朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第3話

「おい、起きろ」
イリメンに揺すられてアルマイトの目が覚めた。あと15分程で42星区に到着するようだ。
目をこすりながらイリメンと一緒にモニターを覗き込む。
「で、順調か?」
「現時点では不安定な箇所は無いよ。あとは誤差修正がしっかり機能しているかどうか、問題なければこのテストは終了だ」 「そこでコケたら?」
「運が良ければ宇宙の反対側、悪いと大気圏よこんにちは。ってとこかな」
ここまで悪い想像をサラッと言える所を見ると、トラブルは発生していないらしい。
実際、ここ数年新造船のトラブルは皆無だ。そう簡単に故障なんておきるはずが・・・
「あれ?」
突然、裏返った声でイリメンが叫んだ。
「おい、どうした?」
「ちょっと待ってくれ」
慌ただしく、しかし確実にキーボードを叩いていくイリメン。眼には緊張の色が漂う。
到着予定時刻まであと10分。何が起ったというのだ?果たして本当に大丈夫なのか・・・
不安になりかけたころ、イリメンがつまらなそうに顔を上げた。
「なんだ、座標設定ミスってただけだ」
「ヘコー!」
一気に力が抜けた。今までの緊張感は一体なんだったんだ?
イリメン・アソウ。長い付き合いだが今だに彼の性格がつかめない。

結局、地球ではなく月を目標に設定していただけだったのだが、船体のサイズ等から考えると、結果的にこちらのほうが都合が好かった。月の周回軌道に乗り遮蔽装置を起動させると、船体各ブロックの点検がしたいと言ってイリメンが出て行った。
「さて、と」
一息つき、地球へ行くために格納庫へ向かう途中、医療室で物音がした。乗船しているのは自分とイリメンだけのはず。

念のためセットを装着し中に入ってみた。医療器材の搬入は帰還後に予定されていたため、室内はがらんとしていた。が、一番奥のベッドに動く影が見えた。緊張しながら近寄っていき、一気にシーツを剥いだ。
「ふぇ?」
幸せそうな顔をしてイリメンが寝ていた。考えてみれば、今日のテストに間に合うよう、一昨日からほとんど寝ずに調整をしていたのだ。途中で呼び出してしまったのもあるし、よほど疲れていたのだろう、全く起きる気配がない。ここまで無防備な姿を見たら、本部中の女性が襲いかかってきそうだ。
「ま、仕方ないか」
元どおりシーツをかぶせ、格納庫へと向かった。

「っと、ついたぁ〜」
大きく伸びをしながらソファに倒れ込む。3年前、高校の卒業記念に両親がプレゼントしてくれた別荘。それほど大きくはないが1人で過ごすには十分な大きさだ。両親以外でここを知っているのは事務所の社長とマネージャーの2人だけ。
高校を卒業し、それと同時に女優に専念すると宣言したとき、世間は一様に『大学進学はしないのか』と聞いてきた。もちろん機会があれば大学にもいきたい。しかし、今の自分は女優という仕事が面白くて仕方がないのだ。『それだけで』とひとは言うが、自分に対しては十分すぎる答えだった。今の所は、この別荘が大学の代わりになっている。役作りのために来たり、自分を客観的に見るために来たり、大事なこともここで決めてきた。
でも、今回きたのは今までと少し違う感じがする。なにか、そう何か大切なことを思い出すために来たのかもしれない。こんな気持ちは初めてだった。よく演出家に『待つ演技がとても上手だ』と言われることがある。『長年会えなかった想い人に今日会える』そんな感じがただよってくるそうだ。自分自身、褒められることとしては嬉しい反面、自分では何も考えずに演じているだけなのに、どうしてそこまで褒められるのだろうと、ずっと疑問に思ってきたのだ。
「やっぱり、誰かを待ってるのかなぁ・・・」
時々、自分の中にはもう1人の自分=星野スミレではない誰かがいたような気がする。だからといって自分が多重人格者という訳ではなく、もう一人も確かに自分なのである。きっと彼女なら何かを知っているのかもしれないが、どうすれば話ができるかもわからない。
ぼーっと考えながら、胸元のペンダントを手に取った。不思議な輝きを放つそれはロケットで、蓋を開けると10歳くらいの男の子の写真が入っている。
「君は一体何者なのかな」
このロケットを何故持っているのか、誰から貰ったものなのかは覚えていない。けど、絶対になくすことができない大切なものであることは確かだ。以前、心ないファンに楽屋を荒されたときにも、これが見つかるまで周りの人が驚くほど泣いていたのを覚えている。
もしかすると、いつかこの男の子に会えるかもしれない。そのときに確かめれば良いのだ。このロケットのことと、もう1人の自分のことを。

「あぁ〜シンド」
今日もよく働いた、久々の東京だからもう少しゆっくりできると思っていたのだが、『本業』のほうは会議ばかり、だからといってコピーに全て押し付ける訳にもいかないからと思っているとブービーから呼び出され、なにかと思えばバナナの特売に付き合えとのこと。いい気分転換にはなったが、パトイロール中にもかかわらずバナナに気をとられるあの性格は、一応関東パーマン・チームのリーダーなのだから、もう少し自覚を持って行動してほしいものだ。それにひきかえ、昨日のパー坊の働きは見事だった。実際応援に行かなくても1人で解決できただろうに、先の事を考えて最善の選択をする所はさすがとしか言いようがない。欲を言えば、もっと後輩を引っぱって行って欲しい所だろうか。あとは危険も顧みず真っ先に飛び込んで行く所など、どう考えても1号の影響としか思えない部分も多々見られる。
「なーんか『出来は良いけど、よく似た弟』って感じやなぁ」
実は、パーマン・チームの中に好きな人でもいるんじゃないか。等とくだらないことを考えつつ、そろそろ戻ろうかとコピーと連絡をとろうとしたそのとき。
「頑張っとるな」
久しぶりに聞く声に振り向くと、バードマンがいた。少しスーツが違うような気がする。
「おやバードマンはん、お久しぶりですな」
「うむ、最近色々忙しくてな、なかなかこっちに来れんのだ。どうだ?新しいパーマン・スーツの調子は」
「ちょっとデザインが気恥ずかしいですが、おおむね快調ですわ。早いとこ他のパーマン達にも支給できまへんか?」
「結構時間がかかりそうなんだが、近いうちにあと5人分は持って来れそうだ」
「そうでっか(やれやれ、まだしばらくは1人だけこの格好か)、ところで肩に光ってるそれ、なんですの?」
「これか?本部役員の徽章だ」
「ということは、出世しはったんですか?」
「まぁそういうことになるかな」
自慢げに胸を張りすぎて、危うく小型艇から落ちそうになった。
「それはそれとしてだ。今日はお前さんに相談したいことがあるんだよ」
「相談って、何です?」
いきなり真顔になったアルマイトを見て、ただならぬ雰囲気を感じ取ったパーやんであった。

「あー困った」
窓の外を眺めながら、満夫は明日のスピーチについてどうしたらいいものか悩んでいた。
アルマイトにも困ったものだ。いくら忙しいからといって、こんな大事なことなんで言ってくれなかったのか。まったくいい加減にも程がある。でも何故自分が総代に選ばれたのだろうか?成績は悪いとは思わないが、決して飛び抜けて良くはないし、どう考えても自分より優秀な者は沢山いる。なのに何故自分なのか。 これもバード星人と地球人の価値観の違いだろうか。
もはや部屋を片付けることなど頭の中からは完全に消えていた。
「スピーチかぁ、どうすりゃいいんだ」
愚痴りながらも、久々にチェルキを起動させいざ考えようとしたところで、外部通信がはいった。
「いよぉう1号。元気か?」
頭を悩ます張本人からだった。
「元気かじゃないですよ、本当に。僕が総代だなんて、この間一言も言わなかったじゃないですか」
「いやスマン。この頃忙しくてなぁ、言ったつもりでいたんだが」
相変わらず笑って誤魔化そうとしている。ふと昨日のケネスのことを思い出した。
「そう言えばアルマイトさん」
「ン?何だ?」
「ケネスさんとなにかあったの?」
「ウ・・・マ、イヤその・・・何だ。別に何もないが?」
画面のむこうでアルマイトは明らかにうろたえていた。どうしたんだろう、喧嘩でもしたのかな?
「まぁいいや、後でイムールさんにでも・・・」
「聞くなっ!」
焦っている、そういえばいつもお喋りなインガさんも今日は不気味なくらい無口だった。余計気になってきた。
「とにかく、それに関しては帰ってから説明するから」
「帰ってから、って今何処なんです?」
「それも含めて今度説明する。あ、それとあたしは明日の式に出れんから。それじゃ」
一方的に切られてしまった。結局、何が言いたかったのだろう。
「ま、いいか」
早々に切り替えて、スピーチを考え続けた。

「あいつ、また能力のびてるなぁ」
満夫にはもう少し隠しておきたかった。うかつに通信するものでもないな。
先ほど4号に会った後ガーディアン号に戻って夕食を採ろうとしたとき、満夫に総代になったと伝えていないことを思い出し、慌てて通信したのだった。
「サラが言ったのかな」
のんきに考えながら麺をすすっていると、画面にPマークが踊った。4号からの通信だった。
「どうだ?」
「あきまへんわ。14日まで休みらしゅうて、それ以上のことは教えてくれまへん」
「そうか、わかった。ありがとう」
「っと、ちょっと待ってーな」
通信を切ろうとしたところで4号が停めた。
「あと1つだけあてがありまんのや」
「なんだ?」
「多分、この時間やったら居ると思うんやけど・・・」

とある高級マンションの一室。薄暗い部屋でテレビ画面に夢中になっている男がいた。
画面には星野スミレが今まで出演したドラマが映っているがどうも様子が違う。どの画像も編集されていて、男が一緒に映っているのだ。それを見ながら、男は悦に入っていた。
「僕の、スミレ」
男の名前は須藤佳一。パーやん運送社長秘書室長で、星野スミレ私設ファンクラブ会長である。と言っても、会員などいない。中学生のときに星野スミレの舞台「魔法使いエリカ」シリーズを観て以来、熱心に応援をしている1人と言えば聞こえはいいが。熱心なのを通り越して最近ではテレビ局に忍び込むなど危険人物と して彼女の事務所からマークされている。昨日のCM撮影も社長が視察するというスケジュールが自分に告げられていなかった。
「あの馬鹿社長、僕とスミレの愛を引き裂こうとしてやがる」
『なにイライラしているの?』
画面の向こうのスミレが語りかける。彼女の下げているペンダントが揺れる。あのロケットに入っている写真は、きっといつか送った自分の写真だ。いや、そうに決まってるんだ。だから彼女のオフに合わせて有給休暇をとったんだ。自分を待ってる彼女のために。
「ごめんよ、もうすぐ迎えにいくからね」
言いながら画面のスミレに口を近づける。
「あいにくだが、それは無理だろう」
いきなり後ろで声がした。振り向くと大柄な体型の影が見えた。こちら側からは逆光でそれ以上わからない。
「星野スミレは今何処にいる?」
影が聞いてきた。
「い、一体お前は誰なんだ?」
少し萎縮しながらも聞き返した。
「質問に答えなさい。星野スミレは今何処にいる」
影はなお一層大きくなり-そう彼には見えた-聞いてきた。
誰なんだこいつは、いつの間にか人の部屋に入ってきて名乗りもせずに一方的に質問してくる。話し方は穏やかだが命令口調なのが気に喰わない。
「もう一度だけ聞く。星野スミレは何処にいる」
これが最後通告だとでも言うような口調で影はせまってきた。このまま喋らずにいたら身に危険が及ぶかも知れない。あまりの恐怖に思う様に口が動かなくなっていた。
「た、た多分・・・べべっ別荘に行ってる」
「どこにある?」
「葉山、海岸の近くにある」
「そうか、ありがとう」
そう言うと影は須藤に向かい何か光を照射した。そこで須藤は気を失った。

カーテンのすき間からこぼれる朝日の眩しさに目が覚めた。今日も好い天気のようだ。ベッドから出て、テレビのニュースをチェックする。経済・株価・交通情報・・・etc
「今日のスケジュールは、と」
きっちり確認しておかないと社長に置いて行かれるので休暇中も気が抜けない。部下に連絡をして一段落、出かけようかと玄関に向かう途中ふと振り返り部屋を見回した。
「なんか違うような・・・気のせいか」
つぶやいて出かけていった。

少しさかのぼって、須藤が気を失った数分後。
「あ、バードマン。どうでした?」
「あぁ、貴重な情報を貰ったので少しお礼をしておいた」
「お礼?」
「いや、たいしたもんじゃないがなぁ。ハハハッ」
笑って誤魔化しつつ通信を切り、改めて背後に積み上がったスミレグッズを見て。
「ファンを1人減らした位で、怒らんよな」
ポジティブに考えながら、葉山へと急いだ。


> 第4話へつづく

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