朝日ヶ丘スミレ団

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■ サヨナラは言わないで

1.三日前(プロローグ)


バード星への留学はパーマン1号に決定した。
バードマンにとって4人の中から1人を選ぶのは難しかったが・・・

4人にはそれぞれに長所、短所がある。それは人間ならば当然の事だが、バー
ドマンの任命したパーマンたちは個性に溢れていた。そのなかで、一番平凡に
みえたのが1号だった。他の3人と比べても特別優れているわけでもないが、
バードマンは1号をリーダーに任命した。(たまたま、1番にパーマンになっ
ただけかもしれないが・・・)
正義感、使命感が強い。これは1号だけではない。
頭脳的に行動できるのは4号、物を見つけだす力は2号、行動力は3号が優れ
ていた。ところが、1号はギリギリに追いつめられないと力を発揮しないタイ
プで、それによって解決した事件も幾つかあった。
バードマンは底がみえない1号の可能性に懸けてみたくなったのだろうか?

「大変だよ、コピー。ぼくが留学することになっちやったよ」
みつ夫はうたたね寝をしていたコピーを叩き起こした。
「えーっ、出発はいつなの」
「三日後の朝だよ。どうしよう・・・」
「とにかく、おめでとう。みつ夫くん。」
「ありがとう。でも、何から始めればいいんだい?」
「ぼくにまかせなよ。持ち物リストを作らなくちゃね。」
「それじゃ、まるで一年生みたいだよ」
「似たようなものだよ。君はバード星ではピカピカの一年生なんだから」
「言われてみればそうだよな」
「とにかく、何がいるか書き出すよ・・・」
コピーは「ピカピカの一年生」と鼻歌を歌いながらノートと鉛筆を取り出した。
「みんなにも会えなくなるんだなあ・・・・」
みつ夫は三日後には地球にいない自分を想像して心細くなってきた。

「みつ夫さん。おつかいに行って来てちょうだい」
下からママがみつ夫を読んだ。
「ぼくが行こうか」
「いいよ、コピー。僕が行くよ」
「おつかいも出来なくなるんだな。なんだか、寂しくなってきたよ」
みつ夫はコピーに持ち物リストを頼むと階段を下りていった。
不安は大きかったが、自分を応援してくれる仲間のためにも、自分を選んでく
れたバードマンのためにもみつ夫は行く決心をしていた。
「三日か・・・」
「あのゲームのクリアはもうすぐだし、まだ読んでいない漫画もたくさんある
のに・・・」
その時、心の奥に隠れていた宝物がだんだん大きくなってきたのをみつ夫は気
付いていた。


2.二日前


コピーを買い物に行かせ、みつ夫が留学の準備をしていると、ベランダからバ
ードマンが入ってきた。
「一号、君に渡すものがある。」
そう言って、バードマンは緑の小箱を差し出した。
「これ、開けていいの」
「ああ、君のものだ」
中には不思議な光沢の金属が入っていた。チェーンと思われる部分はプラチナ
のようだが、銀色の中に様々な色が角度によってあらわれる見た事もない色合
いだった。そして、雨滴形の水晶のような透明な石が付いていた。
「それは、バード星でも大変貴重なものだ。地球で言うロケットだが、石の部
分に写真のように画像を取り込める。一度取り込んだ画像は永久にそのままだ。
わたしの給料3か月分より高価なんだから・・・」
「なんで、そんな高価なものをぼくに」
「いやー、それは地球でいうところの、その、なんだ、自分にとって一番大切
な人にあげるものなんだ。恋人でも、家族でもだれでもいいんだが・・・・・
バード星では、結婚相手にあげるのがほとんどかな」
「そんな大事なものいらないよ。バードマンが好きな人にあげればいいだろ」
「私には、まだ必要ないんでね。それより、これから何年も地球を離れる君に
こそ必要かと思ったんだよ」
「そんな事、言ったって、ぼくが留学するのを、知ってるのは、パーマン仲間
だけだよ。ブービーやパーやんにあげるのも、何か変だよ」
「使い方は君の自由だ。とにかく、君の画像を取り込むぞ。こっち向いて笑っ
て」
バードマンが石の部分をみつ夫の方にむけると、ロケットが青く光り出した。
「いい顔するんだぞ。一度とりこんだら、二度と修正はきかないからな」
ミツ夫は言われるまま、作り笑いをしたが
「だめだ、だめだ、そんなんじゃ。なにか、楽しい事を考えるんだ」
「急に言われても、思い付かないよ」
「そうだ。3号のこと何かどうだ。君と3号の話は2号や4号から聞いている
がとても楽しそうじゃないか」
バードマンがさり気なく言った。
「パー子・・・」
みつ夫が、パー子を思い浮かべた時、青いフラッシュが光った。
「いやー、いい顔がとれたぞ。見てみろ、一号」
そう言って、バードマンが差し出したロケットにみつ夫がいた。
<パー子のやつ、僕の前だと、本当にいろんな表情を見せてくれるもんな。お
こった時、うれしい時、悲しい時。なんで、あんなに自分がだせるんだろう>
みつ夫はパー子と聞いて、まず、思い浮かんだのがそれだった。
パー子の事を思った時、自分が素直な気持ちになるのを感じたが、それを石は
見逃さなかったようだ。
「じゃあ、1号、あさっての朝、迎えにくるからな。ちゃんと、準備しておく
んだぞ」
バードマンはそう言うと出ていってしまった。

同じ頃、あるビルの屋上に2号と4号がいた。
「あさってには、1号はん、バード星にいってしまうんやなあ。ブービーはん
は一番付き合いが長いから特にさみしいやろ」
「ウィー、ウィー,ウキー」
「なんやて、もちろんさみしいけど、一番さみしいのはパー子はんやて。そや
なあ、1号はんとパー子はん、いつも喧嘩ばかりしてはったけど、本当はお互
い好き合うとるのが、わいらからはようわかりよったからなあ」
2人は3号がパーマンやめると言ったときや、ペッタリアルファ事件など、1
号と3号のエピソードを思い付くまま挙げていたがきりがなかった。
「なんや、ほんまにぎょうさんあるなあ。はよう、素直になればええのに」  
「アキャ、ウキャ、ウイイ」
「あきまへん。それは2人の問題や。わいらが間にはいってはあきまへんのや。
1号はんも、男や。必ず、自分からパー子はんに自分の気持ちを伝えるはずや」
「1号はんはバードマンはんがリーダーとして最初に任命したパーマンでっせ。
だいじょうぶやて」
この話題とは、あまり、関係なさそうだが4号が自信ありげに言った。
「ウイー、ウイー、ウイー」
「えっ、パーやんはその後、どうやて。いやー、そればっかりは商売のように
うまくいきまへんわ。まっ、ぼちぼちいきますよって、応援してや」
「ウイー、ウキー」
「明日のパトロール、わいも来ますよって、久しぶりに4人でやりましょ。ほ
な、また明日。ブービーはん」

「ただいま、みつ夫くん」
コピーが買い物から帰ってきた。
「途中で、みち子さんに会ったよ」
コピーが少し自慢げに言った。
「みっちゃん、何か言ってた?さみしくなるねとか」
「言うわけないだろ。君が留学するのはパパや、ママも知らないんだから」
みつ夫は少し悲しくなった。パーマンの正体と同じで、留学のことも誰にも言
えないのだ。
「元気出しなよ。パーマン仲間や僕は本当にさびしいんだから」
「あれ、その緑の箱、もしかしてバードマン来てたの」
「この箱のこと知ってるのか。バードマンから、これ貰っちゃったよ」
 みつ夫はロケットを見せた。
「へえっ、よくとれてるね。でも、これすごく高いんだよ。この石なんか地球
で言うダイヤモンドみたいなものなんだから。あのケチのバードマンがねえ」
コピーは信じられないと言う口振りだった。
「でも、出来の悪い子ほどかわいいって言うからね」
「なんだと」
「あっはは、ごめん、ごめん。でも、そのロケット誰にあげるの。みち子さん
にあげるの?」
「それなんだよ。一番大切な人にあげるそうだけど、だれにあげればいいのか
わからないよ」
みつ夫はロケットをしまいながら言った。
「みつ夫くん。留学が決まってから、きみが何を考えていたか。僕は知ってる
よ。素直になりなよ。君の中では答えは出てるはずだろ」
みつ夫は留学が決まってから、頭から<パー子に会えなくなる>ことが離れな
かった。もちろん、みち子に会えなくなるのもさみしかったが、パー子は特別
だった。
「ぼくはみっちゃんが好きなはずなのに、なぜ、パー子のことが頭から離れな
いんだろう」
みつ夫はコピーに助けを求めた。
「それは、僕が言う事じゃないよ。でも、会えなくなると分かって、君の本当
の気持ちが前に出てきたんだと思うな」
「みっちゃんは僕の幼なじみで初恋の人だし、いまでも大好きだよ」
「その気持ちは間違っていないよ。僕が君のコピーになったとき、君の心はみ
ち子さんで一杯だったもんな。パー子さんのパの字もなかったよ」
「当たり前だ。その頃、僕はパー子にあっていないし、パー子もまだパーマン
じゃないよ」
「あっ、そうか。でもね、パー子さんに出会ってから、君の心の一番大切なと
ころでパー子さんが少しずつ大きくなってきたんだと思うよ」
「そうかなあ」
「いいかい。君がみち子さんを好きな気持ちは心の浅いところにあるんだ。こ
の気持ちは本物だよ。でも、パー子さんは心の奥の一番大切なところにいるか
ら、ふだんはみち子さんに隠れて表に出てこないんだよ」
「コピーが言うと、信用できないなあ」
「君がピンチになったり,本当にうれしい時、悲しい時、君が思い浮かべるの
はだれだい。そういう時に本当に大切な人がでてくるはずだよ」
言われてみれば、確かにそうだった。みつ夫の脳裏にパー子の色々な表情が浮
かんできた。
「じゃあ、スミレちゃんは?」
「それは、みち子さんと同じじゃないかなあ。アイドルへのあこがれだよね。
でも、素顔のスミレちゃんを知ったら・・・あるわけないか」
「さすが、僕のコピー。いい事言うね」
「ぼくはコピーだから、少し距離をおいてみつ夫くんを見れるんだと思うよ」
「僕はパー子のこと・・・・」
みつ夫は自分の気持ちに素直になれそうだった。
「パー子さんは、いつも君のそばにいただろ。それが、留学で何年も合えなく
なる。それで、君の中のパー子さんが前に出てきたんだよ。パー子さんは君の
未来に必要な人だよ」
「この、ロケット。必ずパー子に渡すよ」
「がんばれ、みつ夫君」
コピーはミツ夫の背中を思いきりたたいた。
この時、2人はパー子がロケットを受け取ってくれる事を疑っていなかった。
そこまで頭が回らなかったのだが、それを疑う必要もなかった。
パー子はみつ夫が大切な人であることを、ずっと以前から気付いていた。彼女
の場合、ミチ子のような存在がないため、心の奥の一番大切なところにいるみ
つ夫に素直になれたのだ。


3.前日


西の空は真っ赤な夕焼けだった。
「明日はいい天気だな」
旅立ちの前日、1号、2号、4号の3人が別れを惜しんでいた。当番は1号と
2号だったのだが、4号が「1号はんとのパトロールも、暫く出来んようにな
るさかい、今日は一緒にやりましょ」と言う事で、3人でパトロールしてきた
のだった。
「パー子はんも誘ったんやけど、なんやら、用があって、来られんそうや。1
号はんによろしく言うとったで」
「1号はんがいなくなっても、わいらが頑張るさかい、安心して行ってきてや」
「ウィ、ウィ」
3人が、いつもの場所で「明日の朝、みつ夫の家で」と別れた後も、1号は家
には帰らずパトロールを続けていた。
「パー子のやつ、留学前最後のパトロールなのに、なぜ来なかったんだろう」
1号はそうつぶやきながら、ポケットのロケットを服の上から確かめた。パー
子をバッジで呼び出そうかと手をかけたとき、1号は夕焼けが自分を呼んでい
るような気がした。
「あの場所へ行ってみよう」
1号は時速119キロで夕焼けに向かって飛んでいった。

3号は夕焼けのなかで、夕日を見ていた。そこは、水平線がまっすぐに伸びた、
波もおだやかなお気に入りの場所だった。
「私の宝物は・・・・」ってここで言っちゃったのよね。夕日に負けないぐら
い赤くなりながら3号は思い出していた。自分の気持ちを1号にぶつけたのだ
が、その返事はもらっていなかった。あれからも、変わりなく過ごしてきた二
人だったが、それが3号にはかえってうれしかった。でも、明日の朝、1号は
バード星へと留学してしまう。
「みつ夫さん、私の事どう思っているんだろう」
3号はその答えがほしかったし、正体を隠したままでいいのか、1号の留学が
決まってから悩んでいた。
相談にのった、スミレコピーはスミレの本当の気持ちを代弁してくれるのだが
3号として決心がつかないままだった。
「もし、ここに、夕日が沈むまでにみつ夫さんが来てくれたなら・・・・」
3号は1号を待っていた。
夕日はまだ水平線の少し上にあり、夕焼けはますます、赤くなっていた。

「パー子、こんなところで何してるんだい」
後ろから待っている人の声がした。
「1号、来てくれたのね。よかった」
目頭があつくなるのをこらえて笑顔で3号は振り向いた。夕日をバックに振り
向いた3号に、1号は自分の鼓動を感じた。いつもの、お転婆パー子ではなく、
一人の女の子がそこにいたのだ。
「ぼくがここに来るとわかってたみたいだね。でも、たまたま、通りかかった
だけだよ」
1号はしまったと思いながらも強がってしまったが、
「来てくれるかどうか、夕日と賭けをしていたのよ」
3号は夕日を見ながら言った。
「ねえ、1号。この場所覚えてる」
「う、うん・・・覚えてるよ」
「あなたは、あしたバード星に留学してしまうでしょ。今日、どうしても、言
わなければいけない事があるの」
「ぼくも、きみに言いたい事があるんだけど、なんだい、言いたい事って」
「1号から言いなさいよ。男でしょ」
3号はいつもの調子で言った。
いつもならここで、「男も女も関係ないだろ」と喧嘩が始まるのだが、今日の
1号は少し違った。
「パー子、ぼくは今まで何度も君に助けられたよね。ありがとう」
「何,言ってるのよ。ブービーやパーやんも、何度もあなたを助けてるわよ」
「そんな事分かってるよ。2人にはさっきあいさつしたばかりさ。そういえば、
なぜ、パトロールに来なかったんだい。パーやんが連絡しただろ」1号は少し
ムッとして言った。
「今日は特別なのよ。それより、私だってあなたに助けられた事あるわよ。仲
間だもの、助け合うのは当たり前でしょ」
「そうだけど、君はミツ夫としての僕を助けてくれているんだ。パパンダー事
件を覚えてるだろ」
「そうね。私がいなかったら、どうなっていたか。本当に何も考えていないん
だから」
3号は左腕を押さえながら言った
「あの時、きみは落下していく僕を助けただけじゃないんだ」
「他にも、何かあったかしら。そういえば、あなた、パーマンやめるって言っ
てたわよね」
「君の声が聞こえたんだ」
「私の声?」
「君が僕を必要としている。そして、みんなが僕を待ってくれてる。あの時、
君の声がそれを伝えてくれた。君が僕にパー着させたんだ」
3号は自分の声が1号に届いていたのを、不思議には思わなかった。
「そうね、1号は必ず来てくれる。私、信じてたんだから」
「今になっても、パーマンを続けてる理由は自分でもわからない。でも、今、
僕がパーマンなのは君のおかげなんだ。ありがとう」
1号は3号の手を握り締めて言った。
「それで、君に言いたい事なんだけど・・・・」
1号は昨日のコピーの励ましを思い出して勇気をだした。
「パーマン1号としてじゃなく、須羽みつ夫として聞いてほしい」
1号はマスクを外すと、照れ隠しに大声で言った。
「僕には君が必要なんだ。君の顔を僕は知らないけれど、どこの誰でも構わな
い。僕が好きなのはパー子、君なんだ」
3号が一番聞きたかった言葉。それをミツ夫が勇気を出して言ってくれた。3
号は<私も勇気を出さなきゃ>と思ったが、涙で声が出なかった。
ミツ夫は今、自分が言ってしまったことに、時速119キロで逃げ出したかっ
たが、もう一つ大事な事を言わなければいけなかった。
「パー子、これを持っていてほしい」
そう言って、ミツ夫はロケットを差し出した。
 (イラスト:カオスさん)
「バード星では、自分の一番大切な人にこれをプレゼントするんだって。パー
子、これを受け取ってほしい」
みつ夫は3号の顔をまともに見られなかった。下を向いたまま、ギュッと目を
閉じてしまった。
ロケットの石は夕日に照らされ、ルビーなど足下に及ばないほど輝いていた。
みつ夫はロケットが自分の手を離れるのを感じた。目を開けると、後ろを向い
た3号がロケットを身に付けるところだった。
「ありがとう、みつ夫さん。あなたはマスクをかぶっていても須羽みつ夫なの、
そして、私はマスクを外してもパー子なの。それを、みつ夫さんに分かって欲
しかった」
そう言って、3号はマスクを外した。
「パ、パー子」
 (イラスト:カラスバッジさん)
驚くみつ夫にスミレはゆっくりと振り向いた。
夕日は赤く燃え、少し強くなった風でスミレの髪がなびいていた。
みつ夫を見つめるその瞳は、強くそして優しかった。
「私、あなたが帰ってくるのを待ってるわ」スミレはロケットを握りしめて言
った。
 (イラスト:カオスさん)
 (イラスト:石神さん)


4.旅立ちの日


みつ夫はコピーロボットのボタンをゆっくりと押した。
今日からコピーは何年もみつ夫の代わりをつとめる事になる。
「おはようみつ夫くん。いよいよ出発だね。あれ、まだ6時だよ。よく眠れた?」
コピーがあくびをしながら言った。
「あまり眠れなかったよ」
「顔でも洗ってすっきりしておいでよ」
「そうだね。顔を洗ってくるよ」
みつ夫は階段を降りながら、昨日のことを思い出していた。
自分の気持ちをパー子に伝えた事、パー子の正体が星野スミレだった事、そし
て、スミレが自分を待っていてくれる事。
パー子の素顔を見たときの驚きは今も残っていた。思い出すと心臓が飛び出す
ほど、ドキドキするのがわかる。でも、肩を並べて二人で話すうちに、パー子
の「あなたはマスクをかぶっていても須羽みつ夫なの、そして、私はマスクを
外してもパー子なの。それを、みつ夫さんに分かって欲しかった」と言う言葉
が何を言いたいのか痛い程よく分かった。
<ありのままの自分を見てほしい、受けとめてほしい>パー子がみつ夫に望ん
だのは、とてもシンプルなことだった。
二人には話したい事、訊きたい事が山ほどあったが、時間はあっという間に過
ぎてしまい、高く昇った明るい月が二人を優しく照らしていた。
別れる間際、パー子が訊いた。
「みつ夫さん。ケンタウルス座のプロキシマってどの星?」
「ええっと、この前コピーに探し方を教えてもらったんだ。天頂から・・・」
「あっ、あの明るい星だよ。確か地球から4.3光年離れているんだ」
「そう、あの星ね・・・」
パー子はしばらく黙って夜空を見つめていたが、そのときのパー子の表情がみ
つ夫には忘れられなかった。これから何年もパー子が夜空を見上げているのを
思うと胸が苦しくなった。でも、立派なパーマンになって帰ってくるのをパー
子も待ってくれている。その期待には絶対に応えたかった。

「あら、みつ夫さん、今日は早いのね」ママはいつもと同じように言った。
「今日は遠足だったっけ?」笑いながらパパはタバコの煙で輪を作った。
「いやだな。きっと今日大雪がふるわ」ガン子が顔を拭きながら軽くみつ夫の
腕を叩いた。
何気ない、日常だったが、みつ夫にはかけがえのないものだった。
「すこし、散歩してくるよ」
「今日は、どうしたの?」
ママは少し心配そうだったが、ガン子の「おにいさん、きのう、遅くまでお部
屋でパーマンとおしゃべりしていたのよ。トイレに起きたとき声がきこえたも
ん。」の一言で「なんですって、何時まで起きてたの?」といつもの調子に戻
ってしまった。
「すぐ戻るよ」
みつ夫はドアを開けた。自分の育った町をゆっくり歩いてみたかったのだ。

スミレとコピーは一緒に朝食をとっていた。
「いよいよ、今日ね」
コピーがスミレの顔を見ながら言った。
「そうね・・・・」
「くすっ。あっ、ごめんなさい、スミレちゃん」
「何がおかしいのよ」スミレはコピーをにらんで言った。
「ごめんなさい。ただ、昨日の夜のあなたとあまりに違うから・・・」
「私、あなたが落ち込んで帰ってくるかもしれないと思って起きて待っていた
の。ところが、スミレちゃんたら、今までで一番の笑顔で帰ってきたのよね。
それから私、ずっとみつ夫さんの話聞かされたわ」
「当たり前よ。みつ夫さん、パー子としての私を好きって言ってくれたのよ」
スミレは服の下のロケットを確かめながら言った。
「でもね。せっかく、お互い素直になれたのに、何年も会えなくなってしまう
のよ。それに、みつ夫さん、あの通りのドジでしょ。心配で、心配で・・・・」
「大丈夫よ、スミレちゃん。みつ夫さん、確かにドジだけど、絶体絶命のピン
チを今まで何度もくぐり抜けてきたじゃない」
「そうだけど、ギリギリの状態にならないと力を発揮しないのよね。パパンダ
ー事件の時もそうだったけど、いつも、あの調子じゃ私がそばにいないと・・・」
「そうね。確かにみつ夫さんにはあなたが必要ね。あなたにもみつ夫さんが必
要よ。でも、大丈夫。二人の絆はとても強いわ。あなたが守ってあげたいよう
に、みつ夫さんもあなたを守りたいと思ってる。その気持ちがみつ夫さんを守
ってくれるわ」
コピーの言葉はスミレには魔法の薬のようだった。
「ありがとう、コピー。信じて待っているのが今の私にできる事よね」
スミレの顔に笑顔が戻った。会えなくなるのは辛い。見送りの時、涙が止まら
なくなるのが今から分かる。でも、スミレは心から「行ってらっしゃい」と言
える気がした。

みつ夫は坂を降りながら考えていた。
「この坂でバードマンに出会ったんだよな。でも、なぜ僕がパーマンになれた
んだろう」
自分がパーマンを続けてこれたのは、パー子の存在が大きいのは理解できるが、
バードマンが自分を選んだのはなぜか。あの黄色の風船のような物を膨らまし
たのは何のためだったのか。バードマンに訊いても、いつもはぐらかされてし
まうが、今回の留学には、その答えも用意されている事だろう。
バードマンの言う通り、それは偶然かもしれないが、自分を任命してくれた事
には感謝していた。それは他のパーマン仲間も一緒だろう。パーマンとして自
分が経験したことは確実にみつ夫を成長させていたし、自分ではわからなくて
も、パーマン仲間やコピーも1号の成長を認めていた。(ドジなのは変わらな
いが・・・)
「バードマンにもお礼を言わなくちゃ」みつ夫がそう思った時
「あら、みつ夫さん、珍しいわね。朝のお散歩?」
犬を連れたミチ子が声をかけてきた。
「おはよう、みっちゃん。いつもここを散歩してるの」
「そうね。あまり、この道は利用しないのよ。坂が急で疲れちゃうでしょ」
「でも、今日は、この子がどうしてもこの道がいいって引っ張って来たのよ」
犬の頭をなぜながらみち子が言った。
「きっと、僕に会いたかったんだね」
「そんな事ないわよ。この子、わたしに性格そっくりなんだから」
「ヘコー」
<相変わらず、みっちゃんはきついや>みつ夫は苦笑したが、今日が聞き納め
かもしれない。みつ夫が帰ってきた時、みち子はどうしているのだろう。コピ
ーがいるためみつ夫との関係は続いていくだろうが、何年経っても友達でいて
ほしかった。
「じゃ、みつ夫さん、学校でね。」みち子は坂を戻っていった。
「みっちゃん」
みつ夫がボーと後ろ姿を見送っていると、上空から声が聞こえた。
「みつ夫はん。何してますねん。はよーせんと、遅れまっせ」
「ウッキー」2号と4号だった。
「今、何時?」
「約束の時間まで、あと、15分でっせ」
「えーっ。まだ朝ごはん食べてないんだよ。パーやん乗せてって」

「きみがなかなか帰ってこないから、僕が朝ごはん食べておいたよ」
みつ夫の部屋では、コピーが今日の授業の用意をしていた。
「昨日の夜もママの料理を食べ損なったのに。もう、何年もお預けだよ・・・」
昨日の夜は遅かったため、カップラーメンですませたみつ夫は朝ごはんを楽し
みにしていたのだが・・・
「そんな事だと思った。おにぎり作ってきてあげたわよ」
ベランダから3号がまんまるのドッジボール大の固まりを投げてよこした。
「おはよう、パー子。これ、おにぎり?」
「それが、おにぎりでっか。豪快やなあ」
「ウイ、ウイ」
見た目はまるで地球儀だが、おにぎりと聞いて空腹のみつ夫はかぶりつくと、
後は無言でガツガツとたいらげてしまった。
「どや、地球儀のお味は?」
4号がちゃかしても黙って見ていた3号はみつ夫の口元に付いたご飯粒を取り
ながらみつ夫の感想を待っていた。
少し塩が利き過ぎていたが空腹だった事もあり、みつ夫はおいしく食べる事が
できた。
「うまかったよ。パー子にしては上出来だね」
「みつ夫くん、パー子さんが作ったものを初めておいしいって言ったよ」
「ほんまや、大丈夫でっか。みつ夫はん」
「いや、本当においしかったよ。みんなにも分ければ良かったかな」
「だめよ、今日のは愛情おにぎりなんだから・・・・」
「なんやて、愛情おにぎりやて」
「ウキイ、ウキキイ」
「いいな、いいな、みつ夫くん」
3人にこづかれながらパー子に助けを求めようとしたとき、バードマンがベラ
ンダから入ってきた。
「みんなお揃いだな。1号、心残りはないか」
「はい・・・ではなくて、一杯心残りはあるけど行きます」
「そうか。では、円盤のところまでテレポートする。コピー、後は頼んだぞ」
「まかせてよ。みつ夫くん頑張ってきてよね。僕も須羽みつ夫としてがんばる
よ。」
みつ夫とコピーはかたい握手をかわした。
「じゃあ、いくぞ。忘れ物はないか」
次の瞬間、コピーの前から5人の姿が消えた。
一人残されたコピーが空を見上げると青空に楕円形の白い雲がポッカリと浮い
ていた。
「みつ夫くん、行ってらっしゃい」雲に向かって叫んだコピーの声に下からマ
マの声が聞こえた。
「何、言ってるの、みつ夫さん!行ってきますでしょ」
「早くしないと遅れるわよ」
「はーい、すぐ行くよ」コピーは階段を駆け降りていった。

雲の上は白い野球場のようで、所々に、丘のように盛り上がった部分があった。
そのなかほどに円盤が2台止まっていたが、5人が現れると雲がフワフワと風
に舞い上がった。
「1号、君の円盤は左だ。忘れないうちに荷物を載せておけよ」
「そや、1号はん、これはうちの寺のお守りや、よう効きまっせ」
「サンキュー、パーやん」
「アキャ、モキヤ」2号がマスクの中からバナナを取り出した。
「これをぼくに。ありがとう」
「ウキキー」
「1号がいなくなってからの事だが・・・・」
バードマンは2号と4号に話しかけながら、チラッと3号に目配せをした。
「ちよっとこっちへ」3号は1号を丘の反対側へ連れていった。
「パー子、僕・・・・」
1号の言葉をさえぎった3号だったが、涙は止まらず、左手はロケットを握り
しめていた。
「サヨナラは言わないで。私、あなたを信じてる」
「立派なパーマンになって帰ってくるのを何年でも待ってる・・・」
「ありがとう、パー子。必ず帰ってくるよ・・・・」
一瞬のことだった。温かいものが1号の唇にふれ、マスクが軽く音を立てた。
風に遊ぶ細切れの雲は花びらのように二人の周りを舞っていた。

「おーい。1号、3号。どこにいるんだー。出発するぞ」
「何してんねん。時間やで」
「ウキャ、ウキー」
真っ赤になった二人は仲間のもとへ急いだ。
「1号、行こうか」
「はい」
「みんな、ありがとう。サヨナラは言わないよ」
1号は円盤に乗り込んだ。
「僕らの分も頑張ってや」
「ウキー、ウキー」
「体に気をつけてね。1号」
「ドジなんだからちゃんと考えて・・・・・・・・」
もらい泣きしていたバードマンの円盤がゆっくりと浮かび上がった。
そして、1号の円盤がそれに続くと、2台は並んで星の世界に向かって旅立っ
ていった。


『サヨナラは言わないで』 完

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