人(?)の言いたいことが解ったようだ。
「なるほど、リーダーだから。か」
そのやりとりを静かに見ていたアルマイトが再び格納庫に足を向け、言った。
「おい、イリメン。一旦帰るぞ」
「え?でもまだ2人とも全部見てない・・・」
「なんの為に小型シャトルを積んだと思ってるんだ?」
「でも地球見物がまだ・・・」
「それは次にしてくれ」
「次って・・・ま、仕方ないか」
「スマンな」
少し不満そうな顔をしつつ、イリメンは先に歩き出した。格納庫の前に来た所でアルマイトは思い出したようにパーやんに向き直った。
「小型艇の操縦法は覚えてるよな?」
「ええ、一応」
「この船は置いていくから、時間を見てひと通り覚えておいてくれ。それと・・・」
「わかっとります。14日ですね」
パーやんの返事に満足そうにうなずくと「13日にまた来る」と言って格納庫に消えていった。

目を覚ましたのは昼頃だった。昨夜は結構早くベッドに入ったのだが。
「意外と疲れてたのかな」
目を開けただけの状態でしばらくボゥッと昨夜見た夢のことを考えていた。
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夜風が入ってくるのを感じて目を開けると、窓の側に男が1人立っていた。おかしい、窓の鍵はちゃんと締めた はずだ。そもそもここは2階で、開いている窓の外は掴む所など何もない。そうか、これは夢なんだ。
「夜遅くに申し訳ない」
男が話し掛けてきた。
「どうしても今夜の内に渡しておきたい物があったので・・・」
その後がよく聞こえなかったが、枕元に何かを置いたのは感じた。
「いいね?14日になったら背面の液晶部分を軽く押すんだ」
そう言いながら、男は窓の外へと消えた。
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「本当に変な夢・・・ん?」
伸びをしようと腕をあげると、何かが手に当たった。持ち上げて見るとそれはカメラ付き携帯電話だった。
「なーんだ、携帯か・・・ン?」
よくよく見ると企業名が一切入っていない、それ以前に明らかに自分の物ではない。ということは、
「夢じゃなかったの!?」
跳ね起きて窓へと駆け寄るが、鍵はちゃんと締まっていた。
「誰だったんだろう」
不思議なことに恐怖感が湧いてこない。それどころか、あの男の声に懐かしさまでおぼえた。 少なくとも14日になったら、何か判るのかもしれない。そう思うと待ち遠しくてたまらないスミレだった。

クラムへと帰るシャトルの中、申し訳無さそうにアルマイトが切り出した。
「本当に・・・すまなかったな。無理やり」
「いいよ、どっちにしても戻ったらワープの影響が無いか身体検査もしなきゃいけないんだ。結果によってはガーディアン号の改修の予定も組まないといけないし。まだやることは山ほどある」
「まぁな、今回はこれで我慢してくれ」
イリメンの切り替えの早い性格に感謝しながら、パーやんに頼んで買って貰った和菓子の袋を渡した。
「そうそう、これも期待してたし」
目を輝かせながら袋を受け取り中を覗き込んでいたが、思い出したように聞いてきた。
「そりゃそうと、さっきの亜空間通信うまくいった?」
「実験なのは解ってたから、こっちの用件だけ話して切った」
「え?アレだけは大分前に安定性が保証されたんだけど、報告受けなかった?」
「あ、そうだったの?それならもうちょい・・・ま、いいか」
「ととっ、なんだ問題ないのか」
「つまらなそうに言うな!ホレ、ワープに入るぞ」
ワープ突入後自動運航に切り替えた。また12時間はすることがない。2人は和菓子を頬張りながらスクリーンを眺めていた。
「そういえば、修了式今日だったな」
日本茶を飲みながらイリメンがつぶやいた。
「ああ、もう終わってるころだろう」
「ってことは、だ」
「今頃食堂は大騒ぎだな」

2人の予想通り、食堂は『修了記念パーティー』と銘打った馬鹿騒ぎの真っ最中だった。今日ばかりは教官と生徒、上官と部下の境が無い。文字通り『無礼講』だ。
そんな会場の端で満夫は1人騒ぎを眺めていた。これとよく似た光景を見たことがある。そうだ、プロ野球チームの祝勝会だ。どの顔もそれまでの積み重ねが報われたという達成感で溢れている。
「どぉ〜ひたぁ!ミツオ〜。楽ひくないんかぁ〜?」
トーチがやってきた。もう完全にできあがっている。
「いいや、そんなことないよ」
「でもなんか寂しそうね」
振り返ると少し顔を赤くしたジルダがいた。いつの間に着替えたのか、ドレス姿だ。いつもながら彼女の盛装は目のやりばに困る。
「そ、そんなことないって」
少々酒が入って赤くなった顔をさらに赤くして、満夫は否定した。
「ほぉ〜ら、すぐそうやってムキになる」
「そぉ〜そぉ〜。昔っからそりだけは治んないなぁ、ミトゥウォは」
2人共、相当飲んでいるようだ。本当にだらしがない。でもこの星に来てすぐに知り合ったこの2人には心から感謝している。2人と出会ってなかったら、今ここに自分がいたかどうか・・・気が付くとジルダが心配そうに顔を近づけていた。
「ミツオ君・・・大丈夫?」
「え、何?」
「何って・・・泣いてる」
ジルダに言われて初めて涙を流しているのに気が付いた。
「あ、なんだろコレ、うれし泣きってやつかな」
「ウッソだー。本当は私と離れるのが寂しいんだ」
ジルダがパッと表情を変え、しなをつくって寄ってくる。酒が入っているせいもあって、とても色っぽい。
「あ、しょーなんだ。ニックイねぇこの色男!」
トーチも同調してからかってくる。
「わわっ、だから違うって」
「ほら、また赤くなってる」
「ほんっと、すぐムキになりゅにゃ」
そう言って笑う2人に、満夫は苦笑するだけだった。が、よく見ると2人もうっすらと涙を浮かべている。なんだかんだ言っても2人も少し寂しいのだ。『本当にこの2人に会えて良かった』心からそう思った。
「でもミツオ君のスピーチ、本当に良かった」
そう言って修了式の光景を思い出すジルダに、トーチも同意した。
「うん、良かった。『一人は皆の為、皆は一人の為』って『三国志』だったよな」
「あれは『三銃士』だよ」
照れ隠しに笑う満夫のグラスに酒を注ぎながら、トーチが握手を求めてきた。
「ミツオ、配属先が違っても、俺達仲間だよな」
「もちろんじゃないか!」
その手を強く握り返す。とその上にジルダが手を置いた。
「ちょっと、私も忘れないでよ」
3人で競いあい、支えあいここまでやってきた。そしてそれはこれからもきっと変わらない。
「なんか、三銃士みたいだな」
3人で笑っていると、突然満夫が担ぎ上げられた。タルゴとギーガン、技術コースの力持ち2人組だ。
「ほれ、総代がなぁしてそったらスミっこで飲んでんだ」
「そだそだ、真ン中で飲むっぺ」
瞬く間に食堂の中央に運ばれ、パーティの主役にされてしまった。
次から次と皆が乾杯を求めてくる。その光景を教官達は同情の目で見ている。このパーティーにおける乾杯とは地球でいう中国式で、注がれた酒を飲み干さなければ失礼にあたる、文字どおりの『乾杯』だ。今期の修了したバードマンは史上最高の70人、都合69回の乾杯、果たしてもつかどうか・・・

シャトルの中では、やることのない2人がカードゲームに興じていた。ちなみに現在イリメンの全勝。
アルマイトはもう1回、もう1回と粘ってこれで249回目だった。
「ほいほいっと、はい勝った」
「ムムム、もう1回」
「いい加減諦めなよ、何度やっても一緒だって」
「頼む!次が最後」
仕方なくイリメンがカードを配った。その手つきは明らかにやる気がない。
「ムムム・・・あ!」
「どうした?」
いきなり大声をあげたアルマイトにイリメンは驚いた。
「忘れるところだった。なあイリメン、明日休み取れるか?」
「まぁ身体検査を通れば2・3日は大丈夫だが?」
「そうか、実はな・・・あ」
250回目はアルマイトの勝ちだった。

少し外の風に当たってくると言って、満夫はふらつきながら会場を離れた。念のために肝機能向上剤を飲んでおいたが、それでもさすがに飲みすぎた。
中庭に出て空を見上げる。この星空の向こうにある故郷、地球を離れて10年。帰ったとしてもコピーが自分の人生を代わりに歩いているので、誰も・・・家族さえも自分がいなくなったなんて思っていない。帰ったとしても、自分がバードマンになった事実を伝えることができるのはパーマン達にだけ。そんなことは来る前から解っていた。では何故ここへ来た?・・・こんな問答をずっと繰り返してきた毎日。自らをを励まし、ときには罵倒してきたのは何の為か? 明確な答えは今だ見つからない。もしかすると見つからないからこそここまで来ることができたのかもしれない。もう今は答えなどどうでも良くなっていた。ただ今は、地球の仲間との約束を果たすことができた安堵感と、1週間後に通達される自分の仕事に対する使命感でいっぱいだった・・・はずなのだが、なにか足りない。まるで心の一部分がポッカリ空洞になったかのように・・・とても大切な何かが足りないのだ。
「何だろう、この感じ」
「・・・ミツオさん」
ふと前を見ると同じ星区で実務研修を受けたセリムが立っていた。雪のような白い肌に藍い髪、藍い瞳を持つ、同期生のアイドル的存在だ。月灯りに照らされている彼女の姿は、綺麗としか言いようがない。
(イラスト:おっけっ!!)
「や、やあどうしたの?」
「うん、ちょっと・・・ね」
どうしたんだろう。普段だったら停めても喋り続けるのに・・・考えているうちに、自分から話しかけるタイミングも失ってしまった。しばらくして周りが暗くなり、頬に冷たいものがはねてきた。この時期に珍しく雨が降ってきた。
「うわぁ、マズイよ。濡れないうちに戻ろう」
食堂へ行こうと手をとったが、彼女は動こうとしない。
「・・・セリム?」
と満夫が振り向いた瞬間、彼女が首に腕をまわしてきた。
「!!」
どの位の時間だったろうか、永遠のようにも感じたし一瞬のような感じもした。
スッと離れたかと思うと「じゃあね」と一言残して彼女は行ってしまった。

結局、ずぶ濡れになったのは満夫1人だった。部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドに体を投げ出した。
「セリム・・・」
さっきの彼女のオーラが、まだ残っている。暖かく、でも切ないオーラ。彼女と過ごした実務研修の日々を思い出す。初めは意見の食い違いから衝突ばかりしていたが、自分の仕事のリズムを掴み余裕が出てお互いのことが解るようになった後は心強い仲間だと感じていた。少なくとも自分はそうであった。よもや彼女が自分を仲間以上の存在と思っているなんて考えもしなかった。
あの後、彼女がバードマンとして勤めること無く辞めてしまうことをジルダから聞いた時はショックだった。今となっては彼女に何があったのかは知る術もない。ただあれが彼女なりの別れの形だとしたら、自分はどれだけ彼女を傷付けていたのだろうか。
『セリム・・・ゴメン。ゴメンな』
届いているかどうかわからないテレパス。今の満夫にできるのはこれだけだった。

翌朝、呼び出し音に起こされた。朝といっても外はまだ暗く、夜明けまで相当時間がある。
「こんな時間に誰だ」
予想はつくが無視する訳にもいかず、昨夜飲み過ぎたせいかなかなか言う事をきかない体をやっとの思いで起き上がらせ、支給されたばかりのインターフェイスの『通話』キーを押した。
意外なことに、画面に映ったのはケネスだった。
「こんな時間にごめんなさい」
「いえ、どうしたんですか?」
「突然で悪いんだけど今から宇宙港に行くの、それで貴方も連れて来るようにって」
「もしかして・・・」
「そう、アルジェから」
結局はあの人か・・・苦笑しながらもう一度時計を見た。なるほど、いまから行けばちょうど民間の第一便の出発時間だ。
「わかりました。すぐ準備します」
「あ、平服で構わないから」
それだけ言って通信は切れた。
「平服ということは私用なのか、まぁ行けばわかるだろう」
急いで着替えて玄関に出ると、コピーアルマイトが迎えに来ていた。
「おはよう。さぁ、はやく乗って」
助手席に満夫が乗り込んだのを確認するとすぐに車を走らせた。
「随分急ぐんですね」
「そりゃそうだよ。あと2人迎えに行かなきゃならないんだ」
2人?ケネスの他に1人居るのか。考えている間に車は本部役員の官舎の前に着いた。
玄関に誰か立っている。
「お待たせしました」
「そうでもないさ」
乗り込んできた人物を見て驚いた。ハガンだった。
「あれ?ケネスさんは・・・」
「荷物があるから、先に行ってくれと言われてな」
「僕、手伝って来ます」
「いや、自分で運びたいらしい」
降りようとした満夫を制して、そのままハガンは寝てしまった。
「お待たせぇ〜」
大きめの鞄を持ってケネスが出てきた。
「あ、手伝います」
「いいの、これは私が運ぶから」
『そんな大事な物なのかな』
ふと思ったことを察したのか、ケネスは満夫に一言
「ヒ・ミ・ツ」
と微笑みながら答えた。

宇宙港に着くと、正面ゲートでアルマイトが待っていた。イリメンとインガも一緒だった。
「おーいこっちだ、こっち」
「そう急かすな。出発までまだ時間は十分ある」
少し落ち着かない感じのアルマイトをハガンが諌めた。しかしその表情は本部や養成学校では見せたことのない穏やかなものだ。
「これで全員そろったね。さぁ、行こう」
「あれ、イムールがまだみたいだけど?」
「あ、先に行って準備してる」
「お前、本当に人使いが荒いなぁ」
イリメンとの掛け合いを見ていても、なぜ自分が呼ばれたのかよくわからない。
「ほいっ、君のチケットだ」
「え?」
「君も行くんだよ。ホラ」
インガが突き出したチケットを受け取る。行き先には『ルーガ』と書いてあった。
「一体なにがあるんだろう」
「おーい満夫、早く来ないと置いてくぞ」
はたと我に帰り、慌てて皆の後を追い掛けた。


> 第5話へつづく

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