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| ■ 約束 |
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「疲れてるからお話したいのよ」 ぼくたちにスミレさんは話し始めた。突然現れた見ず知らずの二人になぜ?(本当は前に会った事があるけど・・) 「私、自分で言うのもなんだけど人を見る目があるのよ。あなたがたが芸能レポーターじゃないのは当たり前だけど、悪い人でもないわ」 「お二人に聞いてほしいの」 スミレさんはぼくたちを交互に見ながら言った。 「その前に、一つだけ質問してもいいかしら」 「どうぞ、どんな質問でもいいです。あっ、得意な科目とか訊かないでね。好きな食べ物とかならいいけど・・」 「ぼくはドラ焼きがすきです」 「なに言ってんだよ、ドラえもん」 「ドラえもんという名前なの?そちらの青いネコ・・・ネコさんよね」 ドラえもんがうれしそうに飛び上がった。 「ぼくの事、初対面でネコとわかる人はほとんどいません。さすがはぼくのスミレちゃん」 「そうだよね。いつもタヌキって言われてたものね」 「それは言わないでよ。のび太くん」 「眼鏡の君はのび太さんね」 ドラえもんも僕も憧れの人に名前をよんでもらって舞い上がってしまった。ドラえもんのデレデレ顔を見ると吹き出してしまったけど僕も同じ顔してるのかな。 「面白い人たちね。お二人なら安心してお話しできるわ」 スミレさんの笑顔はテレビやスクリーンで見るよりずっと素敵だった。なんというか、ぼくたちまで温かい気持ちにさせてくれる。 「質問というのはね。のび太さんとドラえもんさんに大好きな人がいるか訊きたいの」 「えっ、好きな人!はい、います。名前はしずかちゃん」 「ぼくの大好きなネコさんはミーチャン。とってもかわいいんだよ」 ぼくたちの顔を見ながらスミレさんは微笑んでいた。二人とも赤い顔してたのかも・・ でも、なぜだか、スミレさんの前だと、しずかちゃんって名前をだすのが恥ずかしくなかった。 やっぱり、普通の人とはどこかちがうのかな。 「よかった。私のお話は恋している人に聞いて欲しかったの。そのほうが私の気持ちが伝わるから・・・」 「私たちが出逢ったのはちょうどのび太さんぐらいの頃かな」 スミレさんは少し遠くを見るように言った。 「えっ、じゃあスミレさんはずっとその人のことを思い続けているんですか」 「そうよ。幼なじみというには少し年齢が上になるけどね・・」 スミレさんはぼくたちに視線を戻した。 それにしても、スミレさんにずっと思われてる人っていったい・・・? 「その人は、芸能関係者なの?」 ドラえもんも同じことを感じたみたいだった。 「違うわ。普通の人よ。そのころは小学五年生かな」 「でも、普通の小学生がスミレちゃんとどこで知り合ったの?」 「うーん、そうね。空の上かな・・・」 スミレさんはドラえもんの質問に笑顔で答えた。 とても楽しそうで、その頃のことを思い出しているんだとぼくにはわかった。 でも、空の上って・・・ 「わかった。飛行機のなかだね」 「飛行機じゃないの」 「お話を聞いてもらっているのにごめんなさいね、私と彼のことで、どうしても話せない事があるの」 「うん。二人だけの秘密ってあるものね。ぼくもしずかちゃんと二人だけの秘密・・・」 「あったっけ・・」 ぼくは少し考え込んでしまった。 「ありがとう。でもね、空の上で出会ったのは本当なのよ」 「のび太くんもこれでしずかちゃんと空でデートしたんだよね」 ドラえもんがポケットからタケコブターを取り出した。 「それ、空を飛ぶ道具なの?」 スミレさんは不思議そうにしていたけど、ぼくにはその頃スミレさんが空を飛んでいたような気がしてきた。 「でも、会ったばかりなのに私たち喧嘩を始めちゃってね。出会いは最悪だったわ」 最悪と言いながら、スミレさんは相変わらず楽しそうだった。 「同じ頃、私には親友ができたんだけど、その子に彼の悪口ばかり言ってたのよ」 「スミレちゃんが人の悪口を言うなんて・・」 ドラえもんが大げさに言った。 「彼は特別なのよ。その親友もね」 親友と言った時スミレさんはガラスの向こうに夜空を見つめていた。 「第一印象はそんなに悪かったんですか?」 「彼ね、私にあだ名をつけたの。私としてはもっとかわいらしいあだ名が良かったんだけど・・」 「あっ、ごめんなさいね。どんなあだ名か気になると思うけど、これも内緒なの」 ぼくとしてはあだ名も気になったけど、スミレさんにとんでもないあだ名をつけちゃう人ってどんな人なのかますます解らなくなってきた。 「でもね、そのあだ名すぐに大好きになったわ。それに彼だけじゃなくて他の仲間もずっと私のこと、そう呼んでたのよ」 仲間っていい響きだよね。ぼくにも冒険を共にした仲間がいるけど・・・ 「それから、私たちはいろいろな体験をしたの。それがなかったら今の私はなかったわ」 「どんな体験?」 「詳しくはお話しできないけど、楽しい事も、とても危険な事もあったのよ」 ドラえもんが心配そうに身を乗り出した。 「今も危険な事してるの?」 「残念ながら、してないわ。したくても出来ないのよ。でも、今の私のお仕事はその時の延長でもあるのよ」 「出来ないのはなぜですか?」 昔のスミレさんに出来て今のスミレさんに出来ない事っていったいなんだろう。もしかするとスミレさんってすごいお転婆だったのかもしれない。 「そうね。夢を実現するために楽しい事、危険な事を続けられなくなったの。すごく悩んだのよ。 その時、私の力になってくれたのが親友だったわ」 「彼女は私の事を私以上に理解してくれていたの」 親友のことを話す時、スミレさんはすこし寂しそうな表情をみせた。なんだか、その親友がもうこの世にいないような気がした。 「私と彼、どちらが先に自分の気持ちに気づいたと思う?」 「そりゃあ、やっぱり彼のほうでしょ」 ドラえもんは自身ありげに言った。 「残念、はずれ。私が先よ」 「その頃、彼には好きな人がいたの」 「えーっ、本当に!」 ぼくたちは一緒に声をあげた。 「彼は私が好きだってこと知らなかったのよ」 今,ぼくたちの目の前に大スターのスミレさんがいる。こうしている事じたいが夢のようなのに、そのスミレさんが先に好きになって、でも彼には他に好きな人がいて・・・・ 「いったい、スミレさんの好きな人って何者なんですか?」 ぼくは我慢できずに質問した。 「そうね。ドジで鈍感で・・・考えるより先に行動しちゃう人ね。あっ、一つくらいほめておかないと・・正義感は強いのよ」 スミレさんは彼のことを話す時、表情がすごく豊かになる。ドラマや舞台で役になりきるスミレさんもすごいけど、今ここにいるスミレさんの表情は言葉に出来ないくらい魅力的だと思う。 ぼくが言うと信用されないかもしれないけど本当なんだから・・・ 「ふつうの人よ。でもわたしにとっては特別な人」 スミレさんにとって彼がどんな存在かはわかるけど、ふつうの人って言われても・・ 「それに私も一人の人間よ」 この一言がぼくに少し彼の事を知るヒントをくれた。もしかしたら、彼はスミレさんを特別な人ではなく一人の女の子として見ていたのかもしれない。 「もしかして、もしかして。彼はスミレさんのこと芸能人って知らなかったとか・・・いや、そんなことないよね」 スミレさんは少し考えてから言った。 「今の彼は私が何者か知ってるわ。私の良き理解者でもあるの。でも、その頃の私たちは少し複雑な関係だったわ」 「それは彼に好きな人がいたってこと?」 ぼくの思った事をドラえもんがかわりに言ってくれた。 「それは仕方がないことよ。彼とその子は幼なじみなんだもの」 「私たちの複雑な関係はね、星野スミレが二人いるってことかな。どちらも私だけれど、彼が好きになってくれた私が本当の私なの。そう、彼があだ名をつけた私」 「もちろん、もう一人の私も私だけれど・・・」 ぼくは解ったような、ぜんぜん解らないような気持ちになってきた。 それを察したのか、スミレさんは申し訳なさそうに言った。 「ごめんなさい。もっと簡単にお話できるといいんだけど・・でも、芸能人である私を知らないのはある意味正しいわ。のび太さん頭いいのね」 「頭いいなんて、初めて言われました」 ぼくとしては学校の先生に言われるよりうれしかった。 「今、思うとね。彼の前では本当の私でいられたの。芸能人である私を知らないというだけじゃなくて、彼だから私は飾らない自分を見せる事ができたのよ」 「私、彼のこと大好きなのよ。ひとりの人間として、女として」 スミレさんが自分の感情を隠さずにぼくたちに話してくれるのがすごくうれしかった。なぜなら頬が少し赤くなったような気がしたもの。 「そんなに好きなら・・・熱愛宣言とか結婚宣言とかしちゃえばいいのに。そうすれば、芸能雑誌やワイドショーに嘘の記事とか書かれなくてすむのと思うけど・・」 ドラえもんの言う通りだと思った。今回、ぼくたちがここに居るのもそれがきっかけだった。 「彼はいま遠い世界に行ってるの」 スミレさんは少し寂しそうに言った。 大好きな人は日本には居ないのかな? 「外国にいるんですか?」 「そうね。私たち、世界で一番の遠距離恋愛かもしれないわね」 恋愛のことはよく解らないけど、二人が離れていると駄目になってしまうこともよくあるって、でも、二人の絆が強く気持ちが本物ならば、絆はますます強くなるらしい。 スミレさんは彼のことを心から信じているみたいだし、彼もスミレさんを信じているからこそ、遠い世界に行けたんだよね。 「彼が遠い世界に行く事になった時、私たちは素直になれたの」 「出発する前の日。彼は夕焼けのなかで自分の気持ちを打ち明けてくれたわ」 「それは私が一番聞きたかった言葉だった」 スミレさんは瞳を閉じて胸に左手をおいていた。錯覚かもしれないけど、一瞬、手のしたで何かが光ったような気がした。後から聞いたけど、ドラえもんも光をみたような気がしたらしい。 「のび太さん、本当にスミレさんとお友達なのね。今のお話、私信じるわ」 しずかちゃんはスミレさんが遠い世界にいる恋人を待っている話を信じてくれた。 最初は話そうか迷ったけれど、話して良かった。やっぱりぼくのしずかちゃん。 「私もスミレさんみたいな恋がしてみたいな」 夢をみるようなしずかちゃんはとってもかわいかった。 「でも、何年も離ればなれになるのはいやだわ。私は好きな人にはずっとそばにいてほしい」 「ぼくだってそうだよ。ぼくはどこにも行かないよ」 しずかちゃんはぼくの言った意味が解らなかったのかキョトンとしていたけど、しばらくして 「いやだわ。のび太さん」 と少し赤くなった。 これってひょっとして・・・と思ったけれど・・・ 「わたしの王子さまは今どこにいるのかしら」 と遠くを見るしずかちゃんにため息がでそうになっちゃった。 「それにね、少し前にも偶然スミレさんに会って海に行ったんだよ」 「海、素敵ね。どんなお話したの?」 ぼくはその時のいきさつを話した。 「スミレさんの宝物のロケットを見せてもらったんだ」 「スミレさんが落としたのをぼくが見つけたんだけど、ロケットの石には僕くらいの男の子が映っていてね、その子がスミレさんの待っている恋人だったんだ」 しずかちゃんはまた夢を見るように言った。 「ロマンチックね。恋人の子供のころの写真を肌身離さず持っているなんて」 「写真というより石の中に映っているいるような不思議なロケットだったけどね」 そういえば、あのロケットも遠い世界の物みたいだった。 「そういえば、のび太さん。今日のお話。誰にも話さない約束だったんでしょ。私に話して良かったの?」 しずかちゃんはぼくの顔を見つめた。ぼくのことをおしゃべりと思っているのかもしれない。 「そうだよ。誰にも話さない約束だったんだ。時が来るまではね」 「時がくるまで?」 「そう、もう一つの約束はね。時がきたらぼくが一番聞いてほしい人に話してあげることだったんだ」 ぼくが聞いてほしかったのは、ずっとしずかちゃんだったけど、スミレさんの恋人みたいに自分の気持ちを伝えることがいつかできるのかなあ? 「じゃあ、いまがその時なのね。今朝のニュースや新聞はスミレさん一色だったけど、本当に幸せそうな顔だったわね」 「うん。いままでで、最高の笑顔だよね」 でも、ぼくは知っているんだ。本当に最高の笑顔を見た人は一人だけだということを・・・・ 『約束』 完 |
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