朝日ヶ丘スミレ団

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■ 君が知ってる本当の僕 第1話

「あと1分・・・あと30秒」
ここはバードマン本部のオフィス。唸りと鼻歌が混ざったような声を出しながら、アルマイト・カラコルムは地球製の時計とニラメッコをしていた。先の人事異動でパーマン本部役員の任に就いてから半月、今年度訓練課程を修了するバードマン及びパーマンを軸として編成される新設艦隊のファイルをようやく完成させた所だった。
なにしろ養成学校開設以来とびきり優秀だと言われている逸材ばかりだ。初仕事からそんな大役を任されたのだから熱が入らぬ訳が無い。本当の所、熱が入り過ぎてギリギリ間に合ったという方が正しいようだが・・・。
あとはこれを本部に提出すれば良いだけだ。その前にとりあえずささやかながら初仕事終了?記念の自分へのご褒美プラス遅めの昼食として、大好物であるカップ麺の出来上がりを待っていた。
「3分経った!よ〜し、食べるぞ〜」
誰に言うともなく蓋を開け箸をつけようとしたその時、卓上インターフェイスの呼び出し音が鳴った。
憮然としながら『通話』キーを押すと画面にはバードマン総司令、ジャーゴル・シャライの顔が映った。
「そ、総司令!?」
「カラコルム君、食事中すまないがすぐに私のオフィスに来てくれないか?」
「はっ、只今」
言うが早いか編成案を手に総司令室へと向かいつつも、
「あぁ、ま〜た昼メシ食べ損なった」
と内心愚痴るアルマイトだった。

「失礼します」
緊張した面持ちで総司令室に入ると、ハガン教育部長が先に来ていた。
「早かったな」
「いえ・・・ご用件は何でしょうか?」
「ああ・・・それは?」
言いかけたところでシャライはアルマイトの持っているファイルに気が付いた。
「これですか? 新艦隊の編成案です。今日が提出日でしたよね」
そう言うと、ファイルを手渡した。口にはしなかったが、顔は『自信作です』と書いてあるような表情だった。
が、ファイルに目を通したシャライは同情の笑みを浮かべつつこう言った。
「そうか・・・イヤ、実はこの件で君を呼んだのだよ」
「と、申されますと?」
「そこからは私が説明しよう」
と、ハガンが立ち上がり、ビュースクリーンを見るよう促した。
スクリーンには修了式を3日後に控えた訓練生の顔が1人ずつ映し出されていた。
「修了課程の個人面接は覚えているかね?」
「はい、バードマンになるための適性試験の最終課目です」
「質問内容は何だったかな?」
「惑星間紛争の仲裁方法から次世代パーマンのスカウティングまで、かなり多岐に渡るものだったと・・・」
「宜しい。では最後の質問は?」
「確か、『同期メンバーの中でリーダーにふさわしいのは誰だと思うか』でした」
「その通り。そして君を呼んだ理由もそれなんだ」
「はぁ・・・」
いまひとつ合点のいかないアルマイトを見ながら、ハガンは続けた。
「今回修了するバードマン70名の1人を除く全員が同じ回答だったんだ」
「えっ!? 一体誰を・・・」
「皆、まるで示し合わせたかの様に『ミツオ・スワ』と答えたそうだ」
「ハィー!?」

真っ白になっていた。まさか・・・そんな・・・あの1号が? 
気が遠くなるのをナントカこらえて、改めて質問した。

「あの、なにかの間違いでは?」
「間違いなどではありませんよ」
いつの間にか隣にサライラ・ケネスが立っていた。
「主だった理由としては
 『彼のサポートをしたい』  (確かに頼り無い部分があるからなぁ)
 『確実に生き残れそうだ』  (まぁ運は良い方だよな)
 『行動力がある』      (考えるより先に体が動く奴だし)
 とまぁ色々あるのですが、スカウトした当人なのに随分ネガティブ思考ですね」
「・・・あ」
あまりのショックで考えがみんなケネスに筒抜けだった。
「まあ良い。いずれにせよ『彼ほど適した人物はいない』、これが彼等の総意であることは間違いない」
「そこまで・・・」
「信頼されているということです」
「・・・因みに残り1人は?」
「無論、本人だ」
「彼の回答がまた面白いんだよ『誰がと言うのは決められませんが、少なくとも僕がならなければ問題ないと・・・』思うそうだ」
「まるっきり正反対ですね。まぁ彼らしいといえばらしいのですが・・・」
苦笑しているアルマイトに追い討ちをかけるような指令がでた。
「カラコルム君、ここまで結果がはっきり出ているのだからどうだろう、ミツオ・スワを今度の艦隊司令官に任命したいのだが?」
「ハ? ちょっと待って下さい。修了生をいきなり司令官に、ですか?」
耳を疑った。通常なら着任して8年以上のキャリアを経て初めて候補にリストアップされ、さらに1つでも条件を満たさなければ即除外されてしまうほどの選定基準をクリアしなければならない。
司令官になるというのは、それほどまでに過酷なのだ。
今回の編成も、さすがに司令官だけはリストから選出した。
それらを飛び越していきなり司令官とはいくらなんでも・・・
「無謀だと思うかね」
「はい、もう少し経験を積むか、有能なブレーンを付けないと・・・」
「それが君の仕事だろう。違うか?」
喝を入れるようにハガンが言った。
「確かにそうですが」
「ならば彼の能力を最大限に引き出せるような編成を組みたまえ」
「解りました」
勢い返事をしてしまった。これは大変なことになったと考えているところへ、シャライからとどめの一言がとんだ。
「再提出は明日正午。以上」
「ヘコォー!」
様々な感情の入り交じったアルマイトの叫びはタワー全体に響き渡った。

オフィスへ戻り新たなファイルを作成しようとインターフェイスを起動させたものの、今だ信じられず半ば放心状態のアルマイトだった。
(まっさか、あの1号が司令官にねぇ・・・)
気を取り直して編成を考えようとしてもいまいち身が入らない、そこへイムール・ゲインが訪ねてきた。
「いようっ!頑張ってるか?カラコルム人事官殿」
「おっ久しぶり、いつ着いたんだ?」
「ついさっきだ、しっかし疲れたア〜」
と、イムールは少し大袈裟に伸びをした。
「ハハハッまぁ座れよ、お前さんも式に出席するのか?」
「うちの星区に配属されるのが2・3人いるらしくてな、ついでに1週間休暇も貰って来た」
答えながらソファに座りアルマイトが入れたお茶を一口飲むと、イムールは思い出したように聞いてきた。
「そういえば満夫君、42星区艦隊司令官になるんだって?」
「相変わらず情報が速いな、正式辞令はまだなんだから下手に喋るなよ」
「判ってるって・・・なんだよ、あまり嬉しくなさそうだな」
「ああ、少なくともバードマンとして地球に戻してやれれば・・・位にしか考えてなかったからなぁ」
「おいおい、冷たい上司だなおまえは。訓練課程の成績はしっかりチェックしているんだろ?」
「勿論その都度報告は受けているよ。実際、成績自体は申し分の無いものだし、ここ2年の実務研修だって充分に評価できるものであるのも間違い無いんだが・・・いや本人にもこの間会ったばっかりなんだが、どうもそんな成長した雰囲気がせんのよ」
モニターを睨みながら、アルマイトはどうにも納得がいかないようだ。 イムールが伸びをしながらつぶやいた。
「う〜ん・・・それも仕方ないか」
「どういう意味だ?」
その言葉に、カーソルをいじるアルマイトの指が止まった。仕方がない?一体何のことだろうか。
イムールは『しまった』とでも言うような、複雑な表情でこっちを見ている。気付いたときにはイムールに詰め寄っていた。
「おい、何なんだよ」
「実は・・・」

「一体どういうつもりなんだ!」
怒りにまかせて部屋に怒鳴り込んできたアルマイトを見て、ケネスは静かに尋ねた。
「・・・イムールから聞いたのね」
「ああ、直接聞いても言いそうに無いからね。驚いたよ、1号が8年前に“テレパス・バリア”を修得していたなんて・・・」
“テレパス・バリア”とはその名の通りテレパス能力を用いて相手のテレパス能力を打ち消す技術のことで、通常は惑星間の交渉等に使われる能力だ。本来であれば養成学校の後期にはじめてならうはずのものを、なぜ満夫がそんな早い時期に修得していたのか。それも私にはなにも言わずに・・・
(こんな屈辱的なことないぞ)言葉にされなくてもケネスにはその想いが痛いほど感じられた。
「ごめんなさい、でも・・・」
「いいかい?彼をここに連れて来たのはこのあたしだ。だから彼が今、どんな状況にいてどんな状態にあるのか常に把握しておく責任がある。それなのに何故・・・何故あたしに隠していたんだ!」
そう言ってアルマイトが拳で机を叩き、少しの沈黙が流れた後、ケネスが口を開いた。
「今まで満夫君と約束したから話さなかったけど・・・」

8年前・・・それは精神能力の第一回目の授業が終了した後のことだった。ケネスは教官室に戻る所で満夫に呼び止められた。
「教官、教えて欲しいことがあるんですが」
「ケネスでいいわよ満夫君。で、何が知りたいの?」
「えっと・・・テレパシーって、自分の考えを特定の相手に送るだけでなく、相手の思考を読み取ることも出来るって言ってましたよね?」
「ええ」
「じゃあ、相手に自分の思考を読まれない方法も有るんですか?」
「有るには有るけど、まだ貴方には・・・」
「お願いします、教えてください!」

「・・・それで私、何故知りたいのか聞いたの。そしたらあの子なんて言ったと思う?『バードマン、いやアルマイトさんに余計な心配させたくないんです』そう言ったのよ!」
ケネスは声を震わせた。アルマイトは愕然とした。なにか言おうとしても言葉が出ない。
「それからこう言ったの『僕は、いや地球のパーマンは皆バードマン・・・アルマイトさんのことが好きです。厳しいけどとても優しい、もう1人の“父”みたいな人だと思っています。だからこそ僕1人のことだけで迷惑はかけられないし、それに心配されると僕自身が甘えてしまいそうで怖いんです。アルマイトさんには安心して仕事をしていて欲しいんです』って」
「あいつ・・・そんな 」
アルマイトはうつむいたままソファに座り込んでしまった。8年前・・・満夫にとって転機になった出来事、そう3号がパーマンを辞めた年だ。口には出さなかったものの彼自身、相当悩み苦しんだに違い無い。苦しんだ上で出た結論がこれだったのか。
「だから、君は教えたのか?」
「・・・ええ、規律違反なのは判ってた。でも、あの子の眼を見たら・・・」
「わかってる、そう言う奴なんだ1号は・・・ハハッ、そうか・・・ほんっと・・・“バカ息子”が・・・」
顔に手を当てる、努めて明るく言おうとしたものの言葉が詰まってうまく話せない、1号=満夫が人に対する優しさ、自分に対する厳しさをもって育っていることに対する嬉しさ、対して満夫が悩んでいるときに自分が気付かず、なにもしてやれなかった悔しさが同時に込み上げてくる。
落ち着きを取り戻したケネスは、いつもの様な優しい表情でアルマイトの横に座り、その肩にそっと右手をのせた。
「大丈夫!この10年で彼は貴方が思っている以上に大きくなっているわよ」
「ありがとう・・・ありがとう」
そのまま、アルマイトの意識は途絶えた。

「う、う〜ん」
(いつの間に・・・眠ってしまったんだろう)アルマイトはゆっくり眼を開けた。柔らかい光の中にボンヤリと人の顔が見えてきた。
「目、覚めた?」
ケネスだ。そこではじめて自分の頭が彼女の膝の上にあることに気付き、慌てて体を起こした。
周りをみると広大な草原が広がっていて、2人は大樹の下に居た。
「え?これは・・・ここは一体」
「ホログラムよ」
そう言うとケネスは腰に付いているリモコンのスイッチを押した。草原が消え、見慣れた本部のオフィスに戻った。
アルマイトはソファに座ったまま、まだすこしボーっとしていた。そこへケネスがお茶を持って来た。
「さっきはごめんなさい。あそこまでショックをうけるとは思わなかったから、ちょっと言い過ぎたわね」
「いや・・・」
「貴方最近張り詰めた感じだったから、もう少し落ち着いてから話そうと思っていたんだけど、 さっきの貴方を見ていたら『今話さないといけない』って予感がして・・・」
「そう、か」
2人共そのまま黙ってしまった。今日最後の陽光が陰り始めた頃、
「「あの」」
同時に声がでた。思わぬことに2人で笑った後、ケネスがゆっくり話し出した。
「私ね、満夫君の気持ちがなんとなく判ったから“テレパス・バリア”を教えたの」
「・・・」
「あれはまだ養成学校に入ったばかりの頃で、私は他の人より能力が多少強いと言うだけで周りから好奇の目で見られたり、避けられたりしていたの。私自身、それも仕方のないことだと思って我慢していた。そのあとしばらくして、自分で能力をコントロールできない時期があって、周りの人たちの思考が一斉に聞こえたのよ。想像できる?聞きたくも無い陰口や知りたくも無い感情がどんどん私の中に入って来て、そのまま押し潰されそうでだんだん怖くなってきたの」
薄暗くなった室内でも、ケネスの瞳から光るものがこぼれ落ちるのが、アルマイトには見えた。
「そんな時、ある人に会ったの。彼は私を変な目で見ることも、まして能力のことなんか一切話さなかった。楽しいときも悲しいときも、いつも心から笑ったり泣いたりすることのできる人で・・・すごく優しいオーラだった」
ケネスは立ち上がり、窓の方へ歩いて行った。 すでに外は月明かりがわずかに照らすのみとなっていた。
「彼とは科も違ったしたまにしか会うこともできなかったけど、いろんな友達を紹介してくれたりしてとても楽しかった。おかげで毎日の訓練にも耐えられたし、能力のコントロールも取り戻せた。だから彼が外宇宙担当になった時は寂しくて『またあの頃に戻ってしまうの?』って考えた。でも・・・でもね、『ダメになりそうだった私がここまでできたのは彼のおかげじゃない? このまま甘えっぱなしでいいの?これからは私にできることで彼を助けなきゃ』って考えなおしたの」
話し終えた所で振り返り、こう続けた。
「実はもう1つ、貴方に謝らなければいけない事があるの」
「え?」
ケネスは机の引き出しから小さなアルバム・パッドを取り出し、不思議そうに見ているアルマイトに手渡した。
「ねぇ、覚えてる?修了式の前に皆で行ったピクニック」
「勿論、楽しかったな・・・あの時のホロ撮ってたのか」
パッドのスイッチを押すとまだ幼さの残るアルマイトやイムール、イリメンとインガのホログラムが現れた。それを1つずつ眺める毎に思い出が鮮明になっていく、ラインダンスを踊る4人、飲み過ぎて目を廻しているイムール・・・
「そうそう、この後車まで運ぶのが大変だったんだ・・・これは」
ふと、スイッチを押す手が停まった。誰が撮ったのだろう、アルマイトとケネスが赤い顔で手をつなぎ、その周りをイムールとイリメン、インガが何かはやし立てるような仕種をしている・・・その瞬間、アルマイトの頭の中で何かが外れたような感じがした。
「そう・・・思い出した。この時あたしは・・・僕はきみにプロポーズしたんだ!」
飛び跳ねるように立ち上がってアルマイトは叫んだ。 そうさっきのホログラム、あの樹の下で自分は彼女に永遠の告白をした。でも何故・・・どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろうか?そう思った瞬間、ケネスが頭をさげた。
「ごめんなさい!」
「そうか、君が・・・」
そうか、昔1度だけ見たことがある彼女の能力の1つである“記憶の上書き”だ。“彼女”に使った時、
「これを使ったのはあの子で2人目よ」
と言っていたが、まさか自分がその1人目とは思わなかった。
「あの時の貴方の言葉、私本当に嬉しかった。でもあの時『今結婚したら、二度とバードマンとしてサポートすることができない』って、はっきり予知したの。私それだけは絶対にいやだった。だから・・・だから・・・」
「だから僕の記憶を上書きして、このことを忘れさせていた。そして思い出す為の鍵が、このホログラムだった。そうだね?」
ケネスは泣きながら、小さくうなずいた。小声で「ごめんなさい」とくりかえしていた。
「いいんだ。君には助けられっぱなしだったから、いいんだ・・・いいんだ」
アルマイトは彼女の側に寄り、優しく、でもしっかりと抱き締めた。
「改めて聞くよ。サラ、僕と結婚してくれないか?」
ケネスは何も言わず、只“彼”をしっかりと抱き締めた。
暖かいオーラが、2人を包んでいた・・・。


> 第2話へつづく

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