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★ めぐりゆく季節


「おつかれ、ブービーはん」
「ウィ、ウィ」
2号と4号は一仕事終えてビルの屋上で休憩していた。
「ほんまに、今日は疲れましたわ。でも、わいらもいいコンビでんな。ブービーはんがあ そこで、どうしたいかバッジの連絡なしでもよく分かりましたで」
「ウィ、ウィ、ウキキィ」
「そやなあ、パー子はんがいてくれはったら、もっと早く解決できたでんなあ・・・」
「ウキー、ウキキー、キイ」
「すんまへん、これは言わない約束やったでんな」
「でも、早いもんでんな。1号はんが留学して3年、パー子はんが勇退してもう半年も経 つんやなあ・・・」
ここ半年の間、パーマン活動は2号と4号の二人で頑張って来たのだが、大きな事件にな ると、さすがに二人では厳しいものがあった。
しかし、1号と3号のためにも弱音を吐かない二人だった。

「パーやん、そっちお願いね。ブービーは裏口に回って」
「よっしゃ、任せとき。今日こそ捕まえてやるさかい」
「ウキー」
三人はここ数カ月追いかけてきた連続窃盗団を追いつめたところだった。
パーやんの計画でうまく誘い出し、アジトを2号が見つけてきたのだ。
「さあ、行くわよ。みんな」
パー子の合図で三人は突入した。

「いやー、相変わらずパー子はんはすごいでんな。悪人ども何も出来んよったで」
窃盗団を警察に引き渡した後パーやんが言った。
「何言ってるのよ。パーやんもブービーもすごかったわよ」
「ウッキキー」
「でも何より、チームワークの勝利でんな」
「そうね。1号にも見せてあげたかったわ」
「1号はんが留学して、もうすぐ2年半経つんやなあ」
「そうね、1号どうしているかしら。きっと、毎日ヘコーって言ってるわよ」
そう言って、3号はチラッと空を見上げたが、あいにくの曇り空で星は見えなかった。
「ごめんなさい。私、今日用があるから、これで失礼するわ。おやすみなさい」
「そうやな。わいらもパトロールがてら帰りましょか。ブービーはん」
「ウィ、ウィ」
3号は二人と別れて東の空へ飛んでいった。
「パー子はん、相変わらず元気でんなあ」
「1号はんが留学して、最初は心配しよったけど取り越し苦労でしたわ」
「ウキイ、キイ、キイ」
「そやそや、腹へったでラーメンでも食べてから行きましょか」
「ウキー」
2号と4号は上空から屋台を見つけると一目散だった。

3号にとってパーマン活動は1号と切っても切れないものだった。
時々、どうしようもなく寂しくなることがあったが、そんな時はロケットのみつ夫が3号 を励ましてくれた。気持ちが落ち込むと素肌に触れたロケットがあたたかく心を癒してく れた。それはパーマンとしてだけでなく、女優として、歌手として、一人の人間としての スミレにも同じだった。
「みつ夫さん。私、頑張ってるから・・・」
3号はロケットを確かめながらベランダに降り立った。
「ただいま」
マスクを外しながらスミレはコピーに声をかけた。
「おかえりなさい、スミレちゃん。社長さんの所に行ってきたわよ」
「ありがとう。それで、何の話だったの?」
今日、スミレはプロダクションの社長から大事な話があると、呼び出しを受けた。できれ ば、自分で行きたかったが事件は待ってはくれないのだ。
「えーっ、本当なの!」
おでこタッチをしたスミレは驚いた。
英国の有名なミュージカルプロデューサーが東洋人の少女を主人公にした次回作の主役 としてスミレにオファーしてきたと言うのだ。そのプロデューサーの作品をスミレは何度 もみた事があったが、伝統の中にモダンを取り入れたすばらしいものだった。しかも、次 回作のレッスンだけでなく演劇や歌の勉強をしたいなら学校に通うのも可能だと言う事 だった。
期間は三年から三年半かかると言う事で、英国だけでなくヨーロッパ、アジアツアーも予 定されており、ぜひ、スミレに渡英してほしいとのことだった。
「すごいじゃない、スミレちゃん。前からこの人の舞台に立ちたいって言ってたわよね。 それに、本場で勉強もできるのよ」
「そうね。こんなチャンスは2度とないかもしれないわね」
スミレは以前米国でのミュージカルの勉強を断念したことがあったが、今回は自分の中に はっきりした気持ちがあった。それは女優として、歌手としてそしてパーマンとして経験 を積んできた結果だった。
<ぜひ、チャレンジしてみたい>
スミレの気持ちはコピーにもよくわかった。
「スミレちゃんおやりなさいよ。あなたならできるわ」
コピーは心からスミレを応援してくれていた。
「チャレンジしたいわ。でも・・・・・」
「あなたがためらう気持ちはわかるわ。パーマンとしてのあなたの事よね」
英国に行くということはパーマン活動が出来なくなる。それはパーマン3号としてのスミ レが終わる事を意味していた。
「バードマンは私のパーマンとしての記憶を消してしまうわ。みつ夫さんを待っている、 今、この時間だって私にはとても大切なのに・・・・」
スミレの瞳から大粒の涙がこぼれた。

(イラスト:カオスさん)
「それに、コピー。あなたとも別れなくちゃいけないのよ。あなたは私の親友よ。あなた の事を忘れるなんて私にはできないわ・・・・」
スミレはソファーに座り込むと声をだして泣き出した。
しばらくして、見守っていたコピーが口を開いた。
「スミレちゃん、みつ夫さんは誰よりもあなたを理解してくれてる人よ。もし、ここにみ つ夫さんがいたなら、きっと私と同じ事を言うわ。チャレンジしろって・・・自分の夢を 大切にしろって・・・」
「それに、私も親友のあなたに夢をあきらめてほしくないの。こんどの英国での経験はあ なたにとってとても大きな糧になるはずよ。女優として、歌手としてあなたは行かなけれ ばならないの」
自身も女優であり、歌手であるコピーには渡英がこれからのスミレにとってどれだけ大事 な事か理解できた。
「私はあなたの記憶から消えてもかまわないわ・・・」
コピーも涙声で言った。

(イラスト:カオスさん)
スミレのなかで、みつ夫の事、コピーの事そして今までのパーマンとしての自分が渦を巻 いていた。コピーの言う事はよくわかる。コピーは自分の気持ちを代弁してくれているだ けだった。しかし、「消えてもかまわない」と言うコピーの言葉はスミレではなくコピー 自身の言葉だった。
「私はあなたのコピーよ。あなたの夢は私の夢」
コピーはスミレをやさしく抱きしめた。

次の日、3号はパトロールの後で2号と4号に問いかけた。
「もしも、もしもよ。私がパーマンやめるって言ったらどう思う?」
「えーっ、なにを唐突に言わはるんや」
「ウッキーキー」
「たとえばよ、たとえば・・・」
「そやなあ、いつかはパーマンやめる時がくると、わいも考えた事がありますのや。それ は人生のターニングポイントの時やないかなあ」
「ターニングポイント?」
「パーマンをやめなければできない、ほんまに大事な事に出会ったら迷うやろなあ。それ がそうや」
4号は腕組みしながら言った。
「ウキー、アキャ、ウキー」
「そや、わいも本当にそれがこれからの自分に必要なものやったら、パーマンやめるかも しれまへんな。パーマンも一人の人間や、夢は大切にしなあきまへん」
「でもな、パー子はん。ただ一つ言えるのは、やめたくてやめるんやないって事や・・・」
「わいら四人はパーマンに強い使命感をもってますやろ。それが妨げにならんように残り のメンバーが助けないかんと思うんや」
「わいとブービーはんの二人になっても大丈夫や。どうしても、あかんときはバードマン はんに5号のことお願いすることになるかもしれへんけどな・・・」
3号は仲間の友情がうれしかった。1号が何度もパーマンやめると言いながら結局やめな かったのは四人の友情も大きかったのがよくわかった。正義感だけで続けられるほどパー マン活動は甘くはないのだ。
「ありがとう、パーやん、ブービー」
3号は二人の手を握りしめると家路を急いだ。
「たとえばと言ってはったけどパー子はん、夢を見つけたんやな・・・。応援しまっせ」
「ウィ、ウィ」
その時4号は大事な事を思い出した。
「でも、パーマンとしての記憶を消されてしまうのは・・・・」
4号と2号は顔を見合わせた。

スミレの渡英は正式に決定し、明日記者会見が予定されていた。まだ、決心がついていな いスミレに代わりコピーがプロダクションの所長とマネージャーに意志を伝えたのだ。
「スミレちゃん、もう後戻りはできないわ。明日の会見はあなたが出席しなくちゃだめ よ」
コピーは2号と4号に会って来たスミレの返事を待った。
「夢を大切にって言ってくれたの。でも、はっきりパーマンやめるとは言えなかった し・・」
スミレは2号と4号の返答をコピーに話した。
「大丈夫、スミレちゃんの気持ちは伝わっているわ。きっと、応援してくれてるわよ」
「ありがとう、コピー。私、今日、何度もありがとうと言ってるわ・・・」
スミレはコピーの両手を握りしめた。
「私、英国に行くわ。みんなが私を応援してくれてるんだもの。頑張らなくちゃ」
「そうよ、スミレちゃん」
スミレの決断がコピーには自分の事の様にうれしかった。

「バードマンに私の決心を話さなくちゃ!」
スミレはバッジを取り出すとバードマンを呼び出した。
「やあ、3号、久しぶり。元気にやっとるか?」
いつもの調子のバードマンだったが、スミレは少し緊張して言った。
「大切な話があります。今、時間ありますか?」
「ん、わかった。そっちに行くから少し待っていてくれ」
バードマンがここに来るまで、少し時間がかかりそうだった。
「スミレちゃん、いよいよ、お別れね。私、バードマンと行かなくちゃいけないわ」
コピーはスミレの両手を強く握りしめた。
「私、あなたのコピーになれて、本当に楽しかった。コピーロボットの中で一番の幸せ者 よ。」
「私こそ、幸せ者よ。本当の友達がいなかった私に初めてできた親友があなたよ。あなた のおかげで、パーマンというすばらしい経験ができたし、みつ夫さんとも出会えたのよ」
スミレはバードマンと初めて出会った時のことを思い出していた。
<あの風船は何だったのかしら?>
バードマンはレコーディング中のスタジオに突然現れた。その時、いるはずのスタッフの 姿がないのをスミレは不思議に思った。まるで、スミレとバードマンだけが時間の流れの 外側にいるような感覚だった。
バードマンには1号のように偶然?ではなく、明らかにスミレをパーマン3号にしようと いう意志があった。
<なぜ、私がパーマンに・・・>
みつ夫と同じようにスミレもその理由を知らなかった。
パーマンになりたての頃、スミレにとってパーマンは正義の味方だった。しかし、経験を 重ねるにつれ、それだけではない事がわかってきた。
パーマン活動は女優、歌手としての自分と通じるものがあった。それだけに、パーマンを やめるのは辛かったし、考える時間が必要だった。

スミレはパーマンとしての自分に終止符をうつ決心をした。
しかし、一つ問題が残っていた。
パーマンを辞めたスミレはパーマンとしての記憶を消されてしまうことになるが、みつ夫 が将来帰ってきた時、スミレの記憶はどうなるのだろうか。
みつ夫がパーマンである以上、その正体はパーマンでないスミレには明かす事ができない ことになる。しかも、スミレにみつ夫の記憶だけを戻すのは不可能だろう。
そうなると、スミレとみつ夫はもう一度出会いから始まる事になる。
「大丈夫。私、何度でもみつ夫さんを好きになれるわ」
ロケットを握りしめ、スミレは二人の強い絆を思った。

「すまん、すまん、遅くなって。ちょっと、野暮用があってな・・・」
街灯に明かりが灯る頃、バードマンがベランダから入ってきた。
スミレとコピーが真剣な顔つきなのを見てバードマンは言った。
「3号、ついにこの時がきたようだな」
「バードマンのことだから、もう、知ってるのね」
独り言のようにスミレはつぶやいた。
「その通りだ、3号。パーマンセットとコピーロボットは返却してもらう事になる」
「はい・・・」
スミレはパーマンセットを差し出した。
コピーは無言で一歩前に出た。
「スミレちゃん、ありがとう」
「コピー・・・」
次の瞬間、パーマンセットとコピーの姿が消えた。部屋は二人だけになった。
「3号、パーマンをやめる理由を君の口から訊きたい」
「英国にいくのは自分の夢をかなえるためです。あこがれの舞台に立ちたい、本場で勉強 したい。でも、それは私の本当の夢のために必要なんです。私、パーマンは正義の味方と 思っていました。でも、パーマンを続けていくうちにそれだけじゃない事に気付いたんで す。人々に夢と希望をあたえるのも大事な使命じゃないかと・・・。それは、女優、歌手 である私の夢と重なっていたんです」
スミレは自分が出した答えを自分に言い聞かせる様に言った。
「私は人々に夢と希望を与える人間になりたいんです。そのためなら、パーマンとしての 記憶を無くしても・・・」
スミレは静かに瞳を閉じた。
そして、バードマンはホルスターから銃を抜いた。

スミレの閉じた瞳から涙が床にこぼれ落ちた。
「君には、これは必要ない。パーマン3号」
スミレが瞳を開けると 銃をホルスターに戻しながらバードマンは笑顔で言った。
「私がなぜ、君をパーマンにしたかわかるかね。人々に夢と希望を与えるのが君の夢と言 ったが、まさにそのためなんだよ。私は君と同じ職業の人間をパーマンにしようとリスト アップしたが、厳しい条件をクリアしたのは君一人だった。そして、君はパーマンとして だけでなく星野スミレとしても多くの人に夢と希望を与えてきたのだよ」
呆気にとられるスミレに構わずバードマンは続けた。
「君がいつか、君の夢のためにパーマンを辞めるのはわかっていた。もっと多くの人たち に夢と希望を与えるためにね・・・」
「でも、なぜわたしの記憶を消さないの?」
その理由がスミレにはわからなかったし、まだ信じられなかった。
「夢と希望を与える。それはパーマンの大きな使命だ。以前の君はその事に気付いて いなかったが、それに気付いた今、その使命を続けていく君はパーマンだよ。これまでの パーマンとしての記憶も必要なものだ。それに・・・」
「君はマスクを外してもパー子なんだろ」
バードマンの言葉にスミレは涙が止まらなかった。
「みつ夫さん・・・」
「その1号だが、君のコピーを逢わせようと思う。今の君の気持ちはコピーが伝えてくれ るだろう。そのあと、コピーは新しい主人ができるまで君のコピーのまま眠りにつく事に なる」
「じゃあ、3号。2号と4号には君が勇退した事にしておく。まだ、君の事は明かさない 方がいいだろう」
バードマンは手をあげるとベランダから姿を消してしまった。
一人残されたスミレはロケットを手に夜空を見つめていた。

円盤の中でコピーはバードマンに訪ねた。
「野暮用ってみつ夫さんに会ってきたの?」
「さあ、どうかな・・・」
バードマンは笑顔だった。

季節はめぐり、ロンドンのテムズ川に架かるウエストミンスター橋を一人の少女が歩いて いた。街は秋色に染まり、少女の肩までとどく髪が少し肌寒い風に吹かれていた。
スケッチをしていた女の子が少女に気付き駆け寄ってきた。少女は女の子と言葉を交わす とスケッチブックにサインをした。
少女は欄干をひとつひとつ確かめるように歩いていたが立ち止まるとしばらく空を見上 げていた。
橋を渡り終えたところに大きなミュージカルの看板があった。ロンドンで話題のミュージ カルで全公演チケットは売り切れていた。
<すばらしかったよ。夢にもう一度チャレンジしてみるよ>
<自分に負けない勇気を彼女が与えてくれたわ>
ミュージカルは多くの人に夢と希望を与えていた。
その看板には空を見上げていた少女の姿があった。

(イラスト:カオスさん)


めぐりゆく季節 完

©アルペジオ