朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第2話

「さて、どうしたものかな」
翌日、アルマイトは頭の後ろで手を組みながらモニターを眺めていた。
念の為に編成パターンはいくつか組んでおいたものの、満夫が司令官になるのは想定していなかった。
正確には想定する必要が無かったのだが。
「全く、イムールの言う通りあたしゃ“冷たい上司”だよ」
自嘲気味に呟きながらインターフェイスをオフにすると、窓の方に向き直った。今日も好い天気だ、外宇宙もこの天気の様に穏やかであれば、こんなに頭を痛める必要もないだろうに・・・いや、今日の頭痛は違うところから来ているので、むしろ心地好い位なのだが。
昨晩、人生最高の瞬間を迎えたあと、いつものメンバーを呼び2人の婚約を発表した。その後は・・・ここで触れるのは避けておこう。とにかく、今現在彼はとても幸せだ。だからといって、今自分が為すべきことを忘れているわけでは無い。
「だからって“頑固オヤジ”のままでもないが」
気を入れなおす様に一呼吸すると、ファイルを手にオフィスを出て行った。

昼休み直前のがらんとした食堂、窓際の日当たりの好い席に1人の青年が座っていた。
「ふぁ〜ぁあ」
緊張感の欠片も無い顔で大欠伸を一つすると、トレーを手に席を離れた。
「ご馳走さま」
返却棚に置いて厨房の人たちに声をかけて出て行く。
その後姿を眺めながら、トレーを下げにきた1人が呟く。
「本当に、あの子が今年の総代なのかねぇ?」
「まったく、そんな感じしないけどな」
「アラ本人には、まだ言ってないらしいわよ」
「本当に困ったお目付け役ねぇ」
そんな会話されているのにも気付かない程、今彼の頭の中は一つの事でいっぱいだった。
「部屋、どこから片付けようか・・・」
呟きながら、須羽満夫は寄宿舎へと戻って行った。

「どうやら、色々良い事があったようだな」
入って早々にシャライから強烈な先制パンチが跳んだ。
「アラッ?もうご存知なんですか?」
「ご存知も何も、何があったかは別として君の表情を見ればテレパスする必要もない」
それもそうだ、だから自分はネゴシエーター(交渉役)にはなれなかったんだ。
苦笑しながらファイルを差し出した。
「修正案を持って参りました」
「そうか、まぁ掛けたまえ・・・どれ」
受け取るとシャライは昨日よりも時間をかけて、じっくりと目を通していった。
少し厳しい顔でファイルを閉じた後、しばらくして口を開いた。
「本当に、これでいくつもりかね?」
「はい、これ以外無いと考えています」
「前例を創る、か?」
「ええ・・・私らしくない、ですか?」
却下されるのか、すこし不安になってきた。ところで、シャライが少し意地の悪い笑顔で言った。
「だから君はネゴシエーターになれんのだよ」
「では・・・」
「これで良いだろう。正式な辞令は修了式の1週間後に出す。それまでに準備は完了しておくように」
「わかりました」
こうしてはいられない、一刻も早く取りかからないと。席を立ったその時、
「それともう一つ」
シャライに呼び止められた。
「はい・・・?」
「“親父さん”には、ちゃんと報告しとけよ」
「はい!」
力強く応えて、総司令室をあとにした。

都内某スタジオ、大勢の人達がモニターを見ている。
>とある新興住宅地、引っ越してきたばかりの家の一室。女の子が1人写真を見ながら
>寂しそうにしている。
>そこへチャイムが鳴った。ドアを開けると作業服を来た女性がダンボール箱を持って立っている。
>女性は笑顔で、
>「パーやん運送です。お荷物をお届けに参りました」
>と挨拶した。場面替わって、箱を開いた瞬間笑顔になる女の子。
>ナレーション「あなたの想い、お届けします」
>会社ロゴ
(イラスト:カオスさん)
「ハーイ、OK」
「お疲れさまでしたぁー」
スタジオ全体にあった緊張感が解け、スタッフが皆笑顔になる。彼女が一番好きな瞬間だ。
「スミレさん、お疲れさまです」
「お疲れさま」
ADにも笑顔で挨拶し、帽子を脱いでまとめていた髪をおろす。
星野スミレがパーやん運送のイメージキャラクターになったのは3年前、社長が熱烈なファンで『CMを作るのなら、彼女以外考えられん』とゴリ押して決まったそうだが。彼女にはそんなことは関係なかった。ただ、キャッチコピーがとても気に入ったので、自分と契約している間は変えないで欲しい。そう頼んだだけだった。
それにしても最近はCM撮影も楽になったものだ。カット毎をバラバラに撮ったとしても、5分程待てばその場でほぼ完成品に近い物ができあがりチェックができる。 今日も半日程度で終わってしまった。 おかげで仕事の合間でも昔より自分の時間が多く持てるようになったのが嬉しい。
「さてと、どーしよっかなぁー」
昨秋からやっていたドラマも一昨日アップし新作ドラマのクランク・インまでの9日間、ここまでまとまったオフは久しぶりだ。どう過ごそうか考えてしまう。
「お疲れさんです」
気がつくと、目の前にガッシリした体型の、短髪の青年が立っている。パーやん運送社長・大山法善だ。高校を卒業してすぐに旧知の友人であるパーマン4号から会社組織を譲り受け、たった4年で世界規模の企業にしたことから『流通業界の革命児』と呼ばれている。
『お客の生の声が聞こえない』とデスク・ワークを嫌い、常に各地の営業所を視察して回っている、Tシャツにジーンズ、ロゴ入りジャンパーを羽織ったその姿は、とても社員100万の頂点に立つ青年実業家とは思えない。
「あ、どうも失礼しました。考え事をしていたもので」
「いやぁ気にせんといて下さい。なんや休む暇もない位忙しいのは聞いとりますから」
そう言って大山は笑った。いつもCM撮影には必ず来て皆をねぎらうその笑顔を、スミレはもっと昔から知っているような気がした。
ピピピピピピピッ ピピピピピピピッ
突然、電子音がスタジオ中に鳴り響いた。
「誰だ!スタジオん中に携帯持ち込んでるバカは!」
スタッフが怒鳴る。
「スマン、ワイの携帯や」
大山がすまなそうな顔で皆に聞こえるように言い、慌てて外へ走って行った。
それを微笑みながら見送りると、スミレはマネージャーを呼んだ。
「私別荘に行ってくる。14日には帰るから」
静かな所でのんびりしたい。そんな気分だった。

大山はスタジオを飛び出しながら、上着のポケットから取り出したコンパクト・タイプの携帯を開き、耳に当てた。
「ワイや。どないした?」
『あ、パーやん。今、強盗を新宿から世田谷方面へ追跡中なんです。応援お願いできますか?』
「わかったパー坊。すぐ行く」
そのままトイレに駆け込み、誰もいないのを確認すると携帯の背面液晶部分を軽く押しながら一言唱えた。
「コピー」
瞬間、カメラ部分から光が放たれ、大山の前にもう1人の大山が現れた。もう1人の大山が口を開く。
「事件でっか?」
「ああ、後のスケジュール頼むで」
言いながら、今度は閉じた携帯を左胸に当てた。
「パー着」
大山の全身は一瞬輝き、次の瞬間には緑のマスクを被り、白地に緑のラインが入ったスーツに紫のマントを纏った姿になっていた。左胸にはPマークが輝いている。パーマン4号=パーやんの現在の姿だ。
「ほなな」
コピー法善に一声かけると、窓から翔び発った。


惑星クラムの周回軌道上に艦隊武器整備・格納衛星、通称『零番ドック』がある。通常、関係者以外入れないそこへ行く手段は本部地下にある特別転送機のみで、しかもバッヂとは別に入場許可IDが必要と言う非常に厳重な所である。
「お〜い、イリメ〜ン!」
そんな所に不釣り合いなかん高い声を出して、アルマイトがやってきた。
「頼むから大きな声を出さないでくれ。頭にひびく」
通路脇の連絡用ポッド接合ハッチからイリメン・アソウがでてきた。
彼もまた、宿酔気味のようだ。
「ム、スマンな。ところで船はどこだ?」
「フネって・・・お前の眼の前にあるよ」
あくびをしながら、窓の外を指さした。しかし、外は星空が見えるだけだ。
「ヘ?」
「ン?ああ、見えないか」
そう言ってイリメンはリストバンドを操作した。すると、今まで何も無いと思っていた空間に巨大な宇宙船が現れた。鳥が翼を広げたような形をした純白のボディは、側面に大きくバードマンのエンブレムが描かれ、その下に『BM423001-GUARDIAN』と書かれていた。
「地球はまだ未加盟だからな、遮蔽装置を付けておいた」
「ガーディアン{守護神}か」
「なかなか好い名前だろ」
「ああ・・・しっかしこのデザイン、少し地球文化に感化されすぎてないか?」
「結構綺麗に仕上がってるだろ。造るのがこんな楽しいと思ったの久しぶりだよ」
自分の仕事に酔っているイリメンをよそに、アルマイトは改めて船を見上げた。我々の科学技術の結晶ともいえるこの船。これが彼等の新しい『家』になるのだ。できることなら、この船に装備されている武器を何一つ使うこと無く役目を終えて欲しいものだが、事態が何時どう変わるか解らない。ただ今は、そうならないことを祈るほかない。
「じゃまぁ、早速最終チェック行くか」
「傷を付けない様、気をつけてくれよ」
「ああ、解ってる・・・ってアレ?チョット待てぇ〜!」
イリメンがハッチの向こうで手を振っているのに気付き、慌ててハッチを開く。
勢いで叫んだおかげで、頭痛が酷くなったような気がした。
イリメンがキョトンとした顔で問いかけた。
「何?」
「何?じゃないだろう。お前さんも一緒に乗るんだよ」
「そうなの?」
「じゃなかったら、誰がチェックするんだ?」
「あっ、それもそうだな」
「お前・・・ワザとやってないか?」
普段の倍以上の脱力感を感じているアルマイトをイリメンはメイン・ブリッジに案内した。
つい先程まで微調整を行っていたと思われるそこは、新造船特有の匂いにつつまれていた。
「・・・結構広いな」
「ああ、だが最低4人居れば問題なく航行できるよう設計されている」
「4人・・・え!? おい、お前もしかして・・・」
「お前の考えてることは読めなくても大体の想像がつくよ」
図星を突かれて苦笑していると、イリメンは中央の一段高い所にある座席をアルマイトの方へ向けていた。
「どうだ、座ってみるか?」
言うまでもなく、それはキャプテンズ・シート、満夫の為にある席だ。
悪戯っぽい笑顔を浮かべるイリメンだったが、アルマイトの表情を見て取るとすぐにもとへ戻した。
「わかってるよ。先に座って船のツキを落としちゃあ、な」
「そういうこと。操舵席はここか?」
「ああ、基本操作は今までの船と同じだ。まだ計測器をつなぎ終わってないからセッティングが済むまでもう少し待って・・・」
遅かった。アルマイトはすでにエンジンを起動させていた。
「よーし、いっくぞー」
「だからまだだって・・・」
あきれ顔のイリメンは、『このテストが無事に終了しますように・・・』と数年ぶりに神に祈った。
様々な思いを乗せて、試験航行は始まった。

養成学校寄宿舎の1室、さっきとはうって変わって満夫は頭をかかえていた。
「よりによってこんな時に・・・」
部屋の方は・・・右から左に移動しただけにも見えるが・・・3割位は片付いただろうか。
普段やらないことをやる。そんなときに限って教官に呼ばれる。
特に悪いことをしたと言う訳ではないが、呼び出される気分は10年前と変らず。あまり良いものではない。
「こないだトーチと一緒に夜中に女子棟に忍び込んだのがばれたのか?」
いくら恋愛に対してオープンだといっても・・・やっぱり『ロミオとジュリエット』なんて見せるんじゃなかった。付き合う自分も自分だが。重い足取りで教官室へ向かった。
呼んだのはケネス教官だった。その美貌は10年前と全く変わらない。怒らせるとどうなるかわからない所も。
「あのー、お呼びでしょうか」
「あー満夫君、スピーチできた?」
スピーチ?なんのことだろう。頭の上をハテナマークが行進している。
「な、何なんですか?一体」
「明後日の修了式、貴方が総代になったって、アルジェに聞いてない?」
「はい?」
いまいち状況が飲み込めない。
「だから、あなたが明日の式で修了生の代表としてスピーチをするの」
「えぇぇぇ!?」
全く知らなかった。寝耳に水もいいところだ。
「やっぱり言って無かったのね、本当にアルジェったら・・・満夫君ゴメン。とりあえずそう決まったから、頑張って」
笑って誤魔化そうとしているケネスの姿が、アルマイトとダブって見える満夫だった。

「座標確認」
「異常なし」
「パワー伝達」
「異常なし」
「船体ブロック生命維持装置」
「異常なし。オールグリーンだ」
ケンタウリ星域で、ガーディアン号のチェックは滞りなく進んでいた。
「よぅし、休憩しよう」
イリメンはフード・ディスペンサーからドリンクを2つ取り出し、1つをアルマイトにすすめた。
「おっ、サンキュ」
受け取ったと思ったら、一気に飲み干してしまった。それをみながらイリメンがつぶやいた。
「フード・ディスペンサーも異常なし、と」
「ヘコー!」
もう少しで、座席から転げ落ちそうになった。イリメンは「冗談だよ」と笑ってはいるが、彼の冗談は時々本気と区別がつかないことがあるからオソロシイ。
「それにしても、昨日お前がテスト・パイロットをやると言い出した時は正直驚いたよ」
「そんなに、おかしいか?」
「いいや、パイロットとしてのお前の才能は十分わかっている。でも今のお前は本部役員という立場にある人間だからな」
「それはお互い様だろう。技術本部長」
「なんたって最高傑作だからな。最後まで自分でやりたいんだ」
「あたしもそんな所だよ」
はぐらかし気味に言ったアルマイトを見て、イリメンは少し可笑しくなって笑った。
「ン?どうした?」
「本当に優しい“父親”だなぁ。と思ってね」
「できの悪い“息子”だからな。なにかと面倒見てやらにゃあ」
予想外の返事だった。今までのアルマイトだったら照れ隠しに声を荒げたりしていたのに、今彼ははっきりと“息子”と言ったのだ。勿論、他の星区のバードマン・パーマンも“チーム”として確かな信頼関係を築いている。しかし、アルマイトと満夫達地球のパーマンはそれ以上、まるで本当の家族のような“絆”で結ばれて いるのかもしれない。それこそ冗談のような話だが、そうでなければアルマイトの口からそんな言葉を聞くこともないだろう。
昨日視察に来たシャライの言葉が思い出される。
『彼等は気付かぬ内に、パーマン計画の理想型を創り上げていたのかもしれない』
「・・・となるとサラが“母親”かぁ」
おもわずポツリとこぼしてしまった。それにもアルマイトは怒る素振りも見せず。
「ハハハッ・・・サラもそのつもりらしい」
おもいっきりノロケている。あきれてチェック・リストに目を移した。
「じゃあ、最終項目といきますか」
「そうだな」
2人の顔が少し緊張してきた。ガーディアン号試験航行の最終項目は、今回新たに開発、装備されたワープ・エンジンの稼動テストである。従来のワープ・エンジンよりも遥かに性能が向上した反面、新装ゆえに充分なテストをこなしていないのが現実だ。その為、今回のテストは相当の危険も予測されていた。
「で、具体的にどの位アップしたんだ」
「そうだなぁ・・・解りやすく言うと、今までだと地球まで約3日近くかかっていたのが、12時間程で行けるようになる計算だ」
「そいつは凄いな」
「実を言うと、これも満夫君のおかげでね」
「なんだって!?」
「いや、9年ちょい前に彼が小型艇で地球まで3日で往復してきたことがあって、技術スタッフも驚いて航行データを解析した結果、かなり効率の良い航行プログラムに改造をしていたことが判ってね、本人は地球に行くのにイッパイイッパイで何をどうしたか覚えていなかったんだが -結果的にやっちゃイケナイことだったので彼はその後かなりキツーク絞られたようだ- それをきっかけにワープ航法の技術レベルも一気に向上した。と言う訳さ」
2日連続で驚かされた。そう言えば物質転送機を渡した頃、コピーが
「何故か知らないけど、パー子さんに用があったみたいで慌てて帰って来た」
と言っていたのを思い出した。なんだかんだ言っても、3号のことになるとあいつは後先をあまり考えなくなるようだ。しかしそれがこんな所に影響をもたらしているとは、良い意味であいつには裏切られてばかりだ。そう思うと何か可笑しくなってきたと同時に、このテストが成功するという確信と、なんとしてもこの“計画”を成功させるという新たな使命感が生まれた。
「で、行き先はどうしましょ?」
「とりあえず地球まで行ってみますかぁ」
イリメンが「言うと思った」と言いたげな顔で座標設定をはじめた。
「42星区、第3惑星、マークOK」
「よし、発進」
メインスクリーンに映る星空が点から線になり、光のトンネルへと変わっていった。
計算上では、12時間後には太陽系だ。
「まずは、4号に相談してみるか」
軽く伸びをしながら、アルマイトはこれからの段取りを考えていた。


> 第3話へつづく

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